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ChiBiz Inside no.006

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Homeで勝てないのにAwayで勝てるはずがない

先日(2011年8月11日)から香港にて世界最大級のフードエキスポが開催された。世界30カ国以上の参加があり、日本からも多くの食品系企業や食品加工機械系企業が参加した。私は支援しているクライアントに、顧客の反応を確かめそれを中国市場進出の足がかりとするため、そして、投資家に対してクライアントの製品を説明するために出展を薦めた。

日本エリアの展示コーナーでは100を超す企業が参加していたが、その多くは宮崎、徳島、鳥取など日本の県や市の支援を受けており、企業単独での出展は少なかったようだ。幾つかの企業に出展の趣旨などについて聞いてみたが、多くは「今回、仕事で香港に来たのは始めて」「中国大陸には何のツテもない」という状況で、「まず、香港で成功して、それから中国大陸に進出する」つもりなのだという。「あれ?」と思い片っ端から聞いてみたが、実は半分以上の企業が香港や中国で仕事をしたことがまったくないらしい。

あるラーメン店のオーナーは、「地元のみで4店舗展開している。実は、こちらに来るのが始めてだが、東京進出をして2000万円、3000万円掛けて失敗するよりも中国で失敗した方がずっと勉強になる」と私に説明していた。なんとも勇ましく経営者としての意気込みは感じるが、私からすると進出するなら絶対に失敗して欲しくない。「中国だから失敗した」「中国進出は難しい」言われてしまうからだ。

私は自らが幾つかの企業や製品、サービスを海外に展開させてきた。その経験から言うと、彼らのような店が中国など海外に進出し成功するためには幾つかの条件があると思う。まず、そもそも中国を含む海外は「Away」であることをよく認識するべきだ。日本国内や地元であるHomeで勝つことができないのにAwayでいきなり商売をしても成功するとは思えない。少子高齢化、人口減少、経済鈍化する日本を憂く気持ちは分かるが、自らの商売が「どこでやっても成功する」構造になっていないのに海外に飛び出ても、成功は望みにくい。さらに、その企業がAwayである海外に出る場合は、「カネ」と「ツテ」が必要だ。カネは、海外に展開するための投資であり、ツテは、海外展開する場合のパートナーの存在だ。それらの関係について、今回は特に財務構造の視点から考えてみたい。

まず、カネについて考えてみる。そこで必要なのは、その企業の製品やサービスの「GP(Gross Profit)= 売上総利益」、つまり「売上-売上原価」が高い水準にあることだ。例えばGPの割合は50%以上が目標となる。この構造を持っていれば海外で少々安く売らざるを得なくなっても利益を確保することができるし、原価部分を現地調達など下げることができれば、高水準の利益を維持できる。海外進出のために資金を使っても十分回収することができるだろう。

GPがそもそも国内で販売している時から悪いと、海外進出に十分な資金、つまり販売管理費が使えないということになる。そして「NP(Net Profit)=最終利益」が稼ぎ出せなくなれば進出の資金は銀行からの借入れでまかなうことになり、負債が一気に増大する。そもそも海外進出はリスクを伴う投資であるから、できれば銀行から借入れるのではなく、自己資本で何とかしたい。

中国の市場変化はダイナミックで素早い。そのスピードについていくには十分な販売管理費を投入し、さらに売上げを伸ばす施策を実行する必要がある。日本では90年代のデフレ経済以降、販売管理費を使うことは悪であり、ドンドンこの部分でのリストラを進めてきた。しかし、中国のような成長著しい経済状況の中では、積極的に販売管理費を使ってでも営業力を強化し、組織を強化することが必要とされる。むしろGPが高い、そもそも収益力の高い製品やサービスにどんどん切り替えていくことで利益を出し、次の成長のためにコストを使うのが、成長市場にある企業の戦略だ。

特に技術に関しては、日中で期待されることが大きく違う点を十分注意する必要がある。日本は個別受注型の一品モノやサービスを高付加価値なものとして尊ぶが、中国のような成長市場では、量産効果がありGPが高い構造になっているものが好まれる。中国などの新興国は、日本の高い技術とそれを駆使した製品に期待する。けれども彼らが求めるのは、一品ずつ丁寧に作る技術ではなない。量産化によって低コストが実現された、単位当たりの収益力が高い製品やサービスを欲しているのだ。そのへんは、日本市場とはまったく様相が違う。

さらに「ツテ」について考えてみる。パートナーには、前述の原価削減のための現地仕入に貢献してもらったり、展開のサポートをしてもらったりすることで販売管理費を負担してもらうことになる。つまりいいパートナーがいれば、それだけ原価が下がり販売管理費が有効に活用できるということになる。しかし、パートナーにとっての儲けの原資は、その会社の製品やサービスから得られる利益なのである。彼らはパートナーでありただ働きをする「お人好し」ではない。結局GPが高い製品やサービスでないと原価も販売管理費も負担できず利益分配の原資がないということになる。

財務原則からみた単純な公式であるが、日本の中堅、中小企業のなかには、原理をまったく理解できていない会社が多いように思う。彼らはよく「成功報酬」などという。けれども、進出する企業の製品やサービスの収益力がそもそも低いとき、どうやって利益を分配するのだろうか。最初からうまく行かない構造なのに「うまく行ったら報酬を出す」などというのは、ほとんど詐欺に近い。Awayでうまく行くかどうかは、Homeで事前に点検できる。その最たるものが、この収益構造なのである。

中国の企業や欧米企業は、収益の分配や報酬については極めてシビアな考えを持っている。特に中国人は収益分配については相当にうるさい。なぜならば、仲間を誘って支援ビジネスや投資をやる場合が多いからだ。自分が損することはともかく、仲間を損させることは面子として許されない。これを称して日本の企業は、「中国人は利益がどうなっているのか最初からうるさい」とか「利益の保証をしろとは厚かましい」「彼らはケチだ」と不平を言う。

しかし、日本の企業の「進出すればなんとかなる」「中国は高度成長だからいちいち利益やコストのことは気にしなくても大丈夫」などという態度は、「よほどヘタなことをしなけければ誰でも成功できた」高度成長期の発想そのものだ。その発想で、「カネ」や「ツテ」の手当もせず、「海外進出は初めて」などという企業を県や市が集め、まさに護送船団方式で海外に送り出す。本当にそれで海外進出は成功するのであろうか。

2000万円使おうと、3000万円使おうと、それが個人のカネであれば許されるのかもしれない。しかし、それは貴重な経営資金である。そして、海外進出をするためには他人を巻き込み、従業員を巻き込むのだ。絶対に成功させるための勝算を練り、それを着実に実行する。これが経営者の考えるべきことなのだと思うのだが。★
(山田太郎)