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ChiBiz Inside no.009

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中国での「ありえない」商談、その実情と教訓

先日、日本企業が中国企業にある製品(機械)を売り込む商談に立ち会った。そこで繰り広げられた商談は、まさに日本と中国の商習慣の違い、考え方の違いを浮き彫りにしたものであった。何とか商談はまとめたが、日本側は何度挫けそうになり、何度「これ以上の商談を続けるのをやめよ」と思ったことか。その一部始終から得られる日中の商談の違いについて振り返りつつ、その場その場での教訓を書き出してみたい。

ここは中国上海郊外。中国側は、地元で機械製造と販売を手掛ける中堅製造メーカーである。一通りの工場見学を終えて、和やかな雰囲気で昼食をとり、いよいよ午後から日本側が売り込む機械の商談に入るところだ。

教訓1:食事の席では、どんなにハードな交渉が待っていても和やかな雰囲気が崩れることはない。逆に食事がいい雰囲気だったからといって商談は別であると心得た方がいい

教訓2:食事は、中国人にとって最も大切な時間。仕事や商談、見学が途中であったとしても食事の時間を遅らせることはまずない。仕事優先でしばしば食事が遅れる日本とは違う

日本からは、社長、海外(中国)担当取締役、担当営業、機械の技術責任者、通訳、私の6名。中国側は、社長、副社長、販売担当者の3名である。席につき、中国側の社長は長々と自社の歴史や地方政府との関係、技術開発に力を入れてきた説明を進めていった。日本では、会社の説明も製品の説明も担当役員やそれ以下の者に任せるケースが多いが、中国では社長が最もよくしゃべり、なんでも社長が自ら説明をする。たまに、担当の者が口を挟み説明を加えるが、すぐに社長が遮り細かい説明を続ける。会社の案内でも社長自らが説明することが多い。

教訓3:そもそも商談に社長が出てこない場合、あまりやる気がないと思っていい。それぐらい社長はどんな場合にも出てくるし、その場の大切な交渉や商談をそのまま部下に任せることは珍しい

次に、日本側の説明になった。日本側はきちっと説明書を作成し、プレゼンテーションについてもきちっと紙を用意する。しかし、この紙を中国側に渡すと、突然、中国側の列席者はまともに日本のプレゼンテーターの話を聞かずに、目の前で紙をどんどん先に先に読み飛ばす。日本では、プレゼンテーターの話が詰まらなくても礼儀として最後まで聞く(聞いている振りをしている事も多い)が、中国人は、関係がないと思った説明はまず聞かない。

教訓4:中国の人たちは礼儀を重んじるが、合理的でもある。結論こそが重要で、余計な説明は実は嫌われる

双方の説明が終わったので、中国側の副社長が切り出した。日本側の提出した見積もりを見ながら、「人件費が高い」「材料費が高い」といきなり値切り交渉に入ってきた。日本側は、突然のことに面食らっていたが、副社長は容赦ない。「人件費については、自分たちで何とかするのでここをもっと安くできないか」「材料も中国製で安い部材を使えないか」と攻めてくる。日本側は、「機械のメンテナンスはとても大切で、現地で十分教育を受けていないメンバーがやると壊れてしまう」「10年以上長持ちする機械は日本からの部品でないと賄えない」と反論する。しかし相手は納得せず、「中国側でも十分にメンテナンスは可能」「機械はまず3年持てば十分」と反論してきた。和やかな雰囲気は一変、価格をめぐって商談は非常に厳しい雰囲気に包まれていった。

日本側は「いい品質」「いいモノ」と繰り返し主張するが、中国側は「安いモノ」と強い口調で押し返す。この重い雰囲気を打開するために、日本側は「価格の問題はさて置いて、ほかのテーマについても話し合おう」と提案する。しかし、副社長は、「いや価格こそが最重要問題」と主張、この話を延々と繰り返すことになった。

教訓5:中国の商談では、価格の問題がとても大きい。日本製品を取り扱う中国企業は、安い中国製品との闘いになるので、価格は死活問題なのである

日本側が理解しておかなくてはならないのは、中国側は価格こそが最重要課題との認識から、商談前に関係者がストーリーをしっかり作っているということだ。むしろ、日本側の商談の進め方の方が行き当たりばったりだったりする。そもそも日本では、トップ同士での商談は「買うのは前提」ということで進められることが多い。見積もりはトップ会談での議題ではなく、基本合意後に担当同志で詰めればいいと思っている。だから日本では、価格が問題になっても「売る側」は価格を下げずに「おまけ」を付けてしのいだり、安くする場合はその代わりに数量を増やしたりと、長期的な取引関係を維持するために「痛み分け」というかたちで商談をまとめようとする。

しかし、中国では、見積もりや価格の問題こそが、トップ同士がいる間で解決しておきたい重要課題なのである。この問題が解決しなければ、トップが出席していようと工場見学がムダになろうと商談を決裂させてしまう。

教訓6:日本側は長い取引関係で損得のバランスを取ろうとするが、中国側はそれぞれの商談で利幅をきっちり確保しようとする

価格問題のために、とにかく見積もりをこれでもか、これでもかと値切り倒そうとする中国側。「日中友好」「○○先生歓迎」と赤い横断幕を会社中に掲げて歓迎してくれていた姿は何だったのかと日本企業の役員が不信感に襲われる瞬間だ。

「社に帰って再検討させていただきたい。もう一度、見積もりを作り直させて欲しい」と社長が切り出す。日本の社長は目の前で商談がもめているのは心理的に耐えられないのだ。社長のこの一言で今度は、中国側が日本側に不信感を持ち始める。「本当は、日本企業はわれわれに売る気はなかったのではないか」「中国側の利益については何も考えずに、日本製だというだけで根拠もなく高く買わせようとしているのではないか」「本当に売って儲けたいのであれば、とことん中国側に付き合うはずではないか」「なぜ、価格の話をこんなにも嫌がるのか」と。

教訓7:中国では利益はともに分け合うという意識が強い。だから、中国側の言い分も聞いてくれ、と相手が思うのは当然のこと

ここでやらなければならないのは、コーディネーターがブレークタイム(休息時間)を作ること。このまま煮詰めていくと並行線だ。さりとて、ここでいったん引き揚げると次はない。なぜなら、次回も同じことの繰り返しになるからだ。

ブレークタイムの間、日本側の社長が「社長同志、サシで話をしませんか」と切り出した。ビックリした中国側社長は少し考えて「いや、会議で話をしましょう」と日本側社長の申し出を断った。中国の社長は一人で商談に臨むことはまずしない。一人でしゃべり倒しているときも必ず腹心を同席させている。けれども、日本のように役員会で多数決を採るのとは違う。信じられる仲間の反応や意見を聞きながら、自ら決断するのだ。何でも自分で采配しているワンマン社長に見えても、必ず周りの反応は見ているのである。

教訓8:この場合、社長ではなく日本側のキーマンと中国側のキーマンが非公式に面談を行い、いくらなら折り合うのか数字を出し合うことが必要だ。闇雲に値切り倒しているように見えても、中国側はきちっと妥協できる数字を計算してもっている

ブレーク後、先に担当者間で煮詰めた数字より、さらに安い金額を提示してくる。話が違うと一度は席を立とうとする日本企業の社長。心の中では「やはり中国での商売は難しい」と中国でのビジネス展開全体に対して悲観的になってしまう瞬間だ。

しかし、だいたいそこで中国企業の社長が妥協案を出してくる。「先ほどの金額でいいからそれ以外のサービスを付けてくれないか」と。日本側は一同、「どこまでも中国側は値切ってくるのか」と思いながらもメンテナンス部品を当初半年間無償で提供することで妥協。中国側の社長から握手を求めてきた。商談成立の瞬間である。

最後の妥協案は、中国側社長の面子である。部下が交渉した金額で妥協されたら社長はいらなかったことになる。だから、社長が面子を発揮するために、プラスアルファを求めてきたのだ。

教訓9:最後は、みんなの前で中国企業の社長の面子を立ててあげることが重要

ほかの議題については、社長以下のメンバーによって後日調整が図られ、その後、何の問題もなくスムーズに事が進められた。支払いについても、当初日本側は「また期日や回数について難癖をつけてくるのではないか」と警戒していたが、2分割でスムーズに入金されてきた。

教訓10:近年、中国の中小企業はキャッシュフローが厳しく、分割の場合は支払いが滞ることが多い。だが、資金的に余裕のある大手企業はスムーズに支払ってくれる。すべての中国企業が支払いを遅らせるわけではない

中国での商談は難しい。しかし、細かいプロセスの中でその商習慣や考え方の違いをしっかり身につければ案外スムーズにいくことが多い。特に重要なのは、中国での商談では価格交渉において社長の役割が非常に大きいということだ。部下に任せがちになる日本企業の社長は、中国進出にあたっては肝に銘じるべきだろう。
(山田太郎)