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ChiBiz Inside no.018

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中国の恐るべき病院事情

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この日曜日から眼が痛い。多量の涙が眼尻からこぼれる。北京の砂埃にやられたのか?鏡をのぞいてみると右目の奥が白く腫れている。明らかに「物もらい」だ。午後からは痛みがひどくなったので、近くの大学病院に行くことにした。そこは、眼科の北京最大の病院で大学に併設する病院だ。

病院に着くなり、入口で異様な光景に出くわした。なんと寝袋やテントを立てて病院の前で立てこもっている一群がいるのだ。何のデモかと聞いてみると、診察の順番を待っている人の列なのだという。

「目が痛いのですが、どちらに行けばいいですか」とごったがえす受付で聞くと、「紹介状はあるのか、どの先生からの紹介か」と聞かれる。実は初診なのだと告げると、看護師は「この列に並びなさい」と、先ほど見た診察を待つ列の最後尾を指さすのだった。月曜日の診察を受けるために地方からもやって来た人もいるらしい。驚くことに皆、土曜日から並んでいるのだという。

北京や上海の大学病院では、こういった光景が至る所で見られるようだ。地方には、あまり権威のある病院がないという理由もあり、特に北京や上海の大学付属病院に患者が集中する。

知り合いの医師に電話をして何とか早めに診察をしてもらうことになった。診察室に入るとまず、服を脱げというので、服を脱いで腹を見せた。聴診器で腹の具合を探っている。「あの眼が痛くて病院に来たのですが」というとその医師は、うるさいなという顔をしながら眼を診察し始める。そして、ケツを出してと言われ、尻に一発注射。中国では、注射は腕ではなく尻に打つ。別の医師に聞いたのだが、この方が、血管等を外さず注射が簡単なのだそうだ。

そして、中国名物の点滴だ。とにかく中国の病院は点滴を打つのが好きだ。一人当たり年間平均で約4本の点滴を打つという統計もある。必ずと言っていいほど、中国の病院では点滴を打つ。そして、3時間400元なり。

点滴を打っていると、脇から薬の処方が行われる。何の薬が処方されているのか分からないが、この薬は400元だ、500元だと、診察をしながら薬を売り込まれる。日本では、薬の処方と医師の診断や治療は分かれているが、中国では病院が積極的に薬を処方する。いや、処方するというより、診断中に売り込まれるといったありさまだ。

そして、中国の医療機関では保険はきかず、事実上、自由診療のかたちになっている。私の友人が救急車で病院に運ばれたときは、一回2000元だったらしい。それで終わるわけもなく、処置室では「この湿布は400元、この塗り薬は300元、この処置をすると500元」といった具合に売り込みを受ける。こちらは命がかかっているわけだから「はいはい、お願いします」などと言ってしまう。すると、一度の入院であっという間に3000元ぐらいはいってしまう。現地の中国人の収入からすれば、途方もない金額だ。

賄賂も横行している。いい処置や手術をしてもらおうと思えば、医者への付け届けは当然だ。その金額いかんで命の値段が決まるといってもいい。だから、羽振りのいい医者が多い。しかし、中国での医師や看護師の地位は、日本のようには高くはない。日本の医師は、医学部を卒業し、医師国家資格を持つエリート中のエリートだが、中国では、そもそも医師免許そのものが怪しいものらしい。中国では、医師はエリートではなく、単なる技術者といった位置づけなのかもしれない。

中国政府はこうした医療体制を社会問題ととらえ、改善を急いでいる。よく考えればおかしな話で、中国はそもそも社会主義の国。それなのに、いつの間にか医療が高額になり、普通の人がまともな医療を受けられなくなった。このような状況になったのは、2000年ぐらいからだと思う。1990年代は、医療技術の問題はさておき、医療は無償で行われていたし、医師のモラルもずっと高かったと記憶している。

こうした状態だから、中国に赴任する日本人は、それなりの病気の場合は、日系の医師のいる病院や外資系病院の診察を受けるのが一般的だ。診察や治療のためにわざわざ日本に帰国するケースも少なくない。

中国の人たちの思いも変わらない。富裕層を中心に、医療のために日本に行きたいというニーズは確かにあるようだ。その期待に応えるべく、私も幾つかの中国の大手病院と日本の病院との提携をまとめようとしている。しかし日本の病院には、まだ外国人を積極的に受け入れるだけのインフラが整っていない。中国人患者の声として、特に言葉の壁が大きい。弱っている患者が直接医師に、症状を訴えることができない。通訳がいない時間帯には対応ができないなどの問題がある。だから、外国人の患者を受け入れているといっても年間10人ほど、多くても数十名程度といったところだろう。

一方、中国の医療ツーリズムを積極的に受け入れ、富裕層の多くが診察や治療で出かける国がある。それがオーストラリアだ。広東省周辺に展開する華僑なら香港から飛行機に乗ってオーストラリア各地の病院に向かう。英語さえできれば、オーストラリアでの治療は容易だからだ。中国からの距離はあるものの時差がほとんどない点も魅力だ。

これを、指をくわえて見ている手はない。医療ツーリズムのニーズ拡大は日本にとって大きなチャンスだ。医療技術の高さを世界に売り込み、看護のホスピタリティーを魅力的なサービスとして、今こそ売り込むべきだろう。

中国は、自国が世界最大の高齢化大国になることを予測して、医療技術や医療制度の高度化を急いでいる。日本のチャンスは、医療ツーリズムという患者を受け入れるばかりではない。中国の医師を日本に受け入れ教育したり、中国の病院の体制やシステムを改善するためのコンサルティングを手がけたり、多くのサービスが提供できるはずだと思う。★
(山田太郎)