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ChiBiz Inside no.028

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潜入!中国の自動車工場

「どんな車でも作れますよ」
そう豪語した中国の老板(経営者)は、私をとある自動車工場に連れて行った。自動車工場と言っても街の郊外にある工場だ。日本にあるような大手企業の巨大自動車工場ではない。1000坪ぐらいの敷地に3棟の工場母屋がある程度である。「コウジョウ」というより「コウバ」と言った感じだ。

ひょっとしたら通訳が「部品メーカー」を「車体メーカー」と訳し間違えたのではないかと思っていたが、確かにそこは自動車車体を製造しているメーカーだった。その証拠に、所狭しと部品が並べられている。半完成品の扉、ハンドル、タイヤ、圧巻だったのは、ある区画にびっしりと並べられたエンジンだった。

「このエンジンは自社製です」
そう説明するのは、ここの工場長。確かに日本製ではなさそうだ。多くの日本の自動車工場を見学してきたので、それくらいなら分かる。日本車に付いている様なエンジンではなく、農耕機についているような簡素なエンジンなのだ。現場では器用にそのエンジンを組み立てていた。組み立てラインなどはない。エンジンと車を持ち上げるクレーンが1台あるだけで、それを器用に使って組み立てているのである。

工場の片隅では、溶接が行われている。しかも驚いたことに、そこには単純ではあるがロボット型の溶接マシンが導入されていた。「このマシンも我々が独自に開発しました」と社長は言う。「日本に勤めていたことがあるエンジニアが中心になって設計しました。それぞれの部品は中国製です」確かに、自動溶接アームの先には中古の製造元が書かれている。社長の言葉を信じるならば、「オール・メイド・イン・チャイナ」だ。

「日本の設備は使わないのですか」と聞いてみると、「日本の設備は、高額ですしメンテナンスもできません。難しいコンピューター制御もついていて壊れると直す事ができないのです。むしろ、中国製は単純で動きがはっきりしています」とのこと。日本の部品に関しても、「エンジン一つをとっても、日本製品は優秀です。できれば日本のエンジンを使いたいですが、そもそも日本のメーカーは売ってくれません。自動車メーカーにとってエンジンは命ですから」という。

「われわれも一人前の自動車メーカーになるために、エンジンの開発に取り掛かったのです。全て自社製ではありませんが、部品は、全てメイド・イン・チャイナです」説明をしてくれたエンジニアは非常に誇らしげであった。

次の母屋に移動してみた。そこには、溶接したばかりのスケルトンの車の車体が置かれていたが、溶接の接合面は随分と粗い。所々、浮いた部分がある。こんな接合で大丈夫なのかと思い、そこを指摘すると、「これで十分だと思います。これまで、溶接で問題になったことはありません」との回答だった。日本の常識では考えられないが、こちらでは結果オーライ、問題がなければ、とりあえずそれでいいということのようだ。

そして、塗装工程。ここで使っている塗装のシステムについても丁寧に説明してくれた。日本の自動車メーカーも工場を積極的に見学させ公開しているが、塗装工程だけ見せてくれないケースが多い。むらなく、しっかりと塗装されていることは、その自動車にとっては極めて重要な品質ファクターの一つといえる。それだけに、各社は塗装工程を企業秘密にして競っているのだ。ちなみに、中国工場で使っていた塗装工程は、単純な吹き付け機械だ。3つの塗装設備があったが、140度と90度の温度を保っているという。蛍光灯を輝かせて、塗装状態をチェックしていた。

この工場の生産能力は、頑張って20台/日。150人近くの従業員がフル稼働状態なのだという。「安い車を求めて多くの人たちが買っていくので、次から次に注文がくる状態」らしい。実際には1000~1200万元(約100~120万円)で取引されているのだという。

もうひとつの工場では、トラックを生産していた。ここのトラックも全て自前で生産している。エンジンは、小さめな4気筒仕様だ。先ほどの農耕機の様なエンジンに比べればまだ高級そうだが、2トン以上もあるトラック用としては、何だか心もとないエンジンではある。

これらのトラックは主に東南アジア方面に輸出されている。そのほか、ここで作られた自動車部品は、部品として各国にも輸出される。この、部品の売り上げの方が、完成車よりも伸び率が大きいのだという。2015年のアセアン統合もあって、東南アジアの経済は活況なのだ。「東南アジアの華僑系企業からの注文がひっきりなし。インドネシア、カンボジア、ミャンマーなどからも注文が来ている」といった状況だ。

このような自動車工場が中国にはピークで4000社以上あったという。自動車を作ることはえらく大変なことで、日本、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、アメリカなどを始めとした先進国でなければ難しいことだと思っていた私は、この事実にかなりの衝撃を受けた。

「もはや何でも中国で作れる」と、多くの中国人は言う。考えてみれば当たり前のことである。技術は人間が習得できるものなのだから、技術の差によって作れなかったものは、その技術を習得すれば必ず作れるようになる。そして、それを達成することは大きな歓びをもたらす。今の中国には、その歓びを知るエンジニアが多くいるのだ。

「日本は、技術大国だ」と豪語してきたかもしれない。しかし、技術は「豪語すること」で維持、発展できるものではない。現場の地道な努力のくり返しがあればこそ発展していくものなのである。その努力を支える「達成する歓び」を日本のエンジニアたちは忘れてしまいつつあるのではないかと心配している。

ところが中国の現場には、この歓びがある。中国の人件費が高くなったから他国へのシフトを検討している企業が多いといわれるが、やっと技術で自立できる自信を持ち始め、その歓びで満たされた現場が中国には無数にあるということもまた事実なのである。★
(山田太郎)