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ミャンマーの中の中国

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ChiBiz Inside no.031

ミャンマーの中の中国

にわかにASEAN(東南アジア諸国連合)に関心が集まり始めた。2015年にASEAN統合を控えてのことだが、日本ではミャンマーが話題の中心になっている。そのミャンマーを商談で訪れ、こんな光景に出くわした。

「どれが本物の部品か分かりますか」
ミャンマーのヤンゴン市内のとある自動車修理工場での商談だ。日本から来てもらった自動車修理の専門家を連れ、現地で販売されている自動車部品を点検しているときのことだった。

「箱にはMade in Japanと書いてありますね」山のように机の上に並べられた数々の自動車補修用部品の箱には、どれにもMade inJapanの文字が並ぶ。英語の表記の横にご丁寧に日本の説明までついている。しかし、この日本語がいかにも怪しいのだ。

「日本人ならこんな説明文は書きませんよ。明らかに偽物でしょう。でも、中に入っている部品は、偽物か本物か見分けがつきませんね」

そう、この部品は「本物の偽物」なのである。つまり、中国のある工場が日本からの依頼を受け、日本の品質指導を受けて製造している部品なのだ。まったく同じ部品が日本に向けて輸出され、純正部品として日本で流通している。そういう意味では本物である。だが、流通ルートが正規ではない。その部品を作る中国の工場が、勝手に外国に横流しをしているという代物なのだ。

箱は、横流し分までは日本から支給してもらえないため、現地で製造している。つまり、偽物である。もちろん、「Made in Japan」というのも真っ赤なウソだ。

「こちらも見てください。これは明らかに中国製で偽物です」
この部品は、素人が見ても分かる粗悪品だ。しかし、ミャンマーではこの粗悪品が標準の保守パーツになっており、実際に多くの自動車に取り付けられている。日本から純正部品はなかなか手に入らず、入ったとしても高すぎる、ということのようだ。

つまりは、高い日本の部品はミャンマーでは売れない、だから流通量も少ないということなのか。そんなことを聞いてみると、現地の人たちは「それは違う」のだという。

「いや、現地の修理工場はみな日本からの純正部品を求めています。中国製の部品を
修理に使うと、必ず1年以内に壊れます。粗悪品は1週間も持ちません。これでは、我々修理工場の信用がなくなってしまいます。『全て日本からの純正部品で修理をして欲しい』と要望するお客様もたくさんいらっしゃいます。むしろ、高くても純正部品がいいと思っているお客様の方が多いのではないでしょうか」

意外な答えだった。しかも、この修理工場のオーナーが力説して言うのは、必ず日本から直接部品を持ってきて届けて欲しいというのだ。貿易というかたちをとると、途中ですり替えられたり、最初から偽物が入っていたりするのだという。

「中国製部品の場合、非常に精巧にできている場合も多く、自動車に装着して実際に走らせてみないと偽物と分からないものも結構あります。ただ、1週間もすれば決まって故障するので、使ってみれば分かるわけですが」

修理工場の中を見学して見渡すと、修理のための設備はほぼ中国製であることも分かる。「○○工廠」「南京○○製造」などの銘板が装置に貼ってあるのだ。

「使っておられる機材はほとんど中国製ですね」
「はい、そうです。修理用の機械類はほとんど中国製です。我々も中国から数年前に来た華僑で、これらを中国から直接持ってきたので、すぐに商売を始めることができたのです。ただ残念ながら、これらもよく壊れるのです」

確かに、ヤンゴン市内の自動車修理工場や中古車販売店を周ってみると、華僑が経営する店舗が多いことに気づく。

足を延ばしてヤンゴン郊外の現地自動車メーカーの生産工場にも行ってみた。ミャンマーでも、自動車製造まで手がける工場は数少ない。生産台数も乗用車を月産500台ほどとまだ少ないが、溶接や塗装も自前でこなし、別の工場では金型やダイカスト部品も製造している。主要部品はまだ輸入に頼っている状況だが、現地組み立て工場としては立派なものだ。

かつては、日本の大手自動車メーカーがミャンマーで自動車の現地製造を計画していたという。しかし、ミャンマーの軍政化で米国政府の顔色を伺う日本企業は、ミャンマーでの本格製造には本腰を入れず、結局は新車の輸出を続けてきた。それをみたミャンマー政府は、日本メーカーの現地での製造許可を取り消し、現地ミャンマー資本の企業にのみ自動車製造を許可することになるのである。

私が訪れた企業は、中古で輸入した韓国製バスのガソリンエンジンを天然ガス(CNG)仕様に置き換える事業から始め、数年前にはミャンマー国産車の製造を手がけるまでになった。専門の販売店もヤンゴン市内に構えており、新車の売れ行きは順調だ。価格は1台80万円程度。ミャンマーの自動車は大部分が日本から輸入した中古車で、100万円程度のものがよく売れるという。その価格よりも安い「新車」ということで、国産車もなかなかの人気を博しているようだ。

そしてこのメーカーも、現地資本といいつつオーナーは華僑なのである。彼は中国で苦労して自動車メーカーを立ち上げた後、ミャンマーにチャンスがありとみて十数年前に移住してきたのだという。ミャンマーに来て感じるのは、こうした華僑の力だ。どこにも中国人がいて、交渉や商談は中国スタイル。ASEANで商売をするにも、中国を学び中国流のビジネススタイルを身につけることは必須科目になりそうだ。★
(山田太郎)