ChiBiz Inside no.001


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●香港市場での日本企業の微妙な評価
●日本人的発想で中国進出をしたら・・・
●知名度アップは「三つのステップ」で

>>CONTENTS

【中国見聞記】香港市場での日本企業の微妙な評価

香港や米国では、上場企業を簡単に買って上場ができる。そんなことが本当にあるのか?

先週、私は、顧問先企業の役員と連れだって、IPO(新規株式公開)の準備のために香港にある大手証券会社のアンダーライター(上場の引受け業務)責任者と打合せを行っていた。香港は、IPOで2010年に米国を抜いて件数、調達総額で世界一となり、今や世界の主戦場となった。資金調達が日本では全くできないので、IPOを狙う日本企業も香港市場を大いに注目している。

香港のアンダーライターは、会議の冒頭から「リバース・マージでいきませんか?」と提案してきた。リバース・マージ(リバース・マージャー)とは、すでに上場している企業を買収し、そこを使って株式を公開するスキームだ。さてそのお値段は、なんと2億香港ドル(約24億円)。ちなみに今年の初めまでは1億香港ドル以下だったとか。

香港の投資家は、この買収企業は安いと考えている。なぜなら、上場企業の「箱」自体が売買可能だからだ。野球でいうと、大リーグの各チームが契約金を支払ってチームに選手を招き入れるが、試合で良い成績を残せば(つまり企業が利益を出し企業価値が上がれば)さらに高い値段でその選手(企業)を売買できる。赤字でさえなければ、業績が悪くても将来、本業を切り離して香港上場企業は箱として売れるということだ。しかもその箱は、保有している間は、社債やエクイティー(株式発行)を繰り返して資金を調達するために、大いに働いてくれる。まさに現代版錬金術だ。

「これって裏上場ではないですか?大丈夫ですか?」顧問先企業の役員が心配するのは無理もない。確かに日本の金融界では疑問視されるスキーム。だが、香港や米国など海外の金融市場では日常茶飯事に行われているのだ。「香港がご予算的に合わないようでしたら、アメリカOTCBBはどうです?」香港アンダーライターが畳みかける。「OTCBB」とは、米国ナスダック市場の新興市場である。そのお値段は、グーンと下がって「20万米ドル!(約1800万円)」とのこと。これも米国では一般的に使われる手法だ。

米国OTCBB市場は香港に比べれば人気がない。けれども、2000万円を払うだけで憧れの上場企業になれるのだから、考えようによってはずいぶん安い。ちなみに、私が日本のマザーズ市場で上場した際は、5000万円以上はかかったと思う。しかも、上場のために業績を伸ばし、厳しい審査を何度も受けるという涙ぐましい努力があって、やっと実現させたのである。

IPOは企業のゴールではない。あくまで企業が資金を調達する手段である。しかし、日本の新興市場では、上場後も資金調達は全く出来ない状態が続いている。日本であれ、香港であれ、企業自体が本質的に変わるわけではないのに、どの市場で資金を調達するかによって大きな差ができてしまうのだ。

こうした事情から、日本企業の多くが香港市場での資金調達、IPOを目指している。私の顧問先企業も多くは資金調達の場を香港やシンガポール、ソウルに求めている。日本での「香港IPO」に関する研究会や勉強会なるものは、どこも活況だ。

しかし、香港に行けば何とかなるというわけでもなさそうだ。香港のアンダーライターはいう。「香港に集まる投資家や資金は、日本の企業自体に何の興味もありませんよ。もう日本市場の成長性や将来性は期待できないと思っている。だから、香港の投資家は、日本市場や日本企業について何も知りません。日本の人口すら知りません。日本に興味はありませんから」

もちろん、日本企業がすべてダメというわけではない。「中国市場で売れている日本の技術には投資の価値が大いにある」という。「香港でお金を集めたいなら、その日本企業が中国市場でいかに競争力があるかを説明してください。そうすれば、香港市場のプレーヤーはこぞってその企業に投資するでしょう。私も真っ先に投資しますよ。必ずIPOできるから」

日本企業であること自体に何の価値もない。その企業の持つ高い技術、品質の高いサービスが中国市場に展開された場合に大きな富を生む可能性があるかどうか、そこだけに投資家たちの視線は注がれているのである。★
(山田太郎)

【失敗の教訓】日本人的発想で中国進出をしたら・・・

かつて、中国企業の事業を買収した担当役員の失敗談である。

買収先は、中国の優良企業の事業部門で買収時の業績は良好であった。扱っている製品は外国から仕入れたコンピューターソフトウエアで、中国市場における独占販売権も持ち代理店政策でも成功し中国全土への展開も図っていた。

なかなかよいではないか。でもちょっと気になることもある。例えば、買収企業の入っていたビルが老朽化し汚かったこと。悪名高き「扉がないトイレ」を使っていた。これでは中国人社員に気持ちよく働いてもらえないだろう。そう考え、資金を投入して事務所を移転、看板も新しく付け替えていよいよ事業を再スタートさせた。

新オフィスへ移転した直後の滑り出しはとても順調で、新スタッフが増え、オフィスは活気に満ち溢れていた。ここは一気呵成にということで、ERP(統合業務パッケージ)システムを新たに導入、全国での販売状況もきっちり管理できるよう環境を整えた。これで中国展開の管理面は完璧である。

それから3カ月が経った。しかし一向に売り上げが上がらない。その原因をスタッフに尋ねてみると「販売が好調なので在庫が不足して、販売をこれ以上伸ばせない、だから最終受注につながらない」という。なるほど中国の市場成長力は強い、であれば、すぐにでも在庫を増やし顧客のニーズに応えるべきだろう。早速、資金を再投入し、在庫を増やした。すると今度は、「引き合いが多くて販売員が足りない」という。もちろんそれにも対応した。追加採用で営業担当者を増員したのである。

その効果が上がってきたのか、ERPシステム上では販売実績の数字が徐々に上がってきた。販売予測の数字も上向きだ。そこでさらに在庫を積み増し、販売店拡充のために営業マンも再募集した。イケイケである。これが急成長を遂げる中国市場の実力なのかと驚愕しつつ、事業を拡大していった。

そのうち、妙なことに気づく。売り上げは上がっても利益が上がってこないのだ。利益どころか、売上金の未回収分がどんどん膨らんで、みるみるうちに会社のキャッシュが減っていく。

驚いて原因を探ってみると、現場では、勝手にダンピングをして販売していたのである。なかには、他の会社にも籍を置き、同じ顧客に抱き合わせで他社の様々な製品を売っている営業担当者までいる始末。もちろん、その担当者の出張代や給与は会社持ちである。

調査が進むにつれて、さらに深刻な状況が明らかになってきた。ERPシステム上での販売実績数量が売上金額とちっとも連動していないのだ。代理店や現場の営業担当者は、在庫を確保するためにERPシステム上の数値をせっせと入力する。けれども実態は、ただ同然でソフトを売っているケースもあった。

販売の報奨金制度も事態を悪化させていた。報奨金の支払いを売上時点としたために過度な押し売り販売となっていたのだ。当然、顧客からのキャンセルが相次ぐ。3回払いで販売すれば、1回目は払ってもらえても、2回目以降は回収できる保証はない。3回目まで回収するのは、ほぼ不可能と思ったほうがいい。大手企業を顧客とした場合も同じ。販売報奨金を売り上げ成立時点に払ってしまえば、誰もその後の売り上げを回収しようとはしないのだ。

こうして多額の報奨金をせしめた営業担当者は、一定期間を過ぎるとどんどん辞めていく。当社の製品を一度買った顧客は、当分の間は新たな製品を買ってくれない。だから、一通り売ってしまった営業担当者はさっさと転職し、同じ顧客に今度は他社製品を売ろうとするのである。

こうした状況は、完全に想定を超えたものだった。オフィス環境を整備して高い給与を支払えば、モラルの高い営業マンが入社し、会社のために働いてくれると考えていたのである。しかし、これはどうも日本的なやり方が中国でも通用するという思い込みだったようだ。給与が高いからといって、それで満足して「これ以上は求めません、ひたすら社のために尽くします」などという社員は当地にはまずいない。いや、日本にもすでにいないかもしれない。考えてみれば、ピカピカのオフィスだって経営者のエゴでしかないのかもしれない。「きれいなオフィス=会社の熱意→やる気を高める」などと単純にはいかないのだ。

「まったく中国のビジネスマンはなってない、悪いやつばかりだ」と憤慨してみたが後の祭り。在庫は膨れ上がり、人件費はかさむ。しかも、稼ぐだけ稼いだら、みなどんどん辞めていく。こうして事業からの撤退を迫られたのである。

中国では、資金が投入されれば全て使ってしまう。大切に使おうという発想はない。純粋なだけで、別に悪気はないのである。彼らは与えられたカネを目一杯使い、営業活動をした。それだけのことである。同様に、数量に対してインセンティブが与えられたら、どんなにダンピングをしてでも目標数量は売ろうとする。目標達成に対する心意気は相当なものだ。

その行動様式を正しく理解しなければ、中国でビジネスはできない。利益を出そうとするなら、何をいくらで売って、どう利益を出すのかをキチンと決めて進めなければならない。「利益を出してこそビジネス、それは常識だろう」と思うかもしれないが、それも教えなければ分からない。「利益を出すのは当たり前」というのは、日本人の発想でしかないのだ。

中国で仕事をすると、これらは全て当たり前のことだったのだと気づく。いや、日本が特殊なのであり、中国ばかりではなく経済発展する諸外国ではこれが当たり前なのかもしれない。それを知らなかったこの担当役員は、絵に描いたように、中国での失敗パターンを遂行した。そしていまも、多くの企業、多くの人たちによってその失敗は繰り返されている。

その根っこにあるのは、「そんなことは考えれば分かること」「会社のために社員が最善を尽くすのは当然」といった既成概念にあるのだと思う。自らのチャンスを求めて転職を繰り返す中国人は、会社を「あるときたまたま所属している組織」程度にしか認識しておらず、「雇われれば何でもやる」わけではまったくない。名刺交換で真っ先に会社名と肩書きを確認する日本人と、名刺などより誰の紹介かを重視する中国人とは、そもそも会社に対する考え方が違うのだ。

こうした、中国ビジネスを展開する上で欠かせない「グワンシ(関係性)」について、
次回さらに掘り下げてみたい。★
(山田太郎)

【セミナー】知名度アップは「三つのステップ」で

中国市場でビジネスを展開している日系企業の方とお話をさせていただいていて頻繁に聞くのは「どうも知名度が上がらなくて」ということです。多くの企業が同じ悩みを抱えておられるのでしょう。

「中国市場攻略はスピード重視」ということで、知名度に関しても即効性のある方法がいくつかあります。ただ、それらを場当たり的に進めてみても、大きな効果は望めません。知名度を上げ、同時に多くの方に正しく自社や自社商品を理解してもらうためには、きちんと戦略を立て、それなりの時間と手間と資金を手当てし、それを辛抱強く持続していくしかありません。「急がば回れ」なのです。

こうした「急がば回れ」的な知名度向上法にも様々なものがあります。その中で、最近特に注目されているのが、次に挙げる三つのステップによる方法です。

1. 自社サイトで良質なコンテンツを用意する
2. 広告宣伝活動によって、良質なコンテンツの存在をターゲット層に広める
3. ソーシャルメディアによって、さらなる情報の拡散を図る

これを計画的に実施すれば、必ず知名度向上、ファン増加というかたちで効果が現れてきます。こうして得られた一定の知名度を基盤にすることで、さらに費用対効果の高い知名度アップ策を効率的に打てるようにもなります。

この手法を採用して成功している企業の一つに、フランスに本社を置く大手電機メーカー、施耐徳(シュナイダー・エレクトリック)があります。昨年、胡錦濤・中国国家主席がフランスを訪れた際に、施耐徳の本社や工場を視察し、CEOと会見しました。施耐徳は自社サイトに特設コーナーを設置し、この時の様子を報じたCCTV(中国中央電視台)のニュース映像がいつでも視聴できるようにしています。プレスリリースのテキストをアーカイブとして置いただけでは伝わりにくい内容も、動画であれば分かりやすく伝えられます。見てみようという行動を多くの人に促すこともできるでしょう。こうすることで、効果的に、中国政府と自社との良好な関係をアピールすることができるのです。

さらには、こんな取り組みもあります。施耐徳は今年5月に、「2011中仏文化交流の春」というイベントのスポンサーになりました。その際、イベントのプレスリリースを関係業界の専門情報サイトに広く取り上げてもらい、同時に記事広告も出稿し、自社が経済の分野だけでなく社会的、文化的にも中仏の架け橋となっていることをアピールしたのです。

こうした一連の活動を施耐徳は、新浪微博(大手ポータルサイトSinaが運営する、twitterと同等の機能を持ったソーシャルメディア)の自社公式アカウントで報告しています。情報の拡散を図ってのことだと思いますが、ソーシャルメディアの活用は、検索エンジン対策の観点からみても大きな効果が期待できる方法です。多数の外部サイトから自社サイトへとリンクが張られるかたちになり、検索エンジンに自社サイトが「支持されているサイト」と評価されることになるからです。

施耐徳は、中国の経済界と社会に対して「中仏の架け橋でありたい」という明快な理念をもって上記のような個別の施策を実施しているようです。その理念をサポートする戦略として透けて見えるのは、上に挙げた「トリプルメディア戦略」です。自社所有のメディア(オウンドメディア)、広告枠を買うメディア(ペイドメディア)、ソーシャルメディアという3つのメディアを計画的に結び付けて使う戦略は日本でも話題になっていますが、施耐徳はすでにこれを実践し、大きな効果を得ているといえるでしょう。