ChiBiz Inside no.003


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●「面子(メンツ)」を武器として使え
●仕様変更をしている間に商機は消えていく

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【成功の裏技】「面子(メンツ)」を武器として使え

中国で取引を成功させるために必ず理解しておくべきことは、「面子(メンツ)」の重要性だ。

中国では「売掛金が回収できない」「すぐに会社をやめてしまう信用ならない担当者が多い」といった話をよく聞く。一方で、長年、契約書もなく口約束で多額の重要取引を問題なく成功させているケースもある。この違いはどこからくるのだろうか。

「製品を買っていただきありがとうございます。支払いはこの条件で。この内容をハンコ付きの契約書にまとめていただけませんか」。中国ビジネスの初心者だったころ、私はいつも食い下がるように中国側の相手にお願いをしていた。すると決まって、こう言われたものだ。「そんなに欲しければ何枚でも作りますが、こんなものに何の役にも立ちませんよ」と。「では、政府とか公的な証明のある書類にしてもらえませんか」とお願いすると、
「意味があるとは思えませんが、地方政府の書類ならお金を支払えば簡単に作れます」との返答。何だか釈然としないが、とりあえず作成をお願いした。出来上がってきた地方政府発行の書類をみると、右下に紅い星マークをあしらった××政府のハンコが燦然と輝いている。

けれども肝心の支払いは、一向に実行されない。「政府のお墨付きをもらった契約書まであるんですよ」と食い下がるが、先方は「代金を半額にしてもらえないか」という返事を繰り返すだけ。すでに納品した製品は「気に入って使っている」という。それでも約束の代金は支払わないというのだ。

しつこく請求するが、「支払えないものは、支払えない」「製品は返品するから取りに来てくれ」と身も蓋もない返事。先方はもう製品を使い始めているわけだから、返してもらってもそれはすでに中古品。売っても新品の半額にもならない。そのようなわけで必死で粘り、ようやく3回分割で払ってもらうことにした。

で、まずは最初の金額を回収。次は3カ月後だったが、支払い期限を過ぎても振込はない。あわてて請求すると「3回目は支払えないので、これで終わりにしてほしい」との突然の申し入れを受ける。それは困ると言えば「だったら2回目も払わない」と開き直られる始末だ。結局、3回目は支払ってもらえなかった。そして彼の言う通り、地方政府お墨付きの書類は何の役にも立たなかった。

この問題について懇意にする中国人ビジネスマンに相談したところ、「製品と現金は交換でないと絶対にダメ。2/3も払ってもらえたのはいい方よ」と慰められた。要するに、こういうことだ。支払いが終わるまではまだ「値切り交渉期間中」で、契約書があるから「終わった話」と思っているのはこちらだけ、支払いが完了してやっと交渉はクローズ(完了)と理解するべきなのだ。

彼らの感覚では、まったく代金を支払わないのは泥棒や詐欺だが、代金をとことん値切るのは「買い物上手」なのである。そして強引な値引きは、非難されるどころか商売上手とポジティブに評価されることすらある。最近は中国企業も考え方を変えてきており、約束した契約通りに事が運ぶケースが増えたように思う。それでも旧来でいう「商売上手」な相手は、油断できないほどたくさんいる。

そんな相手に負けないほど商売上手になるにはどうしたらいいのか。それは、中国で最も重要なもの、もしかしたら命より大切なものをうまく使うことだろう。すなわち、「面子」である。

例えば、相手が重要だと思っている人を相手との交渉の「仲介役」として巻き込む。もし取引で値切られそうになったら、その仲介役を引き合いに出し、「値切られたらその人にお礼ができなくなる」とか、「期日までに支払ってもらえないなら、代わりにその人に支払ってもらえるよう相談してみる」とやる。するとあっさり問題は解決したりする。交渉の際は仲介役に同席してもらい、「この取引は自分にとっても重要なものなんでね、よろしく」くらいのことを言い添えてもらえれば、申し分ない。

中国人にとって、面子はとても大切なものなので、相手の面子を潰してまでも値切ったりはしない。契約書の内容は守らなくても、面子は必ず守るのである。

日本にも「面子」という価値観はある。しかし、日本でそれが重視されるのは、企業や組織内においてである場合が多い。そのことは、日本ではどんな会社や組織に属しているか、どんな肩書きなのかが重要視されることと無縁ではないだろう。まさに、日本のビジネスマンは会社のエージェント、だから会社からの評価や面子を最も気にするのかもしれない。

一方、中国では「会社を超えた個人同士のつながり」こそが大切なのである。だから、名刺などあまり重要視しない。肩書きや名刺を複数もっている場合もある。会社と別のビジネスの話を平気でし出す人も多い。名刺の肩書きより、誰の紹介なのか、どんな人物がその人の背後にいるのか、どんな人物と付き合っているのかといったことのほうがよっぽど重要なのである。★
(山田太郎)

【失敗の教訓】仕様変更をしている間に商機は消えていく

前回、いかに中国の商習慣が日本とは違うかについてお話をさせていただいた。それを熟知していないと、商談の失敗率はぐんと高まることになるだろう。

一つの対応法は、中国の商習慣をよく知ることである。けれども、中国に駐在しているスタッフは、2年~3年で日本に帰ってしまうケースが多い。ようやく分かってきたころには任期満了となってしまうのである。

それを補うのは、現地採用の中国人スタッフということになるのだろう。けれども多くの日本企業は、現地スタッフにあまり裁量を持たせようとはしていないようだ。せっかく現地スタッフがいても、大型商談になると本社から部長とかの幹部が飛んできて「どんなことがあっても受注せよ。しっかり仕様を確定させて利益率もよく考慮し・・・」などと檄を飛ばす。こうして商談の準備は、すべて本社から持ち込まれた受注方針とプロセスに従って進められることになるのだ。日本の著名コンサルティング会社も、こうした海外販売プロセスの標準化を推奨しているのだという。この制度を採用すれば、海外現地法人で販売プロセスを変更することはご法度になるのだとか。多くの日本企業は、中国に進出することには熱心だが、どうも現地化には不熱心のようである。

対照的なのは、お隣の国の韓国だ。代表的な企業であるサムスン社も、強烈に現地化を進めている。現地に派遣されると、シェアを獲得して成功するまで帰国が許されない。同社には「地域専門家制度」があり、入社3年目の課長代理から毎年300名程度の優秀な社員を選び、世界各地に送り込むのである。この制度は1990年にスタートしているから、2010年までの間に4500名以上が派遣されたことになる。そもそも同社では、TOIECで920点以上がとれないと課長にはなれない。海外勤務を前提にしているからだ。そして、派遣された社員の多くは長期にわたってその地で働き、現地化する。これが今世界を席巻する韓国サムスンの世界戦略である。

日本企業も、まったく無関心というわけでもなさそうだ。その証拠に、「○○所長」といった肩書き持つ、日本語が話せる中国人スタッフの方にしばしばお会いする。けれど、彼らの多くは、本社から派遣されてくる日本人スタッフに意見を言うこともできないという。所長とは名ばかりで、通訳としてか遇されていない場合も多いようだ。そうした方に商談などでお会いすると、思わず「もっと自己主張して商談の前面に出たらいいじゃないですか」と言ってしまう。すると決まって「何でそんなことしなければならないのですか、私の会社でもないし、いつ辞めるかも分からないし」などという答えが返ってくるのだ。さらには隠していた別の名刺を私に見せて「そんなことより、こちらのビジネス一緒にやりませんか?」と勧誘されたこともあった。確か、最大手日本企業の現地スタッフの方だったと記憶している。

それはまずいと気付くのか、現地で採用するのではなく、日本でのビジネス経験が長い中国人スタッフを現地に派遣するケースもある。ただ、こうしたスタッフは通訳という枠からなかなか踏み出そうとしないようだ。こうした大手商社の中国人スタッフにこっそり「なぜ」と聞いたことがある。するとその方は、「実は私、ずっと日本で働いて生活してきたので、最近の中国のことがよく分からないので」と打ち明けてくれた。少なくとも中国に2年以上はいないと、最近の変化に追いつけないのだと。

グワンシ(関係性)という問題もある。中国人同士でも、同郷だったり、知り合いの知り合いだったりといったグワンシがないと「仲間」として本音の話をしてもらえないということがあるようだ。グワシンがない人は同じ中国人であろうと他人とまったく同じなのである。このことを知らず、日本企業は「言葉さえ喋れればなんとかなるはず」と考える傾向が強いのかもしれない。

こうした環境下で、どうすれば商談を成立させることができるのか。多くの中国人同士の商談を見てきた経験からいえば、答えは簡単である。機械を売るのであれば、「とにかく、御社にいいのはこの機械です。同じ機械を、○○も△△も買っています。お貸しできないので現場にみんなで見に来てください。その場で決めましょう。社長さん来てください」と言えばいいのである。売込むべき製品を松竹梅ぐらいにクラス分けしておき、難しいこと抜きで売り込む。

そのとき留意すべきことがある。値切りには応じてもいいが、タダで何かをしてあげたりはしないことだ。そして、商品を渡すときに必ず現金で支払ってもらうこと。分割にしたら、2回目以降は支払ってくれないことを覚悟しなければならない。これさえ注意しておければ、日本より商談は簡単、うるさいことはまず言われない。とにかく、彼らは日本企業と違い、滅茶苦茶儲かっているのだということを忘れてはいけない。

日本では、デフレでものが売れないから「お客様は神様」と何でもお客様の言い分を受け入れてしまいがちだ。モノの価値やサービスの効用よりお客様のわがままが優先されるのである。それでも損をしないように、時間を掛けて見積をしっかり作り、値切られたら仕様を落として対応するというやり方が身に染み付いてしまったのかもしれない。

この方法は、中国では通用しない。値切られたら仕様を変更するといっためんどうな手順を踏んでいると、商談そのものが消えてしまう。中国企業は、とにかくたくさんの先端製品を買いたがっている。高額のものでも、数度の商談で買うか買わないかを決める。社長がいれば、その場で決まることも多い。だから、シンプルに勧めればよい。これで何ができるか、他社と何が違うか、費用対効果はどうか。これだけの説明で十分なのである。値切られると困るなら、それを見越して価格を乗せておくだけでよい。価格を下げるために仕様など変更する必要はないのである。

それがなかなかできない。即断したがっている中国人社長を前に、ついつい日本人の担当者は、くどくどと細かい説明をしてしまう。それを聞いて中国人社長はこう判断するのだ。「技術を出し惜しみして売る気がないのだ」と。★
(山田太郎)