ChiBiz Inside no.021


中国人経営者がトヨタより訪問したい日本の企業とは

「本当に日本の製造業は、これまで本当に儲かっていたのでしょうか」
「中国で製造業の火は消えてしまうのでしょうか」
講義の参加者から質問が相次ぐ。先週末、中華商業連合会という中国全土の経営者の日本訪問団に対して講義を行ったときのことである。

講義では、聴講者から「中国のモノづくり企業全体も存続が非常に厳しくなってきた」との声が多く聞かれた。中国現地では製造業の利益率が4~5%程度しか確保できなくなっており、中国の他の産業に比べても非常に厳しいということだ。このままでは、中国からモノづくりがなくなってしまうかもしれない。そんな不安な気持ちを中国メーカーの経営者達は、私にぶつけてきたのだ。

日本のモノづくり企業は、1990年代以降、中国を意識しながら闘ってきた。バブル経済崩壊以降、中国をはじめとするアジアの各地に日本企業は進出していった。そこで、かつて自らが技術移転を進めてきた現地企業と全面的な競争をするという、皮肉な立場に置かれることになったのである。

ただ、日本を苦しめてきた中国のモノづくり企業も、いま曲がり角に立たされている。まず大きな問題としてあるのが労働者の賃金上昇によるコスト増。中国沿岸部での賃金上昇は、年率20%以上という。それでも雇用が確保できない。春節(中国の旧正月=毎年2月上旬)には労働者が地方都市へとUターンしてしまい沿岸都市部の工場には毎年戻ってこない。今、製造の現場は深刻な労働者不足に陥っているのだ。

こうしたこともあり、人に頼るのではなく、機械を積極的に導入する動きが顕著になっている。そこで、かつて日本の工程現場を監督していた日本技術者が中国の現場では引っ張りだこになっている。2012年問題(団塊の世代の65歳でも大量定年退職)を抱える日本にとっては朗報といえるかもしれないが。

雇用問題で苦しんでいるのは中国だけではない。ベトナムでも労働者確保が難しくなりつつあり、安い製品を作り続けるならインドネシアやミャンマーなどへ展開しなければならなくなっている。つまり、アジア全域でモノづくりを巡る大構造転換が起こっているのだ。

-日本の100年企業に学びたい-

「日本には100年以上続く企業が2万社以上あるそうですね」
「どうして100年も企業が存続できるのですか。トヨタの工場見学はもういいから、是非、創業100年企業を訪問させてくれませんか」

今回の訪問団の要望は、意外なものであった。毎年、日本の自動車産業を学べと名古屋地域を中心にトヨタの工場見学をして、松下幸之助の精神を学ぶとパナソニックミュージアム(松下幸之助歴史館)に行って、その後は、箱根の温泉と秋葉原のお買い物ツアーというのが中国人経営者達の来日コースであった。だいたいこれらのコースを見れば満足、それに私の講義を付けて日本と中国の経営の違いについて学ぶ、もう何年もこんなコースを主催してきた。

しかし今年は、いつもとは違う要望が出てきた。「どうしても日本の創業100年企業を訪問したい」「100年企業から学びたい」。挙句の果てには、もうトヨタはいいから、「金剛組(580年続く日本最古の会社)」に連れて行って欲しいなどと言い出したのだ。

これまで、未来志向が強かった中国人経営者達は、古めかしいものはいいから、日本の最先端の技術や経営を学びたいと躍起になっていた。私も彼らの要望を満たすために、常に日本の最先端技術や製品、それらを扱う企業の事例や訪問先をアレンジして用意してきたのだ。それがこの大変化である。これにはびっくりした。

「どうしたのですか、例年の訪問団とは随分違いますね」そう中国人経営者達に問いかけると、彼らは口々にこう言う。
「今、中国の企業はどんどん潰れています。設立しても、設立しても2年ぐらいで潰れてしまう企業が多いのです」
「日本にもバブル崩壊はあったはずです。それら経済の変化にも耐えながら長い間、安定して経営している企業の秘密を知りたいのです」
「先端を追っかけているだけが、経営ではないはずです」

要するに、彼らがいま求めているのは、「100年以上も続くモノづくり企業がなぜ存続できるのか」という素朴な問いの答えなのである。調べてみると、日本には創業100年以上の会社が2万社近くある。そのうち、200年以上が約1000社、300年以上が約400社もある。

私は老舗企業研究の専門家ではないので、中国人経営者の前でその秘密について語ることができなかった。そこで、急いで300年続く企業の役員にその秘密について素直に聞いてみた。するとこんな答えが返ってきたのである。「我々もなぜ、300年以上も存続してきたか、その秘密は正直言ってよく分からないのです。ただ、強いて言えば、経営に一喜一憂しないことかと…」

アジアにおける、日本の強み。それは強いイノベーションへの追及、最先端技術への追及だけではないのかもしれない。100年企業。サブプライムショックやリーマンショック、欧州危機など激変する世界経済の中で淡々と存続して雇用を守る企業が日本には多い。そのマネジメントスタイルが再び、日本の強みとして世界から注目されることになるのかもしれない。★
(山田太郎)