医療・福祉・教育の狭間にいる子どもたちの実態!担当部署もない「子どもホスピス」


3月12日、第7回「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会~こども庁の創設に向けて」を開催しました。

 

今回は、3名の講師の方にお越しいただきました。長野県立こども病院血液腫瘍科部長の坂下一夫先生から「小児緩和ケアについて」国立成育医療センターもみじの家ハウスマネージャーの内多勝康先生から「医療的ケア児への学校教育について」NPO法人横浜子どもホスピスプロジェクト代表理事である田川尚登先生から「横浜こどもホスピスが目指すものについて」ご説明をいただきました。

 

私も勉強不足で大変驚きましたが、日本では年間2,000~2,500人の子どもが小児がんと診断されています。子ども10,000人に約1人の割合です。そして、こどもの死亡原因を年齢別にみると、4歳までは先天異常が死亡原因の1位ですが、それ以降は自殺を除けば、がん(悪性新生物)が死亡原因の1位です。

出典)国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター

写真)内多先生のご講演(手前)、田川先生(奥)

 

まず坂下先生の講演では、長野県立子ども病院における緩和医療の取り組みについてのご説明がありました。長野県立子ども病院では年間5症例前後の患者さんが小児がんで亡くなっています。小児がんを発症した子どもや家族の多くは、療養場所として在宅医療を選ぶそうです。しかし、在宅医療を希望された患者さんの約1/3は病院への再入院が必要となります。そのうえ、長野県はとても広く病院へ通院することは大変です。また、病院で療養している患者さんの多くも、家に帰ることを欲しているそうです。しかし、在宅医療のニーズは非常に高いにも関わらず、その提供が難しいことが課題となっています。

 

図)坂下先生提供資料

 

また、在宅医療において小児緩和ケアを行うことは、さらに困難を極めます小児緩和ケアとは、余命が限られている病気子どもの身体、心、精神の 総合ケアで、家族支援を含むケアのことです。なぜ在宅医療で困難かというと、理由は2つあります。1つは小児の場合、介護保険が使用できないため、車椅子・介護用ベッド・付属品などを用意するのが経済的に大変だからです。2つ目は、介護する人が母親中心となり、休む暇がなく身体・精神ともに、家族の負担が更に大きくなるからです。

 

しかし、患者の意思を尊重して、在宅医療を導入することは大切なことです。そこで長野県立子ども病院では院内にファミリールームを設置しました。この取り組みにより、小児緩和ケアに必要な情報を関係者間で共有し、連携を強めることが可能になりました。

 

図)坂下先生提供資料

 

このように、日本で小児緩和ケアの概念は出てきたばかりで、その取り組みや環境が概念に対して追いついていない状態です。そして、それは医療と福祉を切り離して考えているからです。今回のご提言を踏まえて、「こども庁」では小児緩和ケアに必要なサービスを一元的に提供できるための環境整備の観点も非常に重要だと思います。

 

次に、内多先生の講演では、医療的ケア児と学校教育についてご指摘がありました。

医療的ケア児とは人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことを指します。下図のように、厚生労働省のデータによると、医療的ケアが必要な児童は全国で約2万人を超えています。このような医療的ケアの必要な子どもたちやその家族への支援は、医療、福祉、保険、子育て支援、教育などの他職種連携が必要不可欠です。

図)内多先生提供資料

 

内多先生からは、この医療的ケア児への学校教育が不十分であると、ご指摘がありました。そして、実際の例として、小学校6年生の“ももかちゃん”の事例を紹介いただきました。ももかちゃんは、医療的ケア児の1人で人工呼吸器を装着しています。ももかちゃんのように人工呼吸器をつけている子どもは、学校に毎日通うことができません。

 

理由は、学校にこのような子どもの支援が出来る人が不足しているからです。したがって、人工呼吸器を装着している児童・生徒が通学するためには、保護者の付き添いが必要です。親が校内で待機し、ケアを実施します。しかし、親が病気などの際は、付き添いがいないため通学ができません。また、学校側の取り組みとして自宅で教師が授業を実施してくれる訪問学級を実施しているところもあります。ですが、週3回、1日2時間と制限が設けられています。このように、医療的ケア児に必要な子どもの教育機会がきちんと確保されていない現状なのです。

 

内多先生の講演の最後では、ももかちゃんがビデオで、国会議員に向けてメッセージをくれました。「学校に行きたい」との訴えは、その場にいた大人たち全員の胸を打ちました。

日本国憲法第二六条には、教育を受ける権利が明記されています。また障害者権利条約にも、誰もが平等に教育を受けなければならないと書かれています。政府として、この法律を達成するために、必要な処置を講じなければなりません。

 

特に、医療的ケア児は医療とセットで療育と教育と福祉も考える必要があります。そのためには、一元的にサービスを提供する「こども庁」の設立は絶対に必要なものだと考えています。

図)内多先生提供資料

 

最後に、田川先生の講演では、2021年11月初旬にオープン予定の「横浜こどもホスピス」の取り組みについて説明していただきました。

写真)田川先生のご講演(奥)

 

内多先生の話にもあったように、医療的ケア児のいる家族は医療・福祉・教育の狭間で孤立し、精神的・体力的・経済的・社会的に大きな負担を抱えています。しかし、現状の公的制度では解決し難い課題がいくつかあります。例えば、LTC(life-threatening condition)と呼ばれる、早期な死を免れることが困難な病気を持つ子どもの「生きる」を支える環境や用意が、社会の側にありません。つまり、難病を持つ子どもが医療サービスを受けながらも、家族と一緒に過ごす場所がないのです。例えば、小児がんで子どもを亡くした親のニーズ調査によると、子どもと家族が一緒に過ごせて、身体・心・精神の総合ケアが行えるような、子どもが楽しく過ごせる場所を欲していることがわかっています。

 

図)田川先生提供資料

 

一方で、海外に目を移してみるとイギリスやドイツでは「子どもホスピス」と呼ばれる場所があります。これは命に限りがある、または命を脅かす病気と闘う子どもと、その家族にとっての「その人らしく生きること」を目指した、トータルケアを受けられる第二の家を目指した施設を指します。イギリスでは、遺族らによって40を超える施設が運営されています。

そして、寄付でその運営が支えられています。また、ドイツでは同施設が18つあります。運営費の約半分は医療保険が適用され、もう半分は寄付で賄っています。このように、難病と闘う子どもに対する支援に関して、日本は他の先進国と比較して、大きく立ち遅れています。

 

図)田川先生提供資料

 

田川先生は、愛娘はるかちゃん(当時6歳)の死という辛い経験から、この子どもホスピスを日本に設立する活動をしています。そして、今年の11月初旬に「横浜こどもホスピス」が設立される予定です。この横浜こどもホスピスのコンセプトは「ポジティヴ・ヘルス」です。これは、私がオランダに安楽死制度を視察しに行った時に、シャボット茜さんから聞いた話にも出てきました。ポジティヴ・ヘルスとは、健康を「病気でない状態」ではなく「本人主導で様々なことにチャレンジできる能力」と定義した考え方です。

 

実際に、オランダの医療は、病気を治すことが最終的なゴールとしていません。ゴールは幸せになることであり、患者のやりたいことを周囲(家族や医療従事者)が助けることを理想としています。「横浜こどもホスピス」でも、本人主導を基本とした医療を提供するポジティヴ・ヘルスを目指していると伺い、そのコンセプトに大変共感いたしました。「こども庁」でも、子どもを主導とし、子どもが求めるものを一元的な行政サービスとして提供することを目指しています。

 

図)田川先生提供資料

図)田川先生提供資料

 

今回3人の先生方は共通して、医療・福祉・教育のはざまにいる子どもたちの課題についてと、その解決のために、これらを連携させる必要があるとのご提言をいただきました。今回のご提言をもとに、どんな状況下の子どもであれ、子ども一人一人に寄り添ったサービスが迅速且つ一元的に提供出来るよう、最大限努力して参ります。