政策にはエビデンスだけじゃ足りない?こども達の「いま」を助ける


5月24日、私(山田太郎)が事務局を務める第16回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。

今回の勉強会では末冨芳先生(日本大学教授/内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員)から「効果をあげる子どもの貧困対策へ―子どもの権利、子どもの安全安心を中心に―」渡辺由美子理事長(NPO法人キッズドア)からは「コロナ禍の課題から考える子ども支援のあり方について」ヒアリングを行いました。

子どもの貧困という緊急事態に対して子どもを守るための支援に必要な財源確保が急務であること、そのために必要な「こども庁」のあり方について重要な提言をいただきました。

写真)会場の様子

 

まず、末冨先生からは「EIPP(Evidence Informed Policy and Practice)」とデータサイエンティストの増員について提言がありました。EIPPとは客観的な証拠を共有しながら政策を実行し改善するサイクルのことです。従来の「EBPM(Evidence Based Policy Making、エビデンスに基づく政策立案)」よりも、政策のゴールを共有した研究者やデータアナリスト、政策立案者、実行機関が相互に連携し合い政策改善サイクルを回す点が優っている(下図)との説明がありました。

図)末冨先生提供資料

 

写真)末冨先生

 

現状4者の連携がうまく取れておらず、エビデンスやデータが政策に反映されていなかったり、実行段階で課題が生じることが多々あります。例えば、貧困にあるひとり親世帯とふたり親世帯の支援の差がその1つです。労働政策研究・研修機構の研究によると、子どもの貧困はひとり親世帯にだけでなく、ふたり親世帯においても同様に存在します。(ディーププアに属するふたり親世帯は約4万世帯)

 

しかし、コロナ禍での児童扶養手当の上乗せはひとり親世帯の方が1ヶ月はやく支給されました。また、貧困レベルが同じにも関わらず、ひとり親とふたり親とで支援を受けられる所得額が異なるなど支援に差があるのです。このように、データを示すだけでは不十分で、データを政策立案に活かし実行したうえで評価する一連の流れが重要です。

 

図)末冨先生提供資料

 

つまり、冒頭に触れた「EIPP(客観的な証拠を共有しながら政策を実行し改善するサイクル)」が必要だと提言がありました。そして、こども庁では『Children First、すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)』という共通のゴールを持って、研究者やデータアナリスト、政治家、政策立案者、実行機関が相互に連携し合うことが大切だと説明がありました。

 

図)末冨先生提供資料

 

しかし、データ分析を行うデータサイエンティストが日本では圧倒的に不足しています。総務省統計局統計研修所によると将来的には25万人が不足する見通しとなっています。また、総務省の情報通信白書(平成26年)によると、統計学や機械学習に関する高等訓練の経験を有し、データ分析に係る能力を有する大学卒業生は3400人であり、データ分析の才能を有する人材は先進国の中でも最下位となっています。EPBMに熱心に取り組む小倉將信衆議院議議員からの質問にもありましたが、日本の大学には統計学部すら存在していません。そのため、上記の「EIPP」を実現するには、データサイエンティストの増加も同時に必要であるとの提言がありました。

図)末富先生提供資料

 

末冨先生の提言を踏まえ、「Children First」の政策が実行され、政策改善サイクルをしっかりと回す体制をこども庁でも確立できるよう、関係各所と連携しながら進めて参りたいと思います。

 

次に、渡辺さんからは①子ども関連支出の対G D P比②コロナ禍での少子化対策③高等教育への児童手当という3つの観点から、日本における子ども関連予算の低さについてご指摘がありました。

写真)渡辺先生

 

  • 子ども関連支出の対G D P比

内閣府の社会全体の子育て費用に関する調査研究報告書によると、子育て関連支出(家族政策支出+教育費支出)の対G D P比が日本は先進国の中で最下位となっています。家族政策支出と教育費支出をそれぞれ他国と比較したとしても(下図参照)、子ども政策に使われている予算が非常に少ないことがわかります。

図)渡辺さん提供資料

 

  •  コロナ禍での少子化対策

コロナ禍に見舞われた2020年の出生数は87.2万人(前年比-2.6万人)、出生率は1.36(前年比-0.6)と減少したことがわかりました。また、今年2021年には80万人をきる76.9万人という出生数予測が出ており、出生数が大きく落ち込む見通しであります。この原因は、コロナ禍で結婚する人が減ったことや、これからの人生の先行きが不透明な中で子どもをつくる人が減ったからだと言われています。

 

このようにコロナ禍で出生数が減ることは日本だけでなく、諸外国にも共通して見られる現象であり、各国では少子化対策強化のために様々な出産支援策を打ち出しています。例えば、シンガポールでは第2子への補助を従来の5割増しまで引き上げたり、イタリアでは子ども1人あたり月250ユーロ(日本円で約3万円)給付するなど少子化対策を強化しています。一方、日本では派遣型のベビーシッターサービスの利用補助を拡充し、妊娠中の女性に有給休暇をとらせた企業に助成するなどの施策を打っていますが、他国と比較すると十分な対策をしているとはお世辞にも言えない状況だ、との厳しい指摘もありました。

 

図)渡辺さん提供資料

 

  •  高等教育への児童手当

現在の日本の児童手当は、0歳から中学校卒業時まで支給されますが、高校生以降の児童手当はありません。しかし昔と異なり、今ではほとんど全ての子どもが高校に進学しています。実際、文部科学省によると現在の高校進学率は97%を超えています。加えて、高校生は中学生や幼児の時よりもお金がかかります。2万円の大学共通テスト検定料が高すぎて支払えず、受験を諦めてしまう貧困家庭が多く存在するのです。このように、お金のかからない0〜3歳児に手厚く、最もお金のかかる高校で児童手当が打ち切られるのは実態と合っていない、との指摘がありました。

 

 

図)渡辺さん提供資料

 

以上の観点から、日本の子ども関連支出は非常に少ないゆえに、子どもにその皺寄せがきてます。困窮家庭において「今」がとても大切です。「今、生きていけないと、1ヶ月生きていない。今を生きていける支援、それは、現金の支援です。 先々ではなく、今、助けて欲しい 」という声が保護者から寄せられおり、子ども支援の財源確保は急務だと力強い提言がありました。

 

所得格差は学力格差に連動・連鎖しており、「子どもの貧困対策」は急務です。私は、個々の背景が多様化していることからも、年収や年齢で区切らない衣食住・ライフライン・医療の保障、エビデンスに基づく政策立案を支える財源・人材の確保、子ども食堂や子ども宅食の支援も必要だと考えます。経済支援(現金給付・現物給付)、特定妊婦や孤立する保護者への伴走型支援、生活保護前のソーシャルワーカーの相談体制、多子世帯へのサポートの拡充も含めて、子どもたちの「今」、そして未来のためにスピード感を持って尽力して参ります。