ChiBiz Inside no.011


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●議事録が感想文になってしまうワケ
●中国の宴席で「酒を飲む」より重要なこと

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議事録が感想文になってしまうワケ

これまでの長い交渉が終わり、中国側、日本側の関係者全員出席による宴会が開かれた。「乾杯、乾杯」の嵐でどんどんアルコールの瓶が空いていく。大きな商談がまとまったときは、酒の格もどんどん上がっていく。今回は「40年モノ」のマオタイが登場。日本人にはピントこないかも知れないが、40年前といえば中国は文化大革命の真っ只中である。その激動の時代を生き抜いてきた酒は、そこらの酒とはぜんぜん違うのだ。瓶には大きな星のマーク。まさにこの酒が人民解放軍によって厳重に保管されてきたことを表す。こうして、ベロンベロンに酔ってしまう経営幹部の脇には、酒をひかえている日中双方の実務者がいる。彼らには、まだ大きな仕事が残っているのだ。それは、後日作成される契約書の基礎となる、今日の議事録をまとめることだ。議事録は中国側の通訳が中心になって記述することになっているので、日本側はそれをきちっとチェックしなければならない。

深夜になって、中国側からその議事録がメールで送られてきた。さっと目を通して、若干の修正を加え、相手に返信してから寝よう。そう思い、議事録のファイルを開けてみて、絶句した。その議事録に書かれている内容も決定事項も会議の内容とはまるでかけ離れているのだ。そもそも、日本側の主張、意見については一切記述がない。おおむね合っているは日付と参加者ぐらいのものだ。あわてて議事録を書いた担当者に電話をかける。

「何で決定事項が変わってしまっているのですか?」
「いや、変わってなんかいませんよ。多少の追加や補足はしておきましたが」
「だれに相談して、補足や追加をしたのですか?」
「誰にも相談していません。私の思ったことを記述しておきましたが、何か問題でも」

議事録作成についてはしばしば、日中の実務者の間で問題が発生する。私が参画した会議でも毎回発生するといっても過言ではない。それにはいくつかのパターンがある。

1.決定事項と現状記述が入り乱れる
中国語では、過去形は「了(ラ)」を付ける。けれど、実際の内容は過去のことでもこの了を付けなかったり、付けても聞こえにくかったりする。だから、本来は決定事項として議事録に入れておくべきことが、書き手によっては、決定(過去形)ではなく単なる事実(現在形)になってしまう。このことが、内容を曖昧にしてしまう。

2.自分だけの意見が記述される自らの意見、主張事項が中心に記述されていて、相手の主張や意見、反論など抜け落ちているケースがよくある。議事録の書き手は本来、客観的に議事の内容を記述すべきである。それができていない。自己主張が強い人が担当すると、それが顕著になる。書き手の意見だけを述べた感想文にしかなっていない場合すらある。

ただし、これらの問題が解決できれば安心、ということでもない。議事録に決定事項や約束事項がちゃんと盛り込まれていても、必ずしもその内容が遂行されるとは限らないからだ。多くの場合、決定事項は努力目標になってしまう。中国では「よりよく現状に合わせて決定事項を変えていく」という考え方が一般的なのである。決して悪気はない。「もっとよい解決方法があるのに、なぜ過去の決定事項に縛られなければならないのか」と彼らは考えるのである。

だからこそ、「ホウレンソウ(報告、連絡、相談)」を双方に徹底させる必要がある。ここで注意したいのは、中国側にはホウレンソウを強要しておいて、日本側はホウレンソウをしないケースが多いことだ。「中国側に約束を守らせるためのもの」ということで、何やら上司が部下を監督するような気持ちになっているのかもしれない。あくまでもパートナーであり、対等な立場で交渉や契約を行っているということを肝に銘じるべきである。

日本では、売り手より買い手の方が強く、役職が高い方が偉いという発想がついて回る。だから、完全に対等な立場でビジネスを進めるということが苦手なのかもしれない。しかし、中国語ではそもそも敬語がなく、面子を大切にする中国でのビジネスでは、双方は常に対等である。これは、社長と従業員との間にも当てはまる。

ある中国人通訳が言っていた。日本人は社長というとなぜ無根拠に敬うのか。なぜ言葉遣いから変えるのか。それが中国人には理解できない。日本の企業人には「社長さん、社長さん」と言っておけばみな気分をよくするから、その点は便利ではあるけれど。★
(山田太郎)

中国の宴席で「酒を飲む」より重要なこと

中国ビジネスでは、食事のことが何かと話題になる。なかでもよく聞くのが酒に関することだ。「食事の席が最も大切だ。酒が飲めないと仕事にならない」「どれだけ酒を飲んだかで相手の信頼度は変わる」「たくさん飲めば、それだけ大きなビジネスに繋がる」などなど。ちまたに溢れている中国ビジネス本にも食事にまつわる日中の意識の違いについて、多くのページが割かれている。酒については「絶対に必要」と主張するものが多い。けど、本当に酒が飲めないと中国ではビジネスができないのだろうか。

「お酒が飲めないので申し訳ありません」
先月、商談で貴州省貴陽市のある企業の社長さんと食事したときの、乾杯の席での第一声である。発言の主は、中国企業の社長さんだ。ちなみに貴陽は、アルコール度数中国No1といわれる白酒(バイジュ)の代表格、マオタイの故郷である。そんなこともあり、貴陽市の人は概して酒に強く、酒好きである。

しかし、この社長さんは、まったく酒が飲めないという。「それでよく出世できたな」というのが日本人側の感想だった。それでも乾杯は型通り行われたが、結局、社長はマオタイに口を付ける振りをしただけで一杯も飲まなかった。

実は、この私もあまり酒は強くない。最初のビールをグビット飲み干すところまではいいのだが、この後の酒は一切受け付けない。もう、顔は真っ赤でいい気分なのだ。「ここは商談なのだから、酒で正気を失っていてはならない」との思いもある。そう思っているのは、日本人側では私だけなのかも知れない。生来の酒好きに混じり、何人かは無理をしてグビグビ。案の定、後でトイレ行きとなった。まさに、酒が飲めない人にとってこの状況は苦行である。

しかし、これって、本当に必要な苦労なのだろうか。これまで多くの人達と食事をともにしてきたが、まったく酒を飲まない中国人経営者はたくさんいた。社長が飲むなら部下は無理してでも飲むだろうと思っていたら、そうでもない。コーラばかりを飲んでいる中国人スタッフも結構いる。「酒が飲めないと仕事ができない」という都市伝説は、あまり酒が飲めず、それでも20年以上も中国で仕事をしてきた私の実体験からいえば、ウソである。

酒のこと以外にも、食事に関する迷信がかなりあるように思う。たとえば、「料理は全て食べずに残すのがマナー」というものだ。すべてを食べてしまうということは「まだ食べられる」ということの意思表示であり、相手に失礼との理屈である。これも、中国ビジネス本では必ずといっていいほど書かれている基本中の基本とされるマナーなのだが、やはり実態は違う。皿に食事が残っていると「もったいないから食べて食べて」と言われ、最後は、テーブルには何も残っていない、などということはザラにある。不思議に思い中国人に「食事は残すのがマナーといわれるけど」と聞いてみると「日本ではそんな風に言われているのですか」と笑われる始末。どうやらこれも迷信のようだ。

「ホスト役のマナー」に関しても、ビジネス書はいろいろ指南する。だが、こちらもかなり実態とは違う。

よく書かれているのは、「ホストが食事を取り分け、口を付けるまでは誰も食べてはいけない」というマナーだ。けれど、中国でこれがきちんと守られているとは思えない。そもそも書記や市長、副市長、企業トップ(董事長など)などは、食事の時間に遅れて来ることが多い。その場合、他の人が「では、まず乾杯しておきましょうか」と客を気遣うのは中国でも同じだ。ホストが事を進めなくては食事は始まらないということではないのである。

では、やはりよく言われる「ホストが代金を支払うべし」ということに関してはどうか。これも必ずしもそうではない。ポイントは、誰がホストかということではなく、その食事の席を誰がセットしたかということだ。政府関係者で書記や副市長がホスト役だったとしても彼らが食事代をもつことなどあり得ない。彼らが会合のホスト役であったとしても、常に彼らは接待される側の人間なのだ。この場合、宴席をセットした人が食事代を支払うのは当然である。よく、「奥の上座の席がホスト席で、その人の席にはグラスにナフキンが刺さっていて、同時に支払いをする人である」などということを聞く。けれど、私はそのナフキンがホストのグラスにだけ刺さっているのを見たことがない。この20年、中国20都市以上で数知れず食事に出席してきたが。

ただ、「割り勘」については一つのルールがあることに注意したい。中国では食事に「割り勘」はないということだ。あくまでも食事をセットした人、あるいは事前に決められた人が全ての食事代を支払う。「いやいや、申し訳ないので割り勘で」と言う日本人がいるが、これは、相手の中国人の面子を潰すことになるので避けた方がいい。「割り勘」を受け入れるということは、自分がケチであることを認めることになる。それはあり得ない。大盤振る舞いでも相手をもてなし、面子を保ちたいと考えるのが中国人なのである。

それから、こんなことも。飲みすぎたホスト役の中国企業の社長さんが酔いつぶれて、食事の個室にあるソファでぐったりしていたことがあった。心配になって「大丈夫ですか?」「そろそろ宴席はお開きにしましょうか」と声を掛けたら、逆に怒られた。これも面子の問題。彼の部下やガードマン(多くの場合、元軍人の運転手兼部下)が社長をそっと担いで帰り、何事もなかったかのように宴会を続けるのが、面子を保つための正しい方法なのである。

このように、食事の席で気をつけるべきは、ビジネス書によく書かれている「鉄則」ではなく、相手の面子を立てることだ。それさえ守れていれば、マナーなど些細なことなのである。それより重要なのは、自分の考え方やビジネスに対する姿勢、話し合っている案件の取り組みについて真剣に発言することだろう。酒を酌み交わすのは、雰囲気作り。だから、酒を飲まなくても、酔った人以上によく喋ることだ。

政治家であれ、企業の社長であれ中国のトップで無口な人はいない。いつも彼らは自分の意見や考えをとうとうと述べる。一方、日本の社長さんはあまり喋らず、同行した事業部長や担当者クラスが代わりに喋るケースが多い。日本人社長はとにかく、わざわざ中国に来て食事に参加しているということだけで意味があると思っている人もいる。しかし、中国人経営者は、トップの人となりを食事中にチェックする。

中国人経営者に、食事の席で直感的に「苦手だな」「大丈夫かこの人は」と思われてしまったら、その後の商談はまず続かない。そうさせない、日本人のトップの前向きな態度こそが、食事席の唯一のマナーと心得た方がよさそうだ。★
(山田太郎)