ChiBiz Inside no.016


日本とは違いすぎる華僑の会議の実態

「もう決まったんですか?」
香港から帰国した次の日、いつものようにメールを開いてみてみると昨日、香港で打合せをした投資案件の決定について速やかに先方に伝えよとの内容である。私のクライアントへの報告書もまだまとまっていないうちから、華僑の投資家からの急げというプレッシャーだ。

中国人華僑の意思決定のスピードは恐ろしく速い。今回は、私が同席した華僑とのミーティグについて裏側をお伝えしたい。

香港の会議室につくと、まず、ゴルフから帰ってきたばかりの会長が仲間たちと談笑をしている。話題はもっぱら不動産。不動産に関する政府の規制に伴いジリジリと価格が下落している状況を、具体的な事例を交えて話していた。そして、広東省の工業受注の状況。欧州危機を受けて、欧州への輸出依存度が強い広東省全域の受注状況が極端に悪くなっている。それを懸念しているのだ。それに伴い、香港株も連日大幅に下落している。

ゴルフをしていても、日本のようにゴルフ談義に花が咲くことはない。互いのスコアの話やゴルフクラブの話、コースの良しあしなど、日本人だったらゴルフをする前からそんな話で延々と盛り上がる。しかし、華僑の資本家にとってゴルフは単なる運動で、それ自体の良しあしやスコアの出来について何ら関心はない。むしろ、メンバーがそろえば早々に切り上げて、もっぱら商売の話に花が咲く。

「最近の広東省の状況について君はどう思うのか」と、「会長」に話を振られた。華僑のグループのボス、つまり総帥はよく「会長」と言われる。社長はグループのオペレーションをする立場なので格下なのだ。会社の肩書きからは「会長職」になくても尊称してボスを「会長」と呼ぶことが多い。

「先月実施されるはずだった清華大学MBAコース主催のビジネスツアーがキャンセルになりました。理由は…」。
私は中国でいくつかの大学の教授をしたり、来日する中国のビジネス視察団に対し講義をしたりしている。ところが昨年末は欧州危機を受けて広東省からのツアーが激減、当初は放射能による影響かと思ったが、よく主催者側に話を聞いてみると、欧州危機への対応で、来日予定だった経営者がキャンセルせざるを得ない状況になったということだ。

まだまだ海外旅行が一般的ではない中国では、日本への訪問は一大イベントである。日本が初めてという経営者のなかには1年越しで準備を進めている人もいるぐらいだ。だから、それをキャンセルするというのはよっぽどのことがない限りあり得ない。次にいつ日本に来られるかわからないから、たとえ雨が降って霧で何も見えなくても富士山五合目への観光を取りやめたりしない。これが中国スタイルなのだ。その中国人経営者が日本への訪問を取りやめるなどよほどの事態だと言える。

「そんなに広東省の工業地帯は受注が落ち込んでいるのか」
「ええ、欧州向けの輸出は、特に昨年の10月末からゼロという会社も相次いでいるようです」
こういった生の情報に華僑は敏感だ。
「投資方針を少し変えなくてはならないかもしれないな」

さらに続く昼食の席でも地域の経済状況や日本での各社の経営状況についての話が続く。70歳を超える華僑の面々は、よく話し、よく食べる。油ギトギトのご飯に、チョウズメのソーセージをたくさん載せて、掻き込む様にほうばるのだ。彼より二回りも若い私でも、こんな脂ぎったご飯を食べ続けているとむせってしまう。なんと元気なことか。しかも、すごい量を食べ尽くす。それでいて、会長の体はスリム。私の盛り上がった腹をさすり「これでは駄目だ」という。健康の秘訣はお茶と運動だそうである。そうやって食事中はずっとビジネスの話と意見交換が続く。食事を楽しむという雰囲気ではない。とにかくビジネスが楽しくて仕方がないのだ。

午後からおもむろに会議が始まる。一応、アジェンダ(式次第)は紙で配られるのだがその通りに進むことはない。話さなければならない色々な案件があるなかで、気になる案件から話を始める。

会議の進め方は、私が見てきたところでは二通りのパターンがある。自ら会議を全て取り仕切り、ずっとしゃべくり倒すタイプと、ほとんど会議中は口をきかず、ずっと人の意見を聞いて最後におもむろに喋りだすタイプだ。大体は、どちらかのタイプでバランスが取れた華僑のボスをこれまで見たことがない。今回の会長はよく喋るタイプだった。

席順や発言についても年齢や役職、社会的地位などの差別などはない。必要な人が必要な場所に座る。部長が並び、その部下は後ろの席に控えるということはない。会議中も必要であれば、トップの発言中でも部下は途中で意見を挟むこともある。そのことが全然失礼だとか会議の秩序を乱していることにはならない。日本では中国のビジネスマナーに円卓の囲み方などを丁寧に解説している本も多く、席順などものすごく厳格なのではないかというイメージが強い。しかし、実際の会議の席は平等なのだ。華僑グループ内部の会議はみな、身内という雰囲気で進む。

最初の案件は、この華僑グループにとって最も重要な案件。気になることが次々と会長から指摘される。周りにいる面々は報告にタジタジだ。最後まで報告を聞くことはない。頭の回転も速いから最初の1分も経たないうちに、結論は何かを催促する。とにかく気が短い。

最初から実施すると決めているものと思っていた案件について会長は、「これはリスクが見えないからやめよう」とあっさり却下。私もこれには驚いた。これまで1年越しで組織全体で進めてきた案件をやめてしまったのだ。日本では、最後のトップの決断に至る状況では、ほぼGOなのだが、華僑のスタイルは、トップは自らの判断を信じてあらゆる大胆な決断をする。

部下からも再考するようにとの嘆願があるのかと思いきや、「決まったことは決まったもの」とあっさり引き下がる。華僑の判断ではリスクの大きさを嫌う。日本からは華僑トップの意思決定のイメージからは意外に思われるかも知れないが「最初から勝てるもの、勝算が高いもの」以外は決して実行しようとしない。大物であればあるほど、そういった決断をする。大胆に、緻密な計算をしている。華僑トップは会議に参加する前にすでにあらゆる数字に目を通していることが多い。会議はどちらかというと、案件を提案する人の自信や確かさを見ているのではないかと思う。日本のように、「まず会議で話してみよう」ということでは、あっさり却下されてしまうのだ。

次に私の番になった。というより、アジェンダの中にある検討事項から秘書を通じて順番を奪い取ったのだ。こうでもしないと、会議はいつ終わってしまうかわからない。携帯電話にもどんどん電話が入り会議が中断してしまうこともしばしばだ。これまでにも携帯電話がなり、少し電話をしてくると会議室を出てしまった会長がそのまま会議から立ち去ってしまうケースも何度かあった。こうなってしまわないうちに、大切な案件は先に話してしまわなければならない。次にいつ時間が取れるかわからないからだ。

私はいつも工夫して案件を5分ほどのDVDにまとめて会長にプレゼンテーションする。会議をしばしば中断する会長もDVDには最後まで見入ってしまう。英語が堪能な会長でもやはり中国語にする方がいい。

「なぜ、君はこの案件を特に採り上げたのか」
案件の内容について質問されると思いきや、この案件を会長に説明することになった理由を最初に聞かれた。
「この案件は、そのものの収益だけではなく他への波及効果もあり、グループとして最初にやるべき…」

そこまで聞いたところで、華僑会長はもう説明はいいと手を振る。「会長はお気に召さなかったのか」と気にしていると、「君が責任を取るというならどんどん進めなさい」とあっさりGOサイン。内容についてしっかり理解しているのか不安な所もあったが、GOサインが出たのだからこれ以上の説明は不要と次の案件に移る。

その場でどんどん決裁していくのも華僑流。だから、会長の判断があるその場に秘書も同席させないと議事録を残すわけでもないので、何が決まったのか組織に伝わらなくなることもある。だから秘書や事務方を会議に同席させるようにしておくことが重要だ。

私からの提案に対して会長は、即断即決をしたので、会長が本当に理解して判断をしたのかどうか側近に尋ねてみた。
「会長は、あなたの提案を事前に色々と調べていましたよ。特に数字に関してはシビアにみていたと思います」
なるほど、会議の段階では案件の内容については結論がでていて、あとは担当者の自信や勝算について確認していたのだと再認識した。

日本では担当者が案件について提案をする際、最初に感触をつかむためにトップにお伺いを立てることがある。こうしたケースでは、数字は詰め切っていない場合が多い。指摘された点を修正していくことで、トップや関係者の意向に沿ったものにするという修正スタイルなのだ。

華僑スタイルでは、それは通用しない。曖昧な提案は一発で却下される。一つひとつが真剣勝負で担当者も責任をもって進められるなら、トップもサポートしようというスタイルだ。

会議では最後の収益に関する数字や担当者の意思の確認が行われている。何も決めない会議、挨拶や顔合わせの会議、報告だけの会議を華僑は最も嫌う。よく日本人経営者は、「まず会ってみよう」と中国人経営者にアポイントメントを求めてくることがある。何かいい話でもあるのかと華僑の経営者が会ってみると結局挨拶だった。これでは、もう二度と会わないということになる。せっかく時間をとるのだから、何か実になることを求めるのは当然と考えるのだ。日本の経営者も少しは、その姿勢に学ぶべきかと思う。★
(山田太郎)