2024.12.23

虐待にあったこどもを守る!「子ども支援センターつなっぐ」を訪問

写真)代表理事の田上幸治先生(医師・Zoom)と飛田桂先生(弁護士・左)

12月10日、神奈川県横浜市にある、虐待や暴力などの被害にあったこどもの支援をワンストップで行う「子ども支援センターつなっぐ」を訪れました。ここには、こどもの声を聴き司法面接を行うことができる面談室があり、常勤スタッフ5名とインターン・ボランティアで運営されています。つなっぐの施設を視察し、代表理事の医師の田上幸治先生と弁護士の飛田桂先生からお話を伺いました。

■現在の日本の課題「虐待を受けたこどもこどものワンストップセンターがない!!」

こどもが虐待や暴力を受けたときに、「どこに相談したらいいのか?」「誰からどこで暴力を受けたのか?」「どんな悩みがあるのか」などといった内容や状況によって相談の管轄先がばらばらで、相談する側がどこに相談したらいいかわからないという大きな問題があります。その結果、迷っている間に証拠が散逸してしまったり、加害者に知られてしまったり、こどもが話さなくなってしまったりするということが起こっています。

この課題に対応するため、こどもの全被害について1か所(ワンストップ)で対応することが重要であり、日本でもこれができる機関が求められています。

この「つなっぐ」のような機関は、CAC(チャイルド・アドボカシー・センター)と呼ばれ、ワンストップでこどもの話を聴き、こどもにやさしい安全な環境で全身の診察を行い、どの機関につなぐ・振り分ける(トリアージする)ことが必要かを判断するための材料を提供する役割を果たしています。

■司法面接の際の工夫

司法面接は、こどもが犯罪の被害者、目撃者となった際に行う事実を確認するための聴き取りです。こどもが被害者等になった場合、警察、児童相談所、検察庁がそれぞれの立場からこどもに事実を確認することになってしまいます。そうすると、何度も被害状況を話すことでこどもの心の傷を大きくしてしまったり、さまざまな大人から質問されるうちに記憶や話の内容が変わってしまったりすることがあります

したがって、こどもが安心して話しやすい環境を整え、司法面接を行うことができる環境が必要になります。「つなっぐ」では、こどもと面接を行う部屋の壁紙や照明の色に配慮して圧迫感を取り除いたり、お絵かきや手遊びをできる道具をおいたりしています。

また、付き添い犬というこどもの心理的負担を軽減する犬が6匹いて、こどもによって犬を変えています。アメリカではゴールデンレトリバーが付添犬として活躍していますが、日本だと大型犬に慣れていないこどももいるため、小型犬も飼っているそうです。犬のぬいぐるみは、面接後に持って帰ることができます。

エレベーターを待つホールの壁紙には、なんとムーミンがいました。エレベーターを待つ間の少しの時間ですが、不安な気持ちや面談が終わって気持ちを切り替えて帰ろうとするこどもたちを送り出すときに、会話をするきっかけになるそうです。温かい雰囲気をつくるという方針が徹底されていると感じました。

■系統的全身診察の実施

「つなっぐ」が連携している神奈川県立こども医療センター内では、司法面接および系統的全身診察を行っています。系統的全身診察とは、性虐待・身体的虐待・ネグレクト・心理的虐待や種々の暴力の被害を受けたことが疑われるこどもに対して、専門的研修を受けた医師が行う全身診察の方法です。性器・肛門など性的な虐待が疑われる部分だけではなく、頭からつま先まで全身のパーツを一つ一つ丁寧に、こどもの話を聴きながら診察します。(参照:協同面接と系統的全身診察の手引き(日本子ども虐待医学会))

系統的全身診察を実際に行っている田上幸治先生によると、診察では、身体的外傷について調べること以上に、子どもの話を丁寧に聴き、傷つきから回復するプロセスとして重視しているそうです。児童相談所の職員の中には「なんで診察しなければならないのですか?二次被害になるからかわいそう」と言う人がいます。しかし、基本的に必要だと考えています。

田上先生からも「こどもが来たら、まずは学校の話などしてラポール形成をしてから、なぜ来たのかという話も聞いて、少しずつ話を聞きながら、診察をしていきます。話を聞いて、本人が嫌がっているときに無理やりにはしません。「病院に来る」という行為自体は特別なことではないので、自然な形で子どもが安心して診察の時間を過ごすことを大事にしています。初診で何か見つかるのは4パーセントぐらいしかないです。ですので「体は大丈夫ですよ」ということを伝えると、被害を受けた子どもが安心するための材料になります。」と教えていただきました

ここで行われている系統的全身診察を受けるこどもの半分以上は性的虐待の被害者です。

現在の仕組みでは、児童相談所は、外傷や本人の精神症状がないと支援を終結させます。系統的全身診察をすることはほとんどありません。しかし、小学生の時には自覚症状がなくても、思春期になってから大人になってから精神障害になるという人もいます。

田上先生は、「児童相談所は一人一人のこどもを追うことはしないので、長期的なフォローや長期的なケアをする場所が必要ではないか?」と問題提起されていました。

系統的全身診察を行う場所(神奈川県立こども医療センターの診察室内)つなっぐウェブサイトより

■アメリカにおけるCACの仕組み

アメリカでは、こどもが暴力を受けたり権利侵害をうけたりといった、「被害にあっているかもしれない」という疑いの段階で、24時間~72時間以内にCACにこどもを連れていきます。CACでは、司法面接や系統的全身診察を行い、その結果によって警察やCPS(日本でいう児童相談所)が動き始めるということがあります。

アメリカでは、司法面接や系統的全身診察を同じ施設で実施することができ、かつ、同じ建物の中に、警察や検察、CPSの派出所があって、それぞれの機関の担当者が常駐していることが多いです。そうすると迅速に動くことができ、情報共有がしやすいという利点があります。

提供:子ども支援センターつなっぐ

提供:子ども支援センターつなっぐ

アメリカでは、こういった仕組みが961か所あります。

私は、今年の夏に、ニューヨーク、マンハッタンにあるCACを視察しました。法的な担保があり、プロセスとそれぞれの役割がはっきりしています。

日本の場合は、児相の下でやっていますが、グレーな部分が大きいという印象です。法的な根拠を整備していく必要があります。そのうえで、CACを増やしていかなければならないと考えています。

■課題の整理

司法面接の位置づけと実施プロセス
日本の場合は司法面接をどうするのかということが課題になっています。基本的には、虐待の被害を受けたとしてもほとんどのケースでは司法面接はされていません。司法面接というのは、司法面接という名のとおり、司法にあたるかどうか、犯罪に問うかどうかということに焦点が当てられているため、被害の疑いがあるこどもが保護されたらまず話を聴かれるとうことにはなっていません。

    しかし、犯罪の証拠を見つけるための聴き取り以前の問題として、虐待をされた疑いがある子は傷ついているのだから、心のケアをしながら、その中で犯罪に問うべきものは犯罪に問う必要があると考えます。その面談が、司法面接の形になります。警察や検察が「起訴するかどうか」という観点だけではなく、本来の目的は、傷ついた子どものケアをすべきだということです。そういう新しいチャイルド・アドボカシーのケアのモデルを作る必要があります。

    専門性をもった医師や心理士の不足(専門家の確保)
    小児科医だからといって、誰もがこどもの話を聴きながら系統的全身診察ができるかと言ったらそうではありません。医学部でのカリキュラムや研修の中はほとんど取り上げられていません。また、トラウマインフォームドケアの研修を受けている公認心理士もほとんどいません。こちらについては、初期段階3日間の研修があり、広げているとのことでした。国として専門家の確保が急務です。

      系統的全身診察ができる病院のネットワーク化
      現状では、系統的全身診察の実施方法やこどもの心のケアに対するガイドラインやマネジメントシステムがありません。田上先生は「そういった基準がないままに、CACや系統的全身診察のような仕組みだけを求められている組織ができてくると形だけになってしまうので良くない。基準を決めてちゃんとやっていきたい。」と話していました。

      司法面接と系統的全身診察をワンストップでできるCACの仕組みを全国に一律で広げていくのは非常に難しいので、いくつかの病院でまずはモデルづくりを行い、全国展開するためのモデルを作っていきたいと考えています。

      NPOへの予算の確保
      CACを日本で導入しようとしたときに、どこかその機能を担うのかということが問題になるということを伺いました。児童相談所は対応件数が多すぎて、疑いがあったからと言って病院にもCACにも連れていかないことがほとんどですし、検察・警察にも申告しません。疑いがあったときに写真を撮ることも少ないそうです。また、こども家庭センターは調査権限がそもそもないので、虐待相談を受けても対応は難しいです。そうすると、どうやって対応しようかと逡巡している間に、けがの状態が回復して証拠がどんどんなくなってしまいます。

      そういったときに、つなっぐのような民間団体が間に入り、まさに各機関をつないでいくということが重要になります。委託を受けた第三者からできるということがあります。

      今回の視察で何より驚いたのは、こどもの命や尊厳の最前線で守っているみなさん、国の予算が一切出ておらず、来年も続くか一切わからないというような状況。これをきちんとこども家庭庁や地方自治体で予算化して、継続する仕組みをつくり、全国展開することが重要ではないかと考えています。


       課題を乗り越え実現すべき、全力を尽くして参ります。