2020.2.13

Ameba Prime「コインハイブ事件 逆転有罪に、なぜ?の声」に出演しました

2月10日、ネット上でも大きな議論を巻き起こしている「コインハイブ有罪判決」を取り上げたAmeba Primeに出演しました。
私はこの判決後、すぐに法務省の刑事局から実際に聞き取りをし、判決文を取り寄せ読み込んでいます。立法府という立場上、判決に対して言及することはできませんが、結論から申し上げると、今回被告人に適用された刑法168条の2および3は、早急に改正する必要があると思っています。そして番組内でもそれを強く主張し、立法府として改正に向けて取り組んでいくべきだと明言しました。

まず、コインハイブ(Coinhive)とは、サイトを閲覧した人のパソコン端末の処理能力を無断で使って仮想通貨を採掘(マイニング)するプログラムのことです。今回起訴されたウェブデザイナーである被告人は、自身のパソコンにこのプログラムを設置していたとして、刑法168条の2および168条の3「不正指令電磁的記録に関する罪」いわゆる「コンピュータ・ウイルスに関する罪」に問われました。2019年3月までに利用者21人が検挙されています。

そして今回の裁判の争点は、被告人が閲覧者に告知せず設置したコインハイブがウイルスに該当するのか。ということです。
1審(横浜地裁、昨年3月)では「サイトの閲覧者の意図に反して動くものの不正性は認められない。」と判断され、無罪判決が言い渡されました。しかし今回の2審(東京高裁、2月7日)で栃木力裁判長は、「プログラムは閲覧者が知らないうちにパソコン機能を提供させ、一定の不利益を与えるもので、社会的に許容すべき点は見当たらない。不正性が認められる。」とし、コインハイブは不正なプログラムにあたると指摘、逆転有罪判決を下しました。

刑法168条の2
1、 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成 し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
1、 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
2、 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

経産省のウイルス罪の定義は、「意図してなんらかの被害を及ぼす。」というのが構成要件です。しかし、今回裁判所等はこの保護法益(何を守るためにこの法律を作ったのか)は社会法益であるとし「コンピュータウイルスだけ」ではなく、一般に存在する全てのプログラムに対して、大事なのは「不正性」(=不正な指令を与える)であるとしています。

今回の事件は誰か被害にあった人がいて、その人が警察に被害届けを出したという事件ではありません。警察がこのツールに対して、「無断でユーザーにマイニングをさせていることが不正指令電磁的記録(ウイルス)供用や保管などの疑いがある」と判断して取り締まったという事件です。なんの被害はなくとも「コインハイブは社会秩序を乱し、一定の不利益を与えるプログラムと言える。」とし、社会的通念として不正かどうかを下しています。しかし、プログラムは同時に色々なサービスを持ちます。コインハイブに使われているJavaScriptは多くのサイトで広告表示や、グーグルアナリティクスにも使われています。首相官邸や各省庁のサイトを含めJavaScriptをオフにすればサイトは正常に動かなくなります。現代では当たり前の技術であり、テクノロジーが発達すれば社会通念は変化していきます。私は今回の判決で、曖昧な基準でウイルスが定義され未検証の技術が違法となる状態は技術者の萎縮を招きかねないと懸念しています。

今回の被告人は10時間家宅捜索されていますが、捜査に来た警察官は詳細がわからず、被告人が無罪を主張しても話が噛み合わなかったと言っています。Winny事件や私が取り組んだ人工知能に関する著作権法と同様、日本のデジタルへの遅れを痛感しています。行政、司法、警察の現場等、技術に対する再教育や専門官設置が不可欠だと思います。
また、オーストラリアのユニセフはこのコインハイブで寄付を集めようという動きもあります。非常に社会的に意義のあることだと思いますが、このような事例もフェアに議論されるべきです。

『法律を知らない人は罰せられますが、技術を知らない人は守られる。』技術常識からすると当然にも関わらず、技術を知る人が罰せられ、技術を知らない人が守られるということに違和感を覚えています。不正の概念が広い現状の刑法168条の2および3は、不正という文言を「被害を与えたもの」など限定的に解釈できるよう改正していく必要があると思います。今回の著作権法改正でもそうでしたが、現代の複雑に高度化する技術にも耐えうるような条文になるよう、一つ一つ細かく議論を積み重ねていきます。

(刑法168条という文言を168条の2および3と変更致しました。)