2025.6.24

障がいのある方が、日本の知を未来に残す!国会図書館デジタル化の視察レポート

「この仕事ができて本当に良かったです」との言葉は、政治家冥利に尽きる瞬間でした。6月23日、私は福岡県内の北九州・筑豊・筑後エリアにある障害者就労施設3か所を視察しました。テーマは、国会図書館資料のデジタル化。全国で延べ3.4万人以上の障がい者が関わっているこの事業は、今や「福祉」の枠を超え、「知のインフラ」を支える業務となっています。

■「この仕事ができて本当に良かったです」
最後に訪問した施設で出会った寺田さんの言葉が、今も耳に残っています。
寺田さんは週5日・1日7時間、国会図書館資料のスキャニングに従事。800ページを超える厚い本も、20ページずつ角度を調整しながら、1ページごとにシャッター音でタイミングを取り、集中力を保って作業を続けているそうです。

「スキャン作業は無心になれて、心が落ち着く。一番好きな仕事です。精神的な状況で休むこともありますが、この仕事を任せてもらえることが本当に嬉しい。以前は工場で働いていましたが、今の仕事の方が自分に合っていて、家族にも“いい仕事に出会えてよかったね”と言われます」と語る表情は明るく、力強く、そして誇りに満ちていました。

施設職員の方からも、こんな声がありました。
「○○さんにはこれくらいしかできないだろうと、負のラベリングをしていたのは私たちでした。今では想像を超えるスキルをつけ仕事をこなしてくれています」

現場では皆さんがプロ意識を持ち、誇りを胸に働いていました。まさに、障がいのある方が誇りを持ち、支える側に回る社会が、ここにありました。

■ 「ワンピースもスキャンしたい」
寺田さんには夢もあります。「『ワンピース』のような有名なマンガをスキャンしてみたいです。漫画やアニメも後世に残したい文化。将来そうしたデジタル保存にも関われたら嬉しいです」

実際、亡くなった漫画家の原画などの保存は急務です。メディア芸術センターのプロジェクトも始まっています。彼の夢が現実になる日がくるよう、私も尽力していくことを約束しました。

■ 「自分の仕事が、未来の誰かの役に立つ」
寺田さんの言葉で、最も心を打たれたのがこの一言でした。
「自分がスキャンした本が、誰かの未来に残ると思うと、誇らしいです」
この一言に、この事業の価値が凝縮されていると感じました。

また、 「この事業は本当に素晴らしいと思います!障がいを持つ人も、国会図書館も、書籍を利用する人も、みんながWin-Winだと思います。もっともっと広がっていって欲しいです」との言葉ももらいました。

■この仕組みは、こうして始まった
私が国会で「国立国会図書館の図書等のデジタル化を進めるべきだ」と提案したのは、2020年、コロナ禍の最中でした。国として約207億円の予算措置を行い大規模デジタル化を進める方針が固まった後、障がい者所得向上の取組みを進めてきた私は、「この重要な仕事を、障がいのある方々に担ってもらいたい」と強く訴えました。

なぜなら、それは単なる作業ではなく、「未来の日本を支える、価値ある仕事」だからです。ところが、私の想いは簡単には実現しませんでした。

当初は、障害者優先調達推進法や予決令についての周知が不十分であり、他省庁でも大規模発注の事例がなかっため、国会図書館も優先調達に難色をしめしたのです。しかし、厚生労働省や財務省も呼んで、何度も協議を重ね、その当時の上限額での随意契約発注が実現しました。この発注の上限額は政府調達協定によるものでしたが、条約の例外規定を踏まえた特例政令の改正も行い解決。この取組は、そのようにして全国へと広がっていったのです。

そして、現在では、多くの方が日本の知的資産をデジタルのかたちで後世に残す役割を担ってくれています。国会図書館に足を運ばずとも、オンラインで資料を閲覧できるようになり、「便利になった」「ありがたい」といった声が全国から届いています。

それを支えているのが、まさにこの現場の皆さんです。私は、この仕事を提案、実現した立場として、皆さんが一生懸命に取り組んでくださっていることを心からありがたく思っています。