2014.11.14

派遣切りが横行する?派遣法改正案とは(20141114)

■労働者派遣法改正案
先月末に衆議院本会議で労働者派遣法派遣法(以下、派遣法)の改正案の審議が始まり、
現行法の改正を唱える与党自民党と、反対を訴える野党民主党で、真っ向から対立する攻防が続いていましたが、
突然の解散風により、今国会成立見送りの方向となっています。

今回の改正案については、「非正規雇用の拡大へつながる(悪法への)改悪だ」という声も多くあるようです。
しかし、本当に改正案によって悪法となるのでしょうか。それとも、今よりも良くなる部分があるのでしょうか。
現行の派遣法と改正案の違いとはどのような部分なのか。また、私が考える問題点について解説いたします。

■意外と少ない?派遣労働
まずは対象となっている「派遣労働」というものに該当する方はどの位いるのか知る必要があります。
現在の日本の雇用労働者の割合は、正社員(正規雇用)が全体の64.9%(およそ3,334万人)、非正規雇用が全体の35.1%(およそ1,805万人)でその内パート・アルバイトが全体の24.3%(およそ1,250万人)、契約社員・嘱託社員が全体の6.6%(337万人)、残りの1.8%(およそ90万人)がいわゆる「派遣労働」で働いている方になります。(総務省「労働力調査」より)

よく問題視されている「正社員になりたくてもなれない」派遣労働者というのは、様々な統計があるため詳細な数字は分かりませんが、派遣労働者の全てがそのように思っているわけではなく、自由な働き方を自ら選んで派遣労働をしている方も多いようです。また、派遣労働者の内、希望すれば3~4割はその後、正社員雇用されているという報道もあるため、派遣労働として固定化されている方の実態としては、十数万人程ではないかと言われています。

こうして数字で見てみると、皆さんが思っていたよりも、意外と派遣労働の割合というのは少ないのではないでしょうか。

■改正案の具体的な内容とは
では改正案の具体的な中身を見てみましょう。

現行法では、専門26業種という限られた職種(※)については、派遣期間の受け入れに制限は無く、それ以外の業種については原則1年、最大で3年という制限がされていました。
(※26業種…コンピュータのシステム設計、機械等の設計・製図、放送番組の映像機器の操作、放送番組の作成における演出、事務用機器の操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、マーケティング、財務処理、貿易文書の作成、コンピューター、自動車のマネキン、ツアーコンダクター、建築物の清掃、建築設備の運転、点検・建築物の受付、科学の研究開発、企業の企画・立案、図書の制作における編集、商品・広告のデザイン、インテリアコーディネーター、アナウンサー、OAインストラクション、テレマーケティング、セールスエンジニア、放送番組の大道具・小道具)
ところが、この26業種という区分けは、実際の現場では通用しないことが非常に多く、問題となっていました。
(極端に言えば、26業種に該当するプログラマーとして勤務した場合、目の前で鳴る電話を取ることは、26業種以外の労働となるため派遣法違反となる可能性がある。)

改正案では、この26業種にという区分けを撤廃することで、より現場レベルで通用する法律に変更する事を目的としています。

■改正案が批判されている原因
前述したとおり、改正案では26業種を撤廃することが前提のため、業種による例外なく、雇用期間が一律で3年となっています。この部分が大きく取り上げられ、いわゆる「派遣切り」につながるということで、批判を集めているようです。
しかし、単純に期限が制限されただけではなく、これまでは労働者個人に関係なく「業務」に対して3年という規制がされていたのに対し、改正案では「個人」に対して3年という内容になっているため、一概に「規制緩和」や「規制強化」をしようという訳では無く、現行法をより現実的な内容に改正しようとしているように思います。

■派遣法改正についての見解
私は今回の派遣法改正については、「賛成」「反対」というよりは、もう少ししっかりと議論するべきだと思っています。
自民党は改正案を押し切りたい様子ですが、もう少し慎重に現状を調査し、内容を精査するべきです。また、それに対して、民主党のように何でも反対という立場をとっても、何も意味はありません。

確かに、現行法では26業種の存在など、今の労働環境にそぐわない部分が多々あるため、法律として機能していないと言えます。そういう意味では、より今の日本の状況に合わせ、改正するべきではないかと思います。
ただし、当然の事ですが派遣労働も含め、労働者を取り巻く環境をより良くするためには、派遣法の改正云々ではないと思います。

「同一労働同一賃金」という言葉がありますが、派遣法の改正よりも前に、まずは前提となる「労働に対する対価」の部分をしっかりと議論し、その上で正規雇用や非正規雇用の働き方や待遇をどのようにするか、ということが大事ではないでしょうか。

■派遣法よりも重要なデフレ対策
「仕事が無い」とよく言われていますが、現在の日本の有効求人倍率がどのくらいかご存知でしょうか。
実は、製造業や接客業などほとんどの業種で1.0倍を超えています。つまり「人手不足」ということです。
(特に高齢化が進む地方を中心に人手不足となっています。)
逆に事務職などの、いわゆる「ホワイトカラー」の職種は極端に求人倍率が低いのが現状です。これは人それぞれの生き方の問題ですが、選ばなければ仕事はあるということです。

一番問題なのは、ほとんどの業種で人手不足であるにも関わらず、一向に給料が上がらないということです。
それほど給料が変わらないのであれば、より恵まれた環境(ホワイトカラー)で働こうと思うのは、当然の心理です。
本来、人出が足りない状況であれば、給料というのは上がるものです。しかし、長く続いているデフレの状況に企業側が慣れてしまったことで、正常な企業運営が出来ずに、負の連鎖になってしまっていることが問題です。

日本全体の景気をデフレから脱却させる政策が最優先であり、それにより自ずと派遣労働などの労働環境も改善されると考えます。その上で、より現場レベルで通用する法律や法改正を考えることが重要ではないでしょうか。