2021.10.23

廣瀬爽彩さんの重大事態:旭川市教育委員会からヒアリングを行っての決意

1.はじめに

2021年9月21日、旭川市教育委員会を訪問してきました。目的は、廣瀬爽彩さんが亡くなった重大事態についてのヒアリングです。第三者委員会の調査が一向に進んでいない原因や今後の方針について、教育長らから話を伺いました。

最初に爽彩さんの死を知ったのは、報道を通じてでした。なぜ死に追い込まれる前に支援の手が差し伸べられなかったのか、どうすれば爽彩さんの死を防げたのか、国や社会はどう変わっていかなくてはならないのか、本当に多くのことを考えさせられました。

報道を追っていくうちに爽彩さんが亡くなった事案について、学校や教育委員会そして第三者委員会の対応に大きな問題があると感じるようになりました。特に、せっかく制定された自殺防止対策推進法が全く機能していないことに危機感を覚えました。そこで、同法を所管する文部科学省からの聴き取り等を重ね、きちんと法の趣旨が全うされるために旭川市教育委員会等へ指導や助言、援助を行うよう要請しました。それを受けて文部科学省は、担当課長を旭川に派遣する等の対応をとってくれましたが、残念ながらそれでも事態は好転しませんでした。

そんな中、8月30日に旭川市教育委員会が記者会見を行い、より丁寧に遺族に対応するとの方針を示しましたが、それから2週間たっても、一向に調査は進みませんでした。

そこで、この事案に対する問題意識を同じくする鈴木貴子議員より菅原範明旭川市議を紹介してもらい、旭川市教育委員会からヒアリングを行う場を設定いただき、なぜ調査が一向に進んでいないのかを確認するため旭川に向かいました。

2.旭川市教育委員会からのヒアリング内容

冒頭、黒蕨教育長より、「亡くなれた爽彩さんのご遺族の意向を汲んで調査をしていきたい。具体的な活動には至っておらずご批判はあるが、しっかりと対応を進める。」との話がありました。

その後、限られた時間でしたので、私から重要なポイントについて質問を行い、それに対する回答を受けるという形式でヒアリングを行いました。私からの質問と旭川市教育委員会からの回答の概要は以下のとおりです。

Q1
旭川市教育委員会は、爽彩さんへのいじめがあったと認定しているのか。

A1
爽彩さんへのいじめがあったとは認定していない。
2019年に爽彩さんが川に飛び込んだ事件については、市教育委員会として対応しており、市議会にも報告しているが、いじめという認定は行っていない。
学校においていじめと認定していないということだったので、市教育委員会もそのように考えていた。
いじめがあったとの認定をしていないことの当否については、今回の第三者委員会において学校と市教育委員会の対応についても調査することになっており、お答えするのが困難。
※ 第三者委員会では、いじめの有無も含めて調査している。

Q2
2019年に爽彩さんが川に飛び込んだ事件は、学校外での事案であったためにいじめと認定していないのか。
※ 法律上、学校外において行われた行為であっても「いじめ」にあたる(法2条1項)

A2
そうではない。
2019年当時から、学校の内外を問わず「いじめ」にあたることは知っていた。
爽彩さんとかかわった児童との関係、警察からの情報を総合的に判断して、いじめとは認定しなかった。

Q3
爽彩さんについて「重大事態」(法28条)との認定を行ったのはいつか。

A3
今年(2021年)4月22日に開催された、旭川市総合教育会議において重大事態に当たるとされたので、それを受けて認定を行った。
2019年に爽彩さんが川に飛び込んだ事件について対応した際は、重大事態との認定を行っていない。

Q4
今年(2021年)4月に爽彩さんについて重大事態との認定を行ったことを受け、2019年時点で既に重大事態であったとの遡っての判断はなされているのか。

A4
そのような判断はしていない。

Q5
第三者委員会の公平性・中立性は確保できているのか、遺族推薦のメンバーは入っているのか。

A5
第三者委員会のメンバーは各団体からの推薦に基づいて選定している。
当初の推薦では利害関係者が2人いたため、辞退してもらっている。
遺族推薦のメンバーはいない。
しかし、遺族から弁護士の委員を増やしてほしいとの意向があったので、それには応じている。

Q6
第三者委員会の活動に関して日程調整や会場確保、資料作成等の庶務を行う「事務局」の公平性・中立性は確保できているのか。

A6
旭川弁護士会から、日弁連ガイドラインにおいて、事務局は「第三者委員会の公平性・中立性の確保の観点から、なるべく教育行政・教育業務に関与していない部署の職員を担当者とするなどの配慮が求められます。」とされているとの申し入れがあった。
これを受けて、事務局については、学校運営の指導助言に関することや児童生徒の事故報告に関することを所管する市教委の「教育指導課」から、市教委の総務等を所管する「教育行政課」に移した。

Q7
予算がない、専門的な人員がいない、そういった理由で調査が進んでいないということはあるのか。

A7
そういうことではない。
ただし、専門委員への報酬は条例で日給7700円と定められており、それが弁護士等の専門家への報酬として低いことは認識している。
また、市内だけで専門的な人員をそろえるのが難しいといったことはある。

Q8
重大事態については、速やかに、第三者委員会において、「質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行う」(法28条1項)こととなっているが、今まで具体的にどのような調査が行われたのか。

A8
まだ具体的な調査は行われていない。
アンケートも行われていない。
教職員への聞き取りも行われていない。
児童生徒への聞き取りも行われていない。

Q9
なぜ調査が一向にすすんでいないのか。

A9
爽彩さんのご遺族から文書で聞き取りを行ったうえで、アンケートと聞き取りを行う予定であるが、ご遺族からそのための陳述書の提出がないためと聞いている。

Q10
第三者委員会の最初の会合があった5月21日から4か月も経つが、何をしてきたのか。

A10
第二回の第三者委員会の際に、市教委から第三者委員会に大量の資料をお渡ししているので、その確認に時間がかかっている。
また、どのような段取りで調査を進めるのかの検討にも時間がかかっている。

Q11
いつまでに第三者委員会の報告がなされるのか。

A11
市教委としては11月末を目安としたいと考えていた。
しかし、6月4日の第2回の第三者委員会の会議で、委員長から11月末という目安は白紙にするように言われている。
具体的にいつまで報告がなされるかは第三者委員会に任せている。

Q12
爽彩さんのご遺族から文書で聞き取りを行った上でアンケート等を進めるとのことだが、学校や市教委、第三者委員会からの十分な情報提供がなければ、遺族側において陳述書を作成するのは無理ではないか。遺族側への情報提供は行っているのか。

A12
爽彩さんが2019年6月に川に入ったことを学校と教育委員会が把握した際、関係児童生徒からいろいろと聞き取りをして、事実関係の把握をした。その把握した事実については、その都度、保護者に口頭で情報提供している。
ただし、学校が調べた資料について爽彩さんの保護者から弁護士会照会で開示の要求があったことについては、開示の目的に「損害賠償請求のため」とあったので、学校側が拒絶していると聞いている。

Q13
遺族と第三者委員会の信頼関係が破壊されてしまっており、このまま調査が進まないのではないか。

A13
遺族と第三者委員会がうまくいっていないとは認識していない。

3.ヒアリングで浮き彫りとなった問題点

旭川市教育委員会からのヒアリングを受けて、①いじめの積極的な認知を可能とする仕組み、②中立・公平で専門的な第三者委員会、③第三者委員会によるいじめ重大事態の調査の期限設定の3点が大きな問題として浮き彫りになりました。

⑴ いじめの積極的な認知を可能とする仕組みの必要性

爽彩さんの事案について、これほどまでに問題が大きくなった最大の理由は、学校も教育委員会も、いじめがあったことを頑なに認めてこなかったことにあります。

いじめ防止対策推進法上、学校や教育委員会は、いじめの早期発見のための措置を講ずるものとされています(法16条1項)。法律上の義務となっているので、相談体制の整備等は形式的には進んでいるようです。

しかし、相談があったのに、学校や教育委員会が「いじめ」がないとするケースが後を絶たちません。爽彩さんは、勇気を振り絞って助けを求めましたが、いじめ防止の実効的な対策はとられませんでした。

報道等で次々と明らかになる事実からは、爽彩さんの案件が「いじめ」に当たることは疑いようがないと思えますが、仮に「いじめ」に当たると明確に判断できなくとも、本件では対策が講じられるべきでした。法律上、「いじめ」があったと断定できなくとも、重大な被害の発生や相当期間の欠席がいじめによるものとの「疑い」があれば、「重大事態」として対処しなければならないとされているからです(法28条)。少なくとも、爽彩さんの案件が「重大事態」に当たることは明白だったはずですが、学校も教育委員会も法律上義務付けられている対処をしなかったのです。

このようなことが続けば、相談しても無駄であるというあきらめが広がり、いじめ防止対策が行き詰ってしまいます。そのようなことは絶対にあってはなりませんし、重大な被害が発生したり相当期間の欠席が起きる前に対処するためにはいじめの積極的な認知が不可欠ですので、それを可能とする仕組みづくりが必要です。

現状、いじめはあってはならないものであり、いじめがあれば学校や教師の責任を問う声が上がり、校長や教師の評価に影響する場合もあると言われています。そのため、学校や教師による積極的ないじめの認知は期待できないのが実情です。法律上いじめを防止する責任を負っている教育委員会による積極的ないじめの認知も同様です。

「いじめはあってはならない」という点について異論はありませんが、それを強調しすぎるといじめの問題が顕在化しなくなり、対策が後手後手になってしまいます。いじめに対して迅速かつ的確な対応を進めるには、「いじめはあってはならないが必ず起きるもの」との認識に基づく仕組みづくりが必要です。例えば、クラス替えの毎年実施や、転校の容易化等を進めるとともに、いじめがないことと同等かそれ以上に、いじめに対して積極的に対応した学校や教師が評価されるようにしなければなりません。

ただ、それだけでは不十分です。やはり、いじめ防止の義務を負う学校や教育委員会にいじめの積極的な認知を期待するのは構造的に無理があります。学校や教育委員会がいじめの認知を行わないときに、子どもの立場に立ち、子どもの利益のために職務を行う部署がいじめの認知を行えるようにすべきです。

⑵ 中立・公平で専門的な対応ができる第三者委員会の必要性

いじめによる重大な被害や相当期間の不登校があると、学校や教育委員会は、重大事態として対処するとともに事実関係の調査を行わなくてはなりません(法28条)。

このいじめ重大事態の調査は、いわゆる第三者委員会によって行われることが通例となっていますが、中立・公平とは言えない第三者委員会も少なくありません。

学校や教育委員会の職員を中心とした組織に第三者が加わっただけの場合や、教育委員会に常設されているいじめ対策組織をそのまま第三者委員会とする場合等もあります。いじめ防止対策推進法は、学校や教育委員会にいじめ防止の措置やいじめ早期発見のための措置を義務付けており、これらがきちんと果たされることを前提とすれば、このような第三者委員会でも中立性・公平性が保てますが、実際は違います。

いじめを受けた児童やその保護者が、加害児童よりも、相談をしたのに適切な対応をしてくれなかった学校や教育委員会に問題があると考えているケースも少なくありません。このことから分かるように、重大事態においては、学校や教育委員会、教育委員会に常設されているいじめ対策組織の責任が問われる場合もあり、そのような場合にこれらの関係者によって組織される第三者委員会は到底中立・公平とは言えません。

また、完全に新しく第三者委員会を組織したとしても、小さな自治体等では、そのメンバーがいじめ加害児童やその保護者、学校や教育委員会の関係者と利害関係を有しているといったことが起きやすく、中立・公平とは言えない場合があります。

そのため、重大事態においては、いじめが起きた自治体以外のメンバーのみで第三者委員会を構成すべき場合も出てきます。

実際、いじめ防止対策推進法制定のきっかけとなった2011年の大津市におけるいじめ自殺事件では、当時の市長が、すべて滋賀県外のメンバーで第三者委員会を組織し、事件の調査にあたりました。

すべての重大事態でそのように第三者委員会を組織する必要はありませんが、いじめの被害児童やその保護者などから、第三者委員会の中立性・公平性に問題があるとの申立てがあった場合に、真に中立・公平な第三者委員会が立ち上がる仕組みが必要です。

また、第三者委員会そのもの中立性・公平性に問題がなくとも、日程調整や会場確保、資料作成等の庶務を行う事務局を学校や教育委員会の関係者が行えば、公平性・中立性に疑義が生じますので、そのようなことにならない工夫も必要です。

さらに、第三者委員会のメンバーは、単に公平・中立であるだけでなく、専門的な対応ができなくてはなりません。人口30万人を超える中核市である旭川市でも、市内だけでそういった人員を確保することは困難とのことです。また、旭川市の場合、報酬は条例で日給7700円と決まっているとのことであり、この報酬で専門家を依頼することには限界があります。いじめ重大事態について第三者委員会を立ち上げる際は、そのたびに補正予算を組むとのことですが、メンバーへの報酬は条例事項なので毎回同じとのことです。

以上のように、学校や教育委員会が第三者委員会を設置する場合、利害関係の存在、専門家の不在、予算の制限等によって、中立・公平で専門的な対応ができる体制とならない場合が多々あります。そういった場合に、いじめを受けた児童やその保護者からの申し立てを受けて、中立性や公平性を判定したり、国の予算で専門家の派遣ができる組織が必要です。

⑶ 第三者委員会によるいじめ重大事態の調査の期限設定の必要性

爽彩さんの事案に対して、重大事態の認定がされたのは今年4月22日、それから1か月後の5月21日には初回の第三者委員会が開催されました。しかし、そこから4か月以上たったのにも関わらず、まったく調査は進んでおりません。

当初、第三者委員会の設置主体である旭川市教育委員会は、今年11月末を目安に調査報告書を提出する予定でした。しかし、その期限設定は、第2回の第三者委員会の際に、白紙にされたとのことです。

もちろん、第三者委員会は、設置者から独立して調査を行えるべきであり、設置者によって第三者委員会の調査を制限するような短い期限を設定することは許されません。しかし、一切期限設定がされないことも問題です。時間が経てば経つほど、引越し等で聴き取りができない関係者が増えたり、証拠が散逸したりして事実の解明が遠のきますし、何よりも、いじめを受けた児童やその保護者への実効的な支援ができなくなるためです。

私は、第三者委員会が期限を設定し、それを公表すべきと考えています。その期限までに調査が終わらない場合には、その理由について説明責任を負わせるべきです。そして、合理的な説明ができない場合には、調査を打ち切って、新たな第三者委員会で調査をやり直す仕組みが必要です。

旭川市教育委員会は否定していますが、爽彩さんの保護者と第三者委員会の信頼関係は既に修復が難しいほどに破壊されており、はじめに第三者委員会から十分な情報提供を尽くさなければ調査に協力してもらうことは期待できない状況と思われます。しかしながら、本件の第三者委員会は、爽彩さんの保護者から文書で聴き取りを行った後でなければ、アンケート調査や同級生・教師等へのヒアリングができないという考えです。これでは、いつまでも調査が進まず、ただいたずらに時間だけが過ぎ、真相解明ができなくなってしまう可能性が高まります。私は、現在の第三者委員会で調査ができないのであれば、調査の打ち切りも検討すべきと考えています。

速やかな事実関係の明確化という目的を達成するためにも、また、その目的が達成できない場合に当該第三者委員会による調査を打ち切るためにも、期限設定は欠かせません。期限までに調査が終わらない場合の説明が合理的か否かを判断し、合理的ではない場合に新たな第三者委員会を設置するのは、利害関係を廃するためにも、実効性を担保するためにも、市区町村や都道府県ではなく、国の機関が行うべきです。

4.おわりに

旭川市教育委員会からのヒアリングで、第三者委員会の調査が一向に進んでいない裏には、爽彩さんの事件に特有の問題があるだけでなく、構造的な問題があることが分かりました。特に、①そもそもいじめ防止対策推進法が教育現場で守られていないこと、②子どもの死について一元的な責任と権限を持ち、当該子どもの立場に立って原因究明を行い、再発防止の取組みを進める部署が存在しないことが、根本的な問題です。

まずは、いじめ防止対策推進法が遵守されるよう徹底し、学校や教育委員会による積極的な対策を進めることが何よりも重要です。

そして、それと並行して、子どもの死について一元的な責任と権限を持ち、当該子どもの立場に立って原因究明を行い、再発防止の取組みを進める部署を創設することが不可欠です。今回の旭川市訪問で、「こども庁」創設の必要性を改めて実感しました。

旭川市教育委員会が設置した第三者委員会には、爽彩さんの重大事態の調査を尽くし、爽彩さんが何故亡くならなくてはならなかったのか、同種の事態を防止するためにはこれからどうしていかなくてはならないのか、速やかに結論を出して欲しいと切に願っております。必要があれば、文部科学大臣の指導、助言及び援助(法33条)を要請していきます。

爽彩さんの重大事態について旭川市教育委員会からヒアリングを受けて、一日も早い事態の解明を期待しつつ、「子どもの”命”を守る体制強化」のためにこども庁の設立に邁進することを新たに決意しました。

以上

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