2021.7.9
命を救う最後の砦!「自殺対策支援センター」を視察
2020年は、新型コロナウイルスの影響によって「若者」や「女性」の自殺が増加しました。2020年における総自殺者数は2万1,081人。男性が11年連続減少していますが、逆に女性は2019年から934人増加し7,025人と2年ぶりに増加に転じました。若年層に至っては、合計499人に上り、1978年の統計開始以来最多でした。しかも、警察の調べでも原因が分からず「不詳」とされるケースが3割に上っています。諸外国(G7)と比較しても、日本の自殺率の高さは突出しており、まさに非常事態です。
コロナ禍で若者に一体何が起こっているのか。
NPO法人殺対策支援センター「ライフリンク」と厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」の視察に伺い、代表理事の清水康之さんにお話を伺いました。代表の清水さんは2004年から自殺対策の問題に取り組まれ、2006年に制定された「自殺対策基本法」の立案にも深くかかわっていた日本の自殺対策の第一人者です。当時は「個人の問題」だとされていた自殺を「社会の問題」だという共通認識がつくられたことも清水さんの大変大きなご尽力のおかげです。
私はこれまで清水さんから何度もお話を伺い政策立案にも繋げてきましたが、今回「このコロナ禍で子どもや若者に一体何が起こっているのか」という最前線の現場を知るために、視察をさせてもらいました。
■最近の若者層の自殺の傾向
清水さんによると、最近の若者には特徴があるといいます。
「子どもや若者から多く聞く言葉は、『死にたい』というより、『消えたい』『生きていたくない』『いなくなりたい』といった声です。『特に死にたいわけではないけれど、生きている理由がない。』ということです。存在を消すための手段として自殺を考えるといるという若者が増えている実感があります。特に子どもは「学校や家庭など周囲から見れば問題ない子」でも自己肯定感が低く精神的に追い詰められている状態にいる場合が多いと感じます。」
例えば40代以降の男性からSNSで自殺相談があった場合、「失業して再就職ができない」、「借金が返済できない」等具体的な悩みを打ち明けてもらえることが多く、SNS相談から電話相談に切り替えることも抵抗がない方がほとんどだそうです。そためすぐに問題を特定して具体的な支援へと繋げていけます。
しかし、子どもや若者は、本音は語らず「楽に死ねる方法はないか」というような相談員を突き放すようなことでしかコミュニケーションをとれない場合も多いそうです。電話相談に切り替えることも拒否をする若者が多いとのこと。
△お話を伺っているところ。場所:NPO法人ライフリンク
また、コロナ禍の影響として、「若年層が自宅で家族のケアをしているケースが増加したり、家庭の大人のストレスによって子どもに重圧がかかっているが、それを身近な大人が支え切れていない。友達とも合えず、コロナ禍では子どもの気持ちが溢れていると感じる。」とおっしゃっていましたが、コロナ禍こそ一人ひとりの子どもに寄り添った精神的なケアが求められています。
清水さんによると、そういった子ども若者の自殺を止めるためには「生きることの後押し」が重要だといいます。自殺のリスクが高まるのは、『生きることの阻害要因』が『生きることの促進要因』を上回ったとき。いくら生きることの阻害要因が大きくても、促進要因の方がそれを上回っていれば自殺のリスクは高まらないため、将来の夢や信頼できる人間関係、やりがいのある仕事や趣味、楽しい思い出などの「生きることの促進要因」を大きくしていくことが自殺予防につながっていくのではないか。と推測できます。
この辺りは、日本の画一的な教育を根本的に見直していく必要があると思っています。
図)NPOライフリンク提供
■ライフリンクの自殺対策
ライフリンクでは、専門の相談人が相談者の「死にたい」気持ちに寄り添い、生きる道を選ぶための支援を行っています。特に若者を対象としたSNSを活用した相談体制について伺いました。
この自殺対策SNS相談「生きづらびっと」の特徴は、
- 相談者の多くが「死にたい」気持ちを抱えていること(対応している相談者60-80名/日のうち85.8%が自殺念慮者)
通常の相談窓口では原則として「死の問い」を行わないが、自殺念慮を抱えている人にはそれを聞かないことは問題の解決にはならない。ライフリンクは「死の問い」をタブー視せず」本質に切込み、「自殺を考えていますか?」と正面から聞く。
- 様々な分野の専門家等が連携して相談対応にあたること
他分野・他職種によるチームでの支援を行っている。SNSのテキストベースでのやり取りは、相談相手の声は聞こえないが、相談員同士の声も聞こえないので、相談員同士がZoom等で会話をしながら対応ができるというメリットもある。
- 傾聴だけでなく、行政等とも連携して実務的支援も行う
SNSはあくまでも相談の入り口で、問題解決のために行政と連携して「伴走型の支援」を行っている。
上記3つの特徴をすべて行っているところは、日本でもライフリンクだけです。このブログでは紹介できませんが、実際に行政と連携しながら問題解決をされた事例についても詳しくお伺いしました。現場の緊迫感やあまりの生々しさに言葉が出ませんでした。
△SNS相談「生きづらびっと」の画面
■SNS相談対応の実績
SNSの相談は29歳以下の女性だけで半数を占めるそうです。属性(学生区分、職業有無)では、高校生以下が半分以上。中学生や高校生は一回では終わらず、2割程度は継続支援を行うそうです。声を上げた中学生や高校生については関係性を継続していくことが非常に重要で、清水さんたちは、この自殺リスクが高い2割が本丸と考えているとおっしゃっていました。
SNSのテキスト相談は若者にとっては相談のハードルが低い反面、相談対応時間は平均80分でどうしても電話より時間がかかってしまいます。現在は相談アクセス数に対してリスクの高いものから対応しており、対応率は3割以下だそうです。相談員も精神的な面から週に1~2日しか入れません。また、予算をつけても相談員を教育する必要があるため、すぐには増やせないという課題もあるそうです。
どうすれば人員不足の課題を解決し相談件数を増やせるか。それを突き詰め、最先端のテクノロジーを用いたシステムを開発しているそうです。電話の音声をデータに変換して、そのデータを複数の場所で聞けるようにし、また音声データをテキストに文字おこしをし、リスクが高いものが自動でアラートが出るようなシステムです。これにより、スーパーバイザーやコーディネーターは、アラートが発せられたものに注力できるようになり、不足しているスーパーバイザーが1件でも多くの案件を担当できるようになるそうです。
また、過去12年の30万人分の警察の自殺統計伝票の情報に加え、世界中の報道、Twitter等の情報をリアルタイムで活用し、年代や属性、地域どこの自殺が起きやすい日時を予測するシステムも開発されており、その取り組みに大変感銘を受けました。
△左:私(山田太郎)、右:清水康之さん
■現場の声を政策に反映する
清水さんからは「こども庁」構想にも非常に重要な、以下のような具体的な政治への要望もいただきました。
- 「児童生徒の児童統計原票」導入による実効性の高い自殺対策への転換
児童生徒の自殺又は自殺が疑われる死亡事案が起きたとき、学校又は教育委員会が背景調査を行うこととされているが、それらの情報を集約・分析する仕組みがなく(数年に一度収集するのみ)児童生徒の自殺実態を十分に把握できていない。 こうした実情を踏まえ、文部科学省は「児童生徒の自殺統計原票案」を導入すること。こうした実情を踏まえ、文部科学省は「児童生徒の自殺統計原票案」を導入すること。
- 「子どもの自殺危機対応チーム(仮称)」の全国設置
自殺リスクを抱えた児童生徒を各地域で包括的に支援(児童生徒の家庭等も含めて支援)できるようにするため、各都道府県に「子どもの自殺危機対応チーム(仮称)」を設置し(長野県が設置済)、当該チームが後押しする形で、各地域における学校と保健所、児童相談所と医療機関等による実践的な連携を促進すること。また、そのために必要な枠組みを整備すること。
- ITを活用した自殺リスクのアセスメント ツール等の整備
学校において児童生徒の自殺リスクを早期に察知し、当該児童生徒を速やかに支援につなげるため、ITを活用した自殺リスクのアセスメントツール (例: 等を全国の学校に整備すること。その際、GIGAスクール構想において進められているタブレット端末の配布の動き等とも連携を図ること。
- 「精神疾患に関する教育」の義務教育からの推進
令和4 年度から高校で実施される「精神疾患に関する教育」を、義務教育から行うこと。精神疾患症状の出現ピークは 14 歳と言われており、 子どもたちがそれまでに精神疾患に関する正しい理解を身につけられるようにすること。教職員や保護者等に対する研修等もこれに先んじて充実させること。
△実際に相談体制の様子や内容をリアルタイムで見せていただいているところ。
左:私(山田太郎)中央右:ライフリンク代表 清水康之さん
まさに、これらは私の問題意識とまったく同様です。コロナ禍によって、これまでぎりぎりでやっていた子どもたちの気持ちが溢れ、命が失われている現実があります。最前線の現場で取り組まれている民間団体の声をしっかりと聴きながら、今必要な対策は強く政府に求めるとともに、中長期的な視点をもって私自身もしっかりと取り組んで参ります。