2025.12.8
「国民の声」は本当に届いているのか?パブリックコメントのSNS広報の実態
先日、若者協議会のみなさんや、こども政策に関わる方々から「パブリックコメント(通称パブコメ)の透明化」について疑問やご意見をいただきました。私個人としても、SNSが国民の主要な情報源となっている現代において、多くのパブコメの案件がSNSで告知すらされず、国民、とりわけ若年層にその存在が知られていないのではないかという問題意識がありました。「このパブコメ制度が、十分に機能しているのか?」今一度みなさんと考え、改善していきたいと思っています。
そこで今回、山田太郎事務所から各府省庁に対して、パブコメのSNS告知に関する運用実態について公式な回答を求めました。結論から申し上げると、パブコメの目的から鑑み、「各省庁は、パブコメの実施をすべてSNS告知すべき」です。本ブログでは、各省庁から得られた回答を基に、パブコメの広報が抱える深刻な課題をデータと共に明らかにし、その解決策を提案します。
■パブコメとは
国民が政策決定に参加するための重要な制度、「パブリックコメント(意見公募手続)」(通称パブコメ)。パブコメは、国の行政機関が命令等(政令、省令など)を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としています。その手続等は行政手続法(第6章)に定められています。複雑化する国家の政策決定過程に、国民の意見を反映させる仕組みとして、パブコメは導入されました。対象となる命令、手続きの流れは以下の通りです。

出典:内閣官房「パブリックコメント制度(意見公募手続き制度)の概要」
■省庁からの回答で判明した、驚くべき実態
各省庁からの回答を分析した結果、パブコメのSNS広報に関して、共通する深刻な課題が浮かび上がってきました。それは、「基準の欠如」「実行の欠如」という、2つの欠如です。
1. 基準の欠如:SNS告知は「担当者まかせ」という現実
まず最も大きな問題は、ほとんどの省庁でパブコメをSNSで告知するための統一的な基準が存在しないことでした。金融庁以外は、「判断基準は設けていない」「担当課の判断に委ねられている」と回答しています。各府省庁の回答を一覧表にまとめました。
▽全府省庁のパブコメのSNS告知率等
| 令和6年度 | 令和7年度 | |
| SNS告知数 | 64 | 43 |
| パブコメ実施数 | 1609 | 1030 |
| SNS告知率 | 3.98% | 4.17% |
※回答があった各府省庁の資料をもとに山田太郎事務所作成

*少数第2位で四捨五入 *案の公示日を基準とする
※各府省庁の資料をもとに山田太郎事務所作成
この表が示すように、広報戦略の要であるべき「基準」が存在せず、個々の担当者の判断という属人的な運用に終始している実態が明らかになりました。これでは、国民にとって重要な案件であっても、担当者の意識次第で情報が届かないという事態が容易に発生してしまいます。
2. 実行の欠如:宝の持ち腐れと化すSNSアカウント
基準がない結果として、当然ながらSNSでの告知実行率も極めて低い水準に留まっています。例えば、パブコメ制度を所管する総務省ですら、2024年度のパブコメ総数146件に対し、SNSで告知されたのはわずか2件(告知率1.37%)でした。2025年度も94件中2件(告知率2.13%)と、改善は見られません。
さらに衝撃的なのは防衛省のケースです。2008年にSNSアカウントの運用を開始して以来、実に15年以上にわたって一度もパブコメの告知を行った実績がないことが確認されました。国民の安全保障に関わる重要な政策を扱う省庁が、これほどまでに情報発信に消極的であることは、大きな問題と言わざるを得ません。
一方で、金融庁や公正取引委員会のように、比較的積極的にSNSを活用している省庁も存在します。金融庁は、令和6年7月以降からすべてのパブコメをXに投稿するよう運用方針を変更したそうです。公正取引委員会では、2022年度以降のパブコメ28件中7件(告知率25%)でSNS告知を行っており、これは他の省庁と比較して突出して高い数値です。これは、やればできる、という証左に他なりません。
各省庁のXのフォロワーを確認すると以下の通りです。どの省庁も数十万単位でフォロワーがいるにも関わらず、まさに宝の持ち腐れと化しています。

※上記グラフ「国内行政機関のXフォロワー数」2025年11月末日現在、山田太郎事務所調べ。
形骸化する「国民の声を聞く」という姿勢
なぜ、これほどまでにSNSでの広報が行われないのでしょうか。各省庁の回答からは、「効果測定を行っていない」「記録を作成していない」といった記述が散見され、パブコメを広く国民に届けようという当事者意識の欠如が見えます。
デジタル庁のようにアクセス数や流入数を測定している例は稀で、ほとんどの省庁はSNSで告知しても、それがどれだけの人に届き、どれだけの意見提出に繋がったのかを把握しようとすらしていません。これでは、PDCAサイクルを回して広報活動を改善していくことは不可能です。
「e-Govに掲載しているから、周知の責任は果たしている」という姿勢が根底にあるのかもしれません。しかし、情報が溢れる現代において、ただ情報を置いておくだけで国民が能動的に見に来てくれるというのは、あまりにも楽観的であり、国民への説明責任を軽んじていると言わざるを得ないと思います。「何のためのパブコメをするのか」という原点回帰をすれば、昔のままの告知でいいのか?という問いへの答えは明らかです。
■詳細分析:各省庁の回答から見えてきたこと
ここからは、各省庁から得られた回答を詳しく見ていきながら、パブコメの広報体制が抱える問題点をより深く掘り下げていきます。
金融庁・公正取引委員会:他省庁のモデルになり得る
金融庁は、SNS(X)によるパブコメの告知を行っていると回答しました。2024年7月以降、広報活動に関する考え方として、情報発信する際には、原則、ウェブサイト公表と同時にX投稿による周知を同時に実施されています。また2024年7月以降のパブコメについては、金融庁公式Webサイト内のパブコメ公表ページにて確認することができ、意見の締切日や募集期間にある案件を一覧で見ることが可能です。
広報室が主にSNSでの告知を担当しており、アクセス数・SNSからの流入数については把握しているそうですが、それ以上の分析は行われていないと回答を受けました。公式サイトでパブコメの公表ページを見ることができ、SNSの告知もしていることが確認できたため、さらにコメントの分析を行えば他省庁の参考モデルにもなるのではないかと考えられます。
また、公正取引委員会は、「e-Gov で告知を行うほか、パブリックコメントを実施する案件の性質に応じて、当委員会のホームページにおいて公表(報道発表)したり、SNS を活用して周知を行ったりしております」と回答しており、多様な広報手段を組み合わせていることが分かります。公取委の取り組みも、他の省庁が参考にすべき好事例と言えるでしょう。
文部科学省・こども家庭庁:「こどもの声」「当事者」の声を聞く姿勢はあるのか
文部科学省は、「小学校学習指導要領、中学校学習指導要領の改訂に伴う移行措置案に対する意見公募手続(パブリック・コメント)の実施について」「スポーツ実施率向上に向けた行動計画(案)」「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントの実施についてに関する意見募集について」等の7件について、公式Xアカウントで告知を行ったことを明らかにしました。しかし、現在行われている「こどもの自殺が起きたときの背景調査指針のパブコメ」については、こどもの自殺の原因分析を考える上で非常に重要な調査であるにも関わらず、SNS告知はされていません。この差は何でしょうか。SNS告知をしない合理的な説明がなされていないと思います。
こども家庭庁は、「こども大綱の中間整理」「こどもの居場所づくり指針素案」「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」の3件について、公式X(旧Twitter)アカウントで告知を行ったことを明らかにしました。これらは、いずれもこどもに関する重要な政策であり、当事者である子育て世代や若年層に広く意見を求めるべき案件です。
しかし、こども家庭庁は「パブリックコメントをSNSで告知するかどうかの判断基準は設けておらず、今後も策定する予定はない」と回答しています。判断は担当課に委ねられており、効果測定についても「インプレッション数は把握可能だが、流入数の把握は困難」としています。こどもの声、子育て世代の声を政策に反映させることを使命とする省庁が、その入り口である広報活動において明確な戦略を持たないことは、大きな矛盾と言わざるを得ません。
デジタル庁:デジタル化の旗振り役が示す矛盾
デジタル庁は、政府のデジタル化を推進する中核的な役割を担う省庁です。しかし、その広報活動の実態は、デジタル時代の情報発信からは程遠いものでした。デジタル庁の回答によれば、「現時点で行っている、パブリックコメントに関する周知策はございません」とのことです。SNSでの告知については、「担当班からの依頼があった場合に対応している状況であり、明確な判断基準は存在しておりません」と述べています。
デジタル庁は、一覧表を提出し、SNS投稿の記録を作成しているという点では、他省庁よりも透明性が高いと言えます。また、「SNS投稿自体のアクセス数や投稿からの流入を確認しており、コンテンツの改善に努めている」と、効果測定を行っている点も評価できます。しかしSNS運用開始から現在までの期間で、パブコメに関する告知をしたのは、2023年12月26日に投稿された「次期個人番号カードタスクフォース中間とりまとめ骨子」に係る意見公募の結果についてのみとの回答でした。デジタル化を推進する立場にありながら、パブコメという国民参加の重要なプロセスにおいて、デジタル技術を活用した積極的な情報発信を行っていないことは、大きな課題です。
消費者庁:国民の日常に関わる省庁は積極的に広報すべき
消費者庁は、e-Gov (日本の「電子政府の総合窓口」であり、デジタル庁が運営するポータルサイトへ)の掲載のほか、消費者庁ウェブサイトでパブコメ専用のページを設けています。また、記者会見、メールマガジン、SNS を通じて周知する場合もある一方で、パブコメの SNS での告知実施有無について特段、判断基準はないとの回答でした。
2009年9月から現在まで、パブコメをSNSで告知したのは7件、告知をしていないのは270件という結果でした。SNS告知の判断は担当課、広報室、大臣官房など各課室の判断に委ねており、基準の策定やSNSの活用については他省庁のSNSの運用等を参考に検討していきたいとのことでした。SNS でパブコメ告知を行った案件と行わなかった案件の記録は取られていることは伺えますが、国民の日常生活に関わる消費者庁はパブコメのSNS告知を率先して行う必要があると考えられます。
環境省:長年の実績があるも、体系化されず
環境省は、2013年度から2023年度にかけて、計9件のパブコメについてSNSで告知を行った実績があります。これは、他省庁と比較して比較的長い期間にわたってSNS活用に取り組んできたことを示しています。告知された案件を見ると、「第四次環境基本計画の進捗状況」「気候変動の影響への適応計画」「第五次環境基本計画策定に向けた中間取りまとめ」など、環境政策の根幹に関わる重要な案件が含まれています。
しかし、環境省も「パブリックコメントをSNSで告知するか否かに関する統一的な判断基準は策定しておりません」と回答しており、今後も基準を策定する予定はないとしています。また、「SNSによるパブリックコメントの告知に関する効果の測定は行っておりません」との回答を受けたことからも、これまでの取り組みがどれだけの効果を上げたのかを検証していないことが分かります。長年の実績があるにもかかわらず、それを体系化し、組織的な知見として蓄積していないことは、大きな機会損失と言えます。
■なぜ情報は届かないのか?構造的な問題点
この問題の根底には、いくつかの構造的な要因が存在します。
- 広報戦略の不足:広報を担う部署と、パブコメを実施する各担当部署との連携が取れていないケースが多く見られます。「担当課の判断」という言葉の裏には、組織全体として広報戦略を統括する機能が不全に陥っている実態があります。
- インセンティブの欠如:担当者にとって、パブコメの意見が多く集まることは、必ずしも歓迎されることではありません。意見が多ければ多いほど、それらを整理し、回答を作成する業務負担が増大するためです。現状では、積極的に広報を行うインセンティブが働きにくい構造になっています。
- 「炎上」への過度な恐怖:SNSでの情報発信には、批判や「炎上」のリスクがつきものです。そのリスクを過度に恐れるあまり、当たり障りのない情報発信に終始し、政策に関する踏み込んだ情報提供を避ける傾向があるのかもしれません。
■データが示す、パブコメ制度の現状
e-Govで公開されているデータによれば、2003年度から2025年11月時点までに実施されたパブコメの総数は、1,976件に上ります。年度別に見ると、2024年度は116件、2025年度は47件(11月時点)となっています。これだけ多くのパブコメが実施されているにもかかわらず、SNSで告知されているのは、ごく一部に過ぎません。
今回調査した省庁の中で、具体的な数値を示した省庁の数値から推計すると、全体のSNS告知率は、おそらく5%未満と考えられます。つまり、95%以上のパブコメが、SNSでは告知されていないということです。この数字は、パブコメ制度が、いかに国民から遠い存在になっているかを如実に示しています。
■若年層の政治参加とSNSの重要性
なぜ、SNSでの広報がこれほど重要なのでしょうか。それは、若年層の情報収集手段が、従来のマスメディアからSNSへと大きくシフトしているためです。総務省の調査によれば、10代から30代の若年層において、SNSは最も重要な情報源の一つとなっています。特に、政治や社会問題に関する情報についても、SNSを通じて得る割合が高まっています。「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表
一方で、若年層の投票率の低さは、長年の課題となっています。これは、若年層が政治に無関心なのではなく、政治に関する情報が若年層に届いていないことが一因と考えられます。パブコメは、選挙と並んで、国民が政治に参加するための重要な手段です。しかし、その情報がSNSで発信されなければ、若年層はその存在すら知ることができません。これは、若年層の政治参加の機会を奪うことに他なりません。
この深刻な状況を打開し、パブコメ制度を実質化させるために、政府全体として、パブコメのSNS広報に関する明確なガイドラインを策定すべきです。例えば、「原則として全てのパブコメ案件をSNSで告知する」「国民生活に影響の大きい重要案件については、複数回の告知や図解を用いた分かりやすい解説を行う」といった基準を設けることが考えられます。これにより、担当者個人の判断への依存から脱却し、組織としての広報責任を明確化します。また、SNSでの告知がどれだけの効果を上げたのかを測定し、その結果を検証すべきです。インプレッション数、クリック数、e-Govへの流入数などをKPIとして設定し、広報活動の改善に繋げることが必要です。
■おわりに
パブコメは、国民が政策決定のプロセスに参加するための重要な制度です。しかし、今回の調査で明らかになったように、その入り口である「広報」が機能不全に陥っていることで、制度そのものが形骸化の危機に瀕しています。
e-Govに掲載していることを、すでにあるSNSアカウントで告知することが、そんなに難しいことでしょうか。各省庁はパブコメの本来の目的に鑑み、SNS告知をすべきだと考えます。
国民に知らされなければ、意見は集まりません。意見が集まらなければ、多様な民意が政策に反映されることはありません。それは、民主主義の緩やかな後退を意味します。この記事が、パブコメ制度の現状に対する問題意識を喚起し、政府・行政が国民と向き合う姿勢を改める一助となることを切に願います。そして、私たち国民一人ひとりも、この問題に関心を持ち、声を上げ続けることが重要です。
民主主義は、与えられるものではなく、私たち自身が作り上げていくものです。パブコメ制度を、真に国民のための制度にするために、一人ひとりが声を上げていただきたいと思います。





