ChiBiz Inside no.012


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●正しいリベートの払い方
●個人の関係なくしてビジネスは始まらない

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正しいリベートの払い方

「これでやっとわが社の製品の中国での販売網が整った」。大手代理店との長い交渉を終えて、上海に設立したばかりの中国本社で、スタッフたちは祝杯をあげていた。半年以上かかった交渉では、販売員の教育から販促方法、販促費用、その他多くの項目について話し合った。そして、ついに調印。レッドスター(紅い星印)のある丸いハンコがドンと押され、握手と共に契約書を交換したのである。そして、販売開始。しばらくすると代理店の責任者から「オタクの製品を売ってもちっとも儲からない、そもそもマージンだけでは商売にならないよ」と言ってきたのです。「リベートは当然、考えて頂いているのですよね」とも。考えてもみなかった展開である。「まるで後出しジャンケン、中国では契約書は紙切れ同然なのか」と日本のメーカー現地販売責任者は不信感を露にする。

よくある話である。けれども、非は中国側にだけあるのだろうか。

中国での小売店へのマージンは15~20%。日本では20~30%が一般的だから、かなり低いマージン比率といえる。これには理由がある。多くの小売業はメーカーからリベートや支援金を受け取っていて、これらを合算することで商売を成り立たせる。それが中国の常識である。一般的にはマージンは15~20%に加えて、奨励金として20%前後が支払われる。合計すると35~40%ということになる。合算で50%を超える額を要求されることすら珍しくない。これが、現場の実態なのである。

ただ、マージンを払えばそれで万事うまくいくとも限らない。中国の代理店は、一般にマージンをあまり管理しないからだ。「上手な払い方」をしないと、「払っただけムダ」ということになりかねない。

販促に力を入れたい商品があれば、その商品を売った場合、個数や方法に応じてその都度報奨金を支払うのが望ましい。新規店舗や新規顧客を開拓する場合なども、それぞれ細かく「どんなことをしたらいくら報奨金がもらえるか」を規定し、厳格に運用する必要があるだろう。

一番まずいのは、「よくやってくれている」ということで、先渡しの意味を込め、まとまった額を一度に渡してしまうことだ。もらったら、現場は全てそれを使ってしまう。大事に少しずつ使おうなどという発想は、まずない。そして、使い切ってしまったら、そこで関係は薄れてしまう。「金の切れ目は縁の切れ目」というのは日本のことわざではない。中国では、親子関係や夫婦関係でもこのことが当てはまるらしい。親が子に多額のお金を一度に渡してしまえば、それで親子の縁が切れてしまうのだという。少しずつ、ことあるごとに金を渡す。それが、中国スタイルなのである。

もう一つ、中国では、昨日から新しい商売を始めた所が多くある。ほとんどの代理店や卸売業者は、ほとんど素人であると考えておいた方がよいだろう。儲かると思えば、前職とは全く違った職種にもどんどん参入してくるのが中国である。立派な看板はあっても、売り方も、在庫管理や販売管理の仕方も分からないという業者がザラにいる。メーカーが彼らを直接指導するという忍耐強い姿勢をみせ、よく学び能力を高めた業者にはきちんと報奨金を出すということも重要だ。

末端の販売価格をメーカーがコントロールできないのも中国での悩みである。中間の代理店や流通網に未整備な部分が多いため、メーカーのコントロールが末端の小売店や営業担当者にまで伝わらないのである。流通網が複雑になり、結果として多くの中間業者が介在することになり、販売価格がまちまちになるということもある。同じ店舗に同じ製品が違う価格で卸されることもザラにあるのだ。

リベートや報奨金を出す場合は、これではマズい。特定の代理店や流通業者に高いリベートや報奨金を払う場合は、他の代理店や流通網にもその金額の妥当性を説明できるようにしておく必要がある。中国では、従業員間でも給与を見せ合う風習がある。同様に、卸価格や仕入れ価格を秘密にするという発想はない。代理店間の情報を交換や営業担当者の交流によって、卸金額やリベート、報奨金などの金額は、すべて時間とともに明らかになっていくと考えなければならない。

こうした事態を想定し、どんな条件、どんな理由で卸値、リベート、報奨金の額は決まっているのかを、きちんと説明するための料率体系をつくっておくべきだろう。少なくともメーカーからの出荷価格は公平にしておかないと、必ず不平を訴える代理店が出てくる。相手が不平等を感じれば、さらに値切られることになるかもしれない。最悪の場合、悪い噂話を流され、それによってメーカーが悪評を被ることだってあり得るのだ。

中国の代理店、営業担当者が、私達の製品を心を込めて売ってくれて始めて、日本製品は中国市場に広がる。それは大変なことである。日本製品のライバルは、現地製の安い製品であり、ときとして品質の悪い模倣品である。日本メーカーに代わりそれらと闘ってくれているのは、現地の担当者たちなのである。

そうであるにもかかわらず、中国の代理店に対し「使ってやろう」「売らせてやろう」といった態度を示す日本メーカーをしばしば見かける。それでうまくいくほど、中国市場はあまくない。中国市場の前線に立つ担当者に感謝を伝えるため、どのようにリベートや報奨金を支払い、どう利益を配分するかを、日本メーカーは真剣に考えなければならないと思うのである。★
(山田太郎)

個人の関係なくしてビジネスは始まらない

中国社会の変化はすさまじい。1976年まで文化大革命をやっていたと思ったら、翌々年の78年には改革開放が始まる。92年のトウ小平の南方講話で資本主義にGOサインがでて、97年には香港を取り込み、2001年にはWTOに加盟し国際社会にデビューする。そして、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博。その間、2003年、08年には、日本を追い抜き立て続けに有人衛星の神舟5号、神舟7号の飛行を成功させる。ギアが入るとすさまじい勢いで変化し成長するのが中国のようだ。

ビジネスにおいても、それは変わらない。「今回のミーティングは、初顔合わせなので、まずは仲良くなって、次回までに具体的なことを詰めていきましょう」とは日本人のセリフ。「赤の他人」から面談を重ねて間を詰めていくスタイルだ。面談の1回目で何かを決めることはなく、2回目でお互いの課題を整理し、3回目でほんの少しの決め事をする。会った回数が重要で、そこでやる気が確認できれば、4回目ぐらいで物事が締結する。逆に、回数を重ねても話がまとまりそうにないと、間を開けてフェードアウトさせてしまう。決して、途中で明確に断ることはしない。いつでも話は再開できるというオプションを残すのだ。

この「回数を重ねる式」の日本人の儀式が中国人を含む外国人には理解できないようだ。私が米系外資企業の役員をやっていた時、心配になった米国人役員から「ミスターヤマダ、こんなことでこの話は本当にまとまるのだろうか」と何度も質問されたことがある。「最初はこの程度にして、話を詰めてしまわない方がいいでしょう。これ以上、話を進めると、それは相手を押し倒すことにもなりかねず、それだけで話が壊れてしまいます」「回数を重ねることが大切です」と私は説明した。同じ説明を今は中国人のビジネスパートナーにしている。

一方、中国人は、「ギア」が入るとビジネスの進行が突然早くなる。中国人トップが、自らが采配をふるってどんどん話を進めていくのだ。一度決意をすると、毎日、毎日、その案件について考え、あらゆる指示を部下に出して、ことが早く進むように激を飛ばす。ぐずぐずしているのをみるとイライラするらしい。

こんな調子だから、話し合いは大変だ。2回目の商談あたりで、中国側が俄然本気を出し、日本側がタジタジになるというケースをよくみかける。最初は「相手は本気か」「進めるにはかなり時間はかかるぞ」とのんきに構えているのは日本側だけで、2回目の商談でもトップが出てきたら、それはもう、すべての事をそこで決めてしまおうということなのである。

その、中国の猛烈な勢いを削いでしまうのは、いつも日本側だ。一歩ずつ階段を着実に登るスタイルを日本側は崩さない。調整、調整、また調整で時間がかかる。本当は、調整に時間がかかっているのではない。調整という名の間を入れながら、自分たちのペースを守ろうとしているのだ。

もちろん、日本スタイルにもいい面がある。じっくり進むことで組織内に情報と納得感を浸透させることができるのである。こうして、「内々ではあまり説明が要らない」「チームの中での食い違いがない」という環境を作り上げるのだ。

中国スタイルでは、トップが強引に推し進めることがままある。当然のことながら、トップと他のメンバーの間に認識の差ができる。だから、現場で実行する段階になって、まったく現場が納得していなかった、ということがしばしば発生する。こんな時は、現場で何とかしようとしてもムダだ。トップに戻し、現場に指示してもらうしかない。

スタイルの差ということでもう一つ気になるのが、いわゆる社交辞令である。思ってもいないことも、日本側は「友好の証」として発言する。中国側も、様々なことを大袈裟に言う傾向があるが、それは誇張して表現しているだけで、やる気がないわけではない。ところが、日本側は明らかにやる気のないことも平気で言ってしまったりする。日本では、それが礼儀だからだろう。

できもしないことを言ってしまっても、面談の回数を重ねていく中で、フェードアウトさせてしまえばいいと、日本側は思う。しかし、中国人は必要なことは面談の回数を経ても覚えている。それが約束としてとらえられることも多い。言った、言わないということにもなるのだ。だから、議事録は必ず残しておかねばならない。

日中間のスピード感の違いは、人間関係をつくる場面にも表れる。中国人は、必要であれば急接近し人間関係をつくろうとする。日本のように回数を重ねるのではなく、1回目でも突っ込んだ話しをし、個人間の関係と信頼を築こうとするのだ。中国では、最初は誰でも「外人(ワイレン:知らない人)」だが、それが顔見知りになり、最後は「自己人(ジーズーレン:知った仲)」になる。この「自己人」にならないとなかなか信頼をもって仕事を一緒に進めることができない。だから、食事や何気ない会話を通じて個人間のつながりをつくろうとする。

これは、日本人にとってはいささか厄介なことである。日本人はどうしても自分を「組織の中の一員」と位置づけてしまう。ましてやビジネスは団体戦である。まずは組織間の関係性を築く。個人間のつながりができることももちろんあるが、それはあくまで組織間の関係性があればこそのもの。つまり、日中では関係性構築の順番が逆になっているのである。

組織の前に個人がある。これが中国式スタイル。個人と個人が信頼し、その背景にある組織が共同で仕事を進める。しかし、日本人からすれば、社長でもない個人が組織を代表するなど、責任が負えないからとてもできない。どうしても「社に持ち帰り議論させてください」となり、相手を失望させることになるのだ。

中国異質論を唱えるビジネス書が多い。どうも中国とはビジネスが苦手という日本人も多いようだ。しかし、多くの中国人もそんな日本人を苦手と思っている。異質な日本人のビジネススタイルに戸惑うのである。どちらが正しいということではない。まず、双方の違いを認め、相手の文化、背景を理解すること。これ抜きで、ビジネスの成功はない。★
(山田太郎)