ChiBiz Inside no.017


不況で際立つ中国の光と陰

2012年春節。
「バババババーン」爆竹の音が鳴り響く。爆竹による火災のために北京のCCTVのビルが全焼した事は記憶に新しいが、今年も爆竹による火災で遼寧省瀋陽の高さ152メートルの5つ星ホテルが全焼した。毎年、毎年、爆竹による大火災が後を絶たないが、中国では警察当局が取り締まってもこの爆竹を止めようとはしない。

「春節聯歓晩会」(略して「春晩」)が毎年中国中央テレビ(CCTV)で放送され、全土の中国人が視聴する。日本で言うとNHKの「紅白歌合戦」のような番組だ。ただその内容は歌に限らず、ダンス、曲芸、相声(日本の漫才に多少近い一種のコメディ)、小品(コントに近い)などと多種多様だ。春晩の視聴者は億単位であろう。今年は、中国のあるコメディアンが日本のコメディアン・アンジャッシュのコントをパクリ、その事件で日本でも有名になった番組だ。

故郷に帰って父母など家族に会うために帰省する人で地方行きの列車の中は大入り満員だ。そんな風景が中国のテレビでは何度ともなく映し出されている。しかし、田舎に帰る人ばかりではない。春節に海外旅行をする人たちも多い。これは、お盆の時期、海外旅行が多い日本と同じ現象だ。

今年の春節における海外消費額は、5500億円を超え過去最高額となった(世界奢侈品協会=World Luxury Association, WLA発表)。地域別の比率をみると、欧州が46%、北米19%、香港、マカオ、台湾35%となっている。欧州に出かけて買い物をするのが人気だ。買うのは洋服、化粧品、腕時計など嗜好品である。こうした買い物客が押し寄せる各地では中国人消費者様々だ。各地域の高級品総売上額に占める中国人消費者の割合は、欧州で62%、北米28%、香港、マカオ、台湾69%とダントツに多い(同上調査)。高度成長やバブル期の日本が担っていた役割を、そっくり中国人が引き継いでいる格好だ。

こうした、中国人の金持ちぶりについて報道されることが多くなった。しかし、その裏側には、また違った中国がある。

「この時期(春節)が来ると急に生活が苦しくなります。その後、北京で暮らしていけるかお先真っ暗です」と言うのは、3カ月分の給与を使って故郷の親類縁者にお土産を買って行く吉林省出身の男性である。

安徽省出身、上海在住の未婚の女性は「今回の帰省をキッカケに地元企業で働くことにしました。都会は物価が高くて、働けど働けど生活が楽にならない。故郷への仕送りもできない。もう都会に戻ってくることはないでしょう」とこぼす。

都会から列車で帰省する人々は、一様に都会で暮らすことの難しさを口にする。

雇用が減り、働きたくても働けないという実態もある。多くの農民工は解雇におびえているのだ。故郷で就職した方がいいと考え始める農民工が多いのもうなずける。都市の生活は高すぎて月に3000~4000元ほど。稼いでも稼いでも家賃や食費の支払いに消えていく。

都会の工場地帯でも欧州からの受注が減少している。「どこも工場の人手は余っている」と広東省東莞の電気部品工場の社長はつぶやく。「2011年の後半、とくに10月ごろ仕事が減少し、リーマンショックの時よりもひどい状況だ」「売上が半分になってしまった工場もある」(深セン南山地区工場長)。

現実に、毎年、私が受け入れている清華大学の日本ツアーの参加者が、昨年末は半分以上も突然にキャンセルをした。1年越しで楽しみにしていた日本訪問をキャンセルするというのは、ほとんど海外旅行に行くことすらない多くの中国人にとっては、とんでもない出来事なのだ。

2010年は30%以上の雇用増だったが、2011年は急速に雇用が減少した。中国の12月期の輸出は、2年間で最低を記録している。中国の最大の輸出先は欧州で約19%を占める。日本にとって中国は最大の輸出国だが中国から見れば日本への輸出は8%以下、欧州の半分にも満たない。その欧州市場がギリシャを発端とする通貨危機で冷え込み、輸出がダウンした。そのことが、中国全土に大きな影響を与えている。特に広東省は深刻だ。中国各地の農民工への未払いが深刻な問題になっている。中国の農民工は約1.5億人、うち80%が都市部に出稼ぎに来ている。2012年の全国未払い給与総額は1000億元以上、そのうち70%が建設業界ということだ。そして、毎月給与をもらえる農民工は僅か10%。高速道路の欄干に居座る者、裸で「血汗銭」とプラカードを持って街を行進する者、労働者のデモンストレーションが後を絶たない。

中国では、貧富の差が広がってきていると指摘されている。しかし、中国政府当局は、「ジニ係数」を公表しない。ちなみに、ジニ係数は主に社会における所得分配の不平等さを測る指標として知られるもので、ローレンツ曲線をもとに、1936年、イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。0から始まり貧富の差が強くなると1に近づく。このジニ係数が「中国では0.5をすでに超えているのではないか。灰色収入(高所得者の賄賂収入)の存在を考慮すればもっと高くなる」と中国の経済専門家は警告する。

米国CIAが2009年末に発表した世界のジニ係数を見てみよう。日本0.249、韓国0.316、台湾0.339、米国0.408、香港0.434、中国0.469。0.4以上が警戒区分で、これを超えると所得格差が著しく社会不安が広がるとされている。中国は主要国ではもっともジニ係数が高い部類に属し、すでに最警戒域にある。

その中国ではいま、不動産バブルの崩壊が懸念されている。だが、そこにはしたたかに生きる中国人の姿もある。春節後は、不動産以外のあらゆる事業へ展開を考えている中国人が多い。食いものが売れる、美容化粧品が売れるということで、一般消費者に近い製品への方向転換を模索し始めているのである。

「貯蓄も始めています」。こう答える中国人労働者が増えてきた。年利3.5%ぐらいで、5%になる金融商品も登場している。これまであまり貯蓄をしてこなかった中国人のライフスタイルも少しずつ変わってきている。Gold(金の延べ棒)などの販売も市中銀行が始めた。なんと中国工商銀行では支店の中で金の販売コーナーが大きなスペースを占めているのだ。次々と稼いだ現金をGoldに替えていく。

中国のGDPは10%で延びていても所得の延びは5~7%もない。格差是正のために中国政府は、毎年20%の人件費向上を目指しているが雇用確保の面から達成が難しい。そんな過渡期にあっても、中国人はしたたかに生きている。★
(山田太郎)