ChiBiz Inside no.020


気が遠くなるほど煩雑な中国での会社設立

「自分で会社登記を試したのですが、何だか複雑で分からなくなってしまって…」
中国進出を目指していた日本の中堅大手企業の中国担当の役員の弁である。彼は、日本企業の中国担当役員としてもう15年も中国大陸で仕事をしてきた、いわば中国通。そんな彼でも、中国で会社登記をする際の複雑さに困難を極めるという。

「中国人名義を借りて内資企業(中国資本の企業)として登記してはどうでしょう」
中国人パートナーに相談すると、よく勧められるやり方だ。中国人パートナーは、自分で中国企業を登記したことはあっても、外国企業の登記に関してはほとんどの場合、経験がない。だから、よく知っているやり方がそのまま利用できる、内資企業の登記を勧めるわけである。

結局は、そのアドバイスに従い、「では内資企業でお願いします」と中国人パートナーに全てを委ねてしまったのである。

スムーズに企業設立が進み、ビジネスも順調に進んでいった。これまで香港を経由していたビジネスを全てこの中国内資企業に移管したので、当初から売り上げも利益もかなりあった。この内資企業は順調に利益を上げ、成長していったのである。

1年目は、出てきた利益は内部留保して、さらなる現地法人(内資企業)の成長に利益を充てることにした。そして、そのまま2年が経ち、日本と中国との連携強化から、本来の日中の連結の形にしようという話になった。その瞬間から、問題があらわになり始めたのである。

「当初は内資ということでスタートしましたが、そろそろ中国での体制も整ったので、内資企業を外資法人として登記し直して再スタートする準備を始めたいと思います」と日本側役員。すると中国側パートナーは、こんなことを言い始めた。「当初も何も、内資企業は、あくまで私個人の名前で私が登記して作った会社ですから、外資企業にする訳にはいきません」と。驚いた日本側役員も必死で食い下がる。「では、たまった会社の利益を日本側に返してください、これまで、多額の資金を投入し、面倒をみてきましたから」と。ところが中国人パートナーはまったくたじろがず、こう言い放ったのである。「面倒を見ていただいてきたことには感謝しますが、それはそれ、法律上は私の会社であることは間違いありませんから」

結局、その会社は中国人パートナーのものになってしまった。現地の法律事務所で会社を取り返すべく対策も打ったが、日本側の主張が通る余地はなかった。最初から外資企業としていても、配当というかたちで利益分を国外に持ち出すことは可能であっても、会社に資産となったお金を資本の移動ということで国外に持ち出すことは極めて困難なのだ。

日本側からみれば「中国人側に会社を乗っ取られた」ということになるのだろう。だが、中国人パートナー側にも言い分はある。それは、日本人に理解できないほど、会社登記や会社運営は中国大陸では難しいということなのだ。日本人は、登記はあくまで登記としか考えていない場合が多い。日本では職業の自由が保障されているので、登記はいわば「届け出」程度にしか考えていないのである。しかし中国では、ある仕事を始めようとすれば、それに関わる様々な許認可、免許が必要になる。それらを取得し、あるときは交渉して、ビジネスを勝ち取っていくのである。それだけの思いをして会社を設立し、維持し、利益を出したのは中国側といえる。日本側が権利を主張したいと思うのであれば、そのことを最初にきちっと決めておくべきだ、という考え方だ。

ここで、どれぐらい企業設立が厄介なのかをみていこう。参考のために、外資企業の設立のプロセスについても明示していく。

企業登記は、「工商行政管理局」が中心となる。その管理局の手続きに付随する部局として、質量技術監督局、地域商務委員会、外貨管理局などへの申請が必要となる。そこで、税務、財務、労働、社会保険に関してそれぞれの担当部署に申請を出すのである。

まず、工商行政管理局に企業名の登記(仮)を行う。ここでは、企業名は中国語と英語とを登記することになる。そこで注意したい点がいくつかある。民間企業の場合、最初に「中国」と「中国○○有限公司」と国名を付けてはならないルールになっている。「中国」とつけられるのは、国営企業や国家から認められた大手企業のみで、通常はつけられない。さらに、本社を明記した地域名もカッコ付でつけることになる。「○○貿易有限公司(広州)」などとなる。

日本人からすると広州のローカルな企業のように見えるので、中国全土で展開する企
業を運営する場合このカッコ地域名を付けたがらない会社があるが、中国ではどこで
登記されている会社なのか明示する必要があり、このカッコ地域名を付ける必要があ
る。だから、どの地域で仕事をするのか考えて会社名も登記する必要があるのだ。

会社名を決めると、次は、地域の商務委員会で外資企業登録(批准)証書の申請をす
ることになる。これがなかなか厄介で、申請のためには、会社定款、事務所の賃貸契
約書やFS報告書が必要になる。けれど、まだ会社は設立していないので、事務所や店
舗がうまく借りられない。ところが事務所や店舗が借りられないと申請ができない。
まさに堂々巡りである。この商務委員会も地域によってやり方やルールが違うようだ。
このように事情が複雑なので、先の例のように、全て中国人パートナーに委ねてしま
うケースが後を絶たない。

やっと最初の関門を越え、委員会で証書を取得できたら、また工商行政管理局に戻り営業許可証を申請することになる。ここでも、銀行口座も資本金もないので仮申請のかたちになり、その申請書を持って、中国の地元銀行で資本金用の口座、人民元取引の口座を開設することになる。そして、この銀行がまたくせ者で、なかなか口座開設の許可を出さないケースが多い。特に、地方銀行で海外企業の登記に慣れていない銀行は、まったく申請の方法を理解していない場合がある。何度窓口に行っても、やれこの用紙をさらに作成しろ、何かの証明書を持ってこいと、やることばかりが増えて、話がちっとも前に進まないケースが珍しくない。

けれども、銀行に口座がないとお金の出し入れができず、商売を始めることができない。銀行の口座が6カ月がかりでやっと開けたということで、お祝いに大宴会をやった日本企業があるぐらいである。私もその席に同席したことがあるが、まるで、銀行口座が出来たことで、中国でのビジネスがあたかも成功したかのごとく喜んでいた社長さんがいた。それぐらい厄介だと思って間違いない。

併行して、質量技術監督局で企業(組織)の番号を取得する手続きを進める。この部署の権限は大きく、仕事としては製品やサービスの品質、安全の全般について扱っている。模造品の取り締まりなどもこの部署の仕事になっている。

厄介ついでに、飲食店開設の場合は、消防許可や衛生許可証の取得が必要になる。特にこの衛生許可証の取得は困難を極める場合が多い。そもそも飲食店が集中しているアーケード街や飲食集中地域では問題にならないが、新しいビルや建物に飲食店が入る場合、その許可を取るのが困難なケースがある。

深センで複数の日本料理店を展開する私の中国人パートナーもオフィス街で日本料理店を開設しようとしたところ、許認可を取るのに1年以上も費やしてしまった苦い経験があるらしい。これまで幾つかの店舗を展開してきた中国人の彼ですら国内の許認可を取るのにこれほど手間取ってしまうのだ。何でも衛生局で申請を行ったところ「日本料理は生ものを扱うので衛生面のことは特別に厳しく見極めなければならない」と言われたようだ。まさに「因縁」をつけられた感じだったと彼はいう。儲かる場所でビジネスをしようとすることに、お役所は良い顔をしないようだ。

その後、衛生局の役人を接待漬けにして何とか許認可を取ることになる。さらに、ここに記述するのも面倒なほど、税務、財務、労働、社会保険局などへの申請業務が続く。一連の設立プロセスについては最後に参考でその流れを簡素に明示させていただく。

インターネット関連のビジネスを行う際には、その運用も含めて認可を得る必要がある。インターネット運営者は、サービスとコンテンツの内容と運営する企業の登記情報、営業許可書、責任者の名前とその身分証明書、などを届け出てICP番号の発行を受ける必要がある。Web画面のフッターにある「京ICP証0000123」などがICP番号だ。これをサイト内に掲載することで認可を得たサイトとして運営することができるのだ。この許可を取る場合も、コンテンツの内容などが引っかかってなかなか認可が得られないケースが少なからずあるという。

ここまででも十分に、厄介さが分かっていただけると思う。だからこそ中国でビジネスを始めるにはパートナーの力が絶対に必要だと感じる。進出するにしても全ての手続きが簡略化されており、手厚い支援がある工業団地や、飲食店ならそもそも許可が出ている店舗を譲り受ける方が楽、ということにもなる。

こうした話を聞くと、ひるんでしまう企業も多いかもしれない。けれどもそれは、日本の成熟した仕組みに慣れ親しみすぎていることの裏返しにすぎない。実際に、中国人はもちろん、欧米などの「外国人」も中国のビジネス界でしたたかに生き、多くの人たちが成功を手にしている。彼らにできることが、私達にできないはずはないと思うのである。★
(山田太郎)

<外資企業の設立プロセス>
(地域によって多少の違いがあります。あくまで参考として実際の登記設立は再確認をお願いします)

1、企業登記開始申請→工商行政管理局
2、外資企業登記(批准証書)証申請→地域商務委員会
3、営業許可証の申請→工商行政管理局
4、企業印鑑の作成と申請→地域公安局
5、法人番号の取得→質量技術監督局
6、外貨登記証の申請→外貨管理局
7、口座(資本金、人民元)開設→地元銀行(産業関連の銀行)
8、資本検査(験資)報告書作成→公認会計士事務所
9、税務登記証の申請→税務署(地税、国税、関税)
10、正式営業許可書発行    →工商行政管理局
11、財務登記証の申請→財務局
12、労働申請→労働局
13、社会保険登記証の申請→社会保険局
14、統計局への申請→統計局
(※10の営業許可証の発行があれば、営業はスタートすることができます)