ChiBiz Inside no.027


日本が見直されているわけ

「いかにカネを稼ぐか」
中国の書店に行くとこのタイトルの本が一番多い。中国で成功した起業家や金融関係の人が、チャイニーズドリームを書き綴った成功物語だ。

日本であれば、小さな街にでもたいがい書店はあるが、中国は全国的に書店の数が少ないように感じる。しかも、国営の新華書店がほぼ独占状態で、その他の書店もこの独占企業の関連会社である場合が多い。

そして、学習コーナーに行くと一人っ子政策の影響をもろに感じられる。母と子が一緒になって学習参考書を探しているのだ。子供を見ると、嫌々ついてきたという感じ。家庭教師と思われる大学に付き添われて来ている高校生らしき客も多い。中国における受験戦争は猛烈な闘いなのだ。幼稚園のころから数学や国語、英語などの勉強を始め、その受験戦争に備えなければならない。

毎年1000万人以上の学生達が「高考」と呼ぶ大学入試を受ける。そのうち大学に進学できるのは約600万人、北京にあるエリート校に進めるのは5万人足らずだ。難関と言われる清華大学や北京大学に入れるのはそのうち5000人程度に過ぎない。しかも、大学を卒業したからといって就職できるわけではない。5人に一人が就職できない。大学を卒業して就職できずにいる学生達を「蟻族」と呼ぶ。

こうした、過酷な争いを勝ち抜くため、多くの若者が外国語を学ぶ。中国でも、一番人気は英語のようだ。受験勉強の一環でもあるが、就職活動のために学ぶ人も多い。高い人気を誇る欧米の外資系企業に入るための勉強なのである。そのあおりを受け、日本に留学する学生や日本語を学ぶ人が減ったかというと、そうでもない。実は、英語に次いで中国で人気があるのは日本語なのである。

中国で日本語を勉強する人は、日本企業で働くことを目的としている。中国に進出している日系企業は3万社以上で、日本語を使って働く機会を探す学生も近年さらに増えてきているという。日本のアニメや漫画なども日本を学ぶ学生を増やす理由でもあるようだ。日本語の原典で日本のアニメを理解したいということらしい。

「日本語能力検定」という試験が中国にはあるが、毎年これらを受験する人は20万人にも上る。日本に来る中国人留学生は平成22年統計で14万人強と、過去最高の数字となった。「日本はダメだ。中国にGDPを抜かれた」と悲観する日本人は多いが、案外、日本は中国でまだまだ人気があるのだ。

日本人気は、意外な所にも現れている。人材市場における日本人人気だ。実際、中国企業が日本企業をターゲットとして、積極的にヘッドハンティングを仕掛けているという。「日本企業で教育された労働者は質が高い。評価すべきは身に着けた技術だけではない」「仕事の段取り、仕事への姿勢、礼儀、多くの点において中国企業や他の外国企業にはない能力を備えている」日本企業や日本人が高く評価されている点は誇らしいが、従業員が根こそぎ抜かれてしまうのではとちょっと心配だ。

そういえば、ある中国人経営者が言っていた。「日本企業は、多額の資金を使って従業員に研修を受けさせます。工場の掃除の仕方まで教えているらしいのです。それらの従業員に、当社(中国企業)に来てもらいたいですね。それこそ効率的な経営というものでしょう」日本ですでに研修を受け技術や作法を学んだ従業員を雇うことで、教育費を削減できるというわけだ。

それだけ人気があるのであれば、5000人に勝ち残った清華大学や北京大学の学生たちの間でも日本企業はさぞや人気があるだろうと思うのだが、実はそうでもないらしい。彼らが目指すのは欧米の一流企業、特に外銀(外資系銀行)だ。こうした企業は実力主義を採っており頑張ればトップにもなれる。事実、中国現地法人として展開する外銀のトップは、そのほとんどが中国人だ。一方、中国にある日本企業のトップは、ほぼ例外なく日本人となっている。

学生だけでなく、実際に日系企業に勤めている中国人も不満を募らせている。そのような生易しい状況ではなく、爆発寸前といっていいかもしれない。

彼らは言う。
「全然、給料が上がらないんだ。中国系企業でも3年も働ければ主任(課長)になれるところもある。主任になれば、給料が新卒の10倍って企業もあるのに」
「日本人の上司が、ことあるごとに『君の日本語はまちがっている』とうるさく注意する。自分はまったく中国語を話せないくせに。そもそも中国語を勉強しようという気すらない。そんなやつに『日本語をもっと勉強しろ』とか言われたくない」「夜は、キャバクラ、土日はゴルフばかり。我々中国人が残って仕事をしていても残業代さえ払ってくれない。それなのに自分たちは、ろくに働きもせず我々の10倍近い給料をもらっている」「どんなに働いても日本人の奴隷。中国人でこの会社のトップになれる可能性はゼロ。結局、すべては日本の本社次第。私達には何の権限もない」

中国人が最も嫌うのは「上から目線」だという。言葉の端々にそれを感じるらしい。日本人が言っていることを、通訳がいつも困って訳せないでいることを彼らは知っているのだ。次に褒めないこと。叱るが10に対して褒めるは1もない。中国人は元来褒められるのが好きだ。本当は、中国では「褒めて伸ばす」方が上手くいくのかもしれない。

しかし、そんな問題だらけの日本企業に対して最近、中国人の見方が少し変わってきた。「一生、安定して暮らしていけるなら、少々のことは我慢する」などと言う若者が増えてきたのだ。変化を好み、競争し続けるのが現代中国人の気質の典型と思われているが、その一方で安定を求める若者が急速に増えてきているのである。

「基本給にボーナスがあれば十分です。その代わり解雇されないという保証が欲しい」
「福利厚生や保険を付けてもらえるのが日本企業のいいところ。競争ばかりが全てではありません」
「中国企業はころころ変わりすぎ。日本には100年も変わらず存続する企業があると聞きます。うらやましい」

中には、こんな声もある。
「日本企業は家族のように従業員を扱います。案外、中国人の家族主義と合っているかもしれません」
その日本企業は、社長が全ての従業員の家庭を訪問し、両親などに従業員を「家族のように扱いますから」とわざわざ説明して回っているのだという。欧米系企業や中国企業ではまず見られないやり方だが、中国にある日本企業では、こうした例は少なくない。

松下幸之助の「会社の家族主義」というのも見直されているらしい。そういえば、松下幸之助に並び、京セラ創業者の稲盛和夫氏の本も中国の書店では飛ぶように売れている。

今、再び、日本企業は中国人に見直されている。ただその「日本企業の魅力」は、日本では過去の遺物とされ、グローバル化の波にもまれ消滅しつつあるようにもみえる。何が日本の強みなのか、ということを、私達こそ見つめ直す必要がありそうだ。★
(山田太郎)