2022.5.24

不登校支援の全体像~これからの不登校の子ども支援とは~【前編】

 2022年4月29日、岐阜県揖斐郡にある不登校特例校「西濃学園」を視察してきました。視察レポートの前に、今回のブログでは日本の不登校に関する国の施策について現状と課題をまとめたいと思いまます。

■不登校の現状
    今我が国では、不登校の児童生徒(小中学生)数は約20万人にのぼります。1000人に20.5人の割合です。新型コロナ感染症が流行する以前の19年度でも18万人と、8年連続で増加しています。ここでいう「不登校」とは、何らかの要因・背景により年間30日以上欠席した子どもたちです。不登校傾向にある子どもを含めるとその数は倍増するのではないかともいわれています。もはやこの数字は、教育現場に任せておける問題ではなく、国としても対策が急務だと思っています。

出典)文部科学省

■不登校になる要因の2割強は、「自分でも分からない 
    では、この不登校になった子どもたちは、なぜ不登校になってしまったのか。文科省の調査によると、小学校では「先生のこと」「身体の不調」「生活リズムの乱れ」、中学校では「身体の不調」「勉強が分からない」「先生のこと」という順になります。しかし、上位の回答割合は横並びで、はっきりとした共通の要因があるわけではありません。そして、子ども自身もきっかけが分からないという回答も2割強あります。また、「きっかけ」からその後も学校に行きづらくなる理由についての調査もおおむね同じような回答傾向になっています。

 これらの調査から分かるのは、原因や状況は複雑かつ千差万別だということです。問題を解決するためにはそれぞれの子どもにきちんと向き合っていく必要があると思います

(文科省資料より引用)

 
  そして 「早く学校に戻りたかった」と感じていた子どもは小学生が24.4%、中学生は29.4%という結果でした。不登校の子どもの1/4が学校への復帰を望んでおり、単純な計算だと5万人の子どもたちが学校復帰を望んでいるのです。加えて特筆すべきは、「勉強の遅れに対する不安があった」と回答した子どもの割合は、小学生が6割強、中学生は7割強、そして「進路・進学に対する不安があった」と回答している中学生も約7割もいることです。 ここから、少なくとも教育的支援にニーズがあることは分かります。また、自分のことが嫌で仕方がなかったという辛い気持ちを抱えた子どもが約半数であり、子ども達が様々な不安や課題を抱えていることも分かります。西濃学園の皆さんに伺っても、やはり子どもたちの多くは学校に行かないのではなくて、行きたくてもいけないのが実情とおっしゃっていました。

■国の不登校支援
  現在国では、文科省を中心に以下の5つの支援施策を実施しています。これらの施策にはいくつか課題があると思いますので、詳細をみていきます。

 

●教育支援センター
 不登校支援の一番大きな柱である教育支援センターは、不登校児童生徒の社会的自立に向けた指導・支援を担う公的な機関です。以前は適応指導教室と呼ばれていましたが、名称が変わりました。令和元年度時点で全国に1527箇所設置されています。これは一見多そうに見えますが、設置自治体の比率は63%であり、4割の自治体では設置されていません利用している児童生徒は約2万人と全体の20万人の分母からみても十分機能しているとは言えないと思います。そして、文科省が行った調査では、教育支援センターを設置していない自治体に理由を聞いたところ、「予算・場所の確保が困難」の問題が上位を占めていました。これでは、どこの地域に住んでいるかによって支援を受けられるかどうかが左右されてしまいます。

●不登校特例校
 不登校特例校とは文科省の指定を基に、不登校の生徒児童の実態に合わせて弾力的な教育課程を編成することができる学校のことです。現在全国で21校が指定されており、今回視察をした「西濃学園」もその一つです。20万人いる不登校に対して全く足りていないのは一目瞭然です。この不登校特例校の課題については、後半のブログで詳細に取り上げます。

●教育相談体制の充実
  学校内のカウンセリング機能の充実を図るための施策として、「スクールカウンセラー」の配置と「子どもと親の相談員」の配置が進められています。スクールカウンセラーの事業では、臨床心理に関して高度な知識・経験を有する者をスクールカウンセラーとして配置しています。スクールカウンセラーの配置は全公立小中学校に進んできているものの、家庭にも関与して公的支援につなぐなどの役割を担うスクールソーシャルワーカーは中学校区に対する配置に留まっています。いじめや不登校、虐待対策には、各家庭までアプローチできるスクールソーシャルワーカーが必要ですが、自治体や現場からは国の予算が少なく配置が進められないという声を聞いています。ある学校現場では、「すぐに対応してほしい案件で、スクールソーシャルワーカーの予約を取ろうとしたところ「伺えるのは3か月後」という返答があった。3か月後では遅すぎて意味がない」ということもおっしゃっていました。スクールソーシャルワーカーの充実も必須であると考えています。


図)文部科学省

●指導要録上の出席扱い措置
  現在、不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合、一定要件を満たせば、校長の裁量で指導要録上出席扱いすることができるようになっています。しかし、現状学校外の学びで出席認定をもらっているこどもは、24,260人(全体の13%)、自宅のICT等を活用した学習で出席認定をもらっている児童生徒は638人で、全体の0.3%しかいません。様々な方にヒアリングをしていますが、その原因としては、①学校現場や親への制度の認知が進んでいない、②横並び主義で他の学校で認定をしていないとできない、といったことが大きいようです。

資料)文部科学省初等中等教育局児童生徒課「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」令和2年度

 民間の取り組みとしてフリースクールもありますが、文科省は正確な数や内容については把握もしていなければ質の担保もしていません。当然ながら、家庭への費用負担も公的な支援よりも高くなる傾向にあります。家庭に経済的な余裕があるかどうかによって、不登校支援が受けられるかどうかが決まってしまう、支援を届けるべき子どもに支援が届かない事態が発生しています。

今後の不登校支援 
 「不登校=悪」ではないですし、学校に行くことだけが全てではありません。中には、学校には行きたくないけど勉強はしたいという子もいるでしょう。学校に行きたくてもいけない子どもへの支援をすること、勉強をしたい子どものために環境を整えることは政治の責務であると思います。こども1人ひとりの個々の状況に合わせたきめ細やかな公的支援と選択肢の提供を充実させることが必要だと思っています。後編では、不登校特例校の現場について、報告したいと思います。

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