2023.5.10

【韓国視察レポート③】養子縁組の養親向け事後サービス専門機関を視察。出自をどう伝えるかの重要性

写真)私(山田太郎)と健康な養⼦縁組家庭⽀援センターのイ・ソラ代表(中央)

2022年12月21〜23日の韓国視察、こども関連の3か所目は、京畿道始興市にある「健康な養⼦縁組家庭⽀援センター」に伺いました。

健康な養子縁組家庭支援センターは、養子縁組後の生活で直面する様々な課題を支援するために2015年に設立された、養子縁組事後サービスの専門機関です。

主な活動として

①養子縁組三者の生涯発達に基づいた教育と相談(養親、こども、実親の三者固有のアイデンティティ形成の支援

自助会統合支援サービスを提供

養子縁組図書の出版  を実施しています。

⽇本では養⼦縁組をした後の新しい養親や家族のサポートについて、ほとんど議論がありません。そこで、韓国にて養⼦縁組のアフターサービスを専⾨に⾏う団体の現状と課題を伺うことで、⽇本の養⼦縁組家族の⽀援政策に反映する狙いがあります。さらに、養⼦縁組の際に「こどもの知る権利」をどのように保障しているのかについて、詳しく学んできました。

■なぜ、養子縁組事後サービスの専門機関をつくったのか?

まず「なぜ、養子縁組事後サービスの専門機関をつくったのか?」そのきっかけを伺いました。実は、代表のイさん自身がこども3人を養子に迎えており、その際に、専門家や相談相手がいなく、大変苦労し辛かったという実経験からセンターの設立を決意したそうです。

実際に3人のこどもを迎えた経験について、「3人のこどもは現在、高校生、中学生、小学生。開放型養子縁組として実の親とも会って迎え入れました。3人のこどもが私たちと家族になった方法は、年齢もプロセスもそれぞれ違い、家庭の中でのケミストリーも違いました同じ養子縁組でも反応がそれぞれ違うのです。5歳の子はとても傷が深く、実の親からもらったものも何も残っていませんでした。本人も『5年間の喪失感は言いようがない』と言っていました。2番目の子は、喪失感はありませんでした。養子と分かっても自然に受け入れ自身の道を通っていくようでした。3番目の子は親からのプレゼントや写真、手紙があり、こどもについてもそれを知らせていました。ふつうは“捨てられた”という記憶が一生の傷になりますが、事実を一番肯定的にとらえており、自尊心が高いです」

とおっしゃっていました。それぞれのこどもの背景によって、受け止めが全く異なるということがよくわかりました。

■こどもの出自を知る権利がなぜ重要なのか?

「出自を知る権利」についても、詳しく聞きました。出自を知る権利とは「自分がどのようにして生まれたのか」そして「自分の遺伝的ルーツはどこにあるのか」を本人が知る権利のことです。生殖技術が進展する中、生まれる子が遺伝上の親を知る権利が保障されていないことについては、日本の国会の議員連盟でも議論がされてはじめていますが、私は、養子縁組のこどもにも当然に知る権利を保障することが必要であると考えます

イ代表は、「こどもの場合は、歴史のなかで、新しい家庭に来て親と一緒に暮らす前の時間、つまり「産みの親」と過ごした記憶が残っているほうが自尊心が高いと思います。それが、自己肯定につながります。もし、産みの親と過ごした時間があると、『自分は何者なのか』『自分はどこから来たのか』と生きる根源になるアイディアが揺らいでしまうのです。ですから、空白がないように、産みの親からもらった記録を保管、保存し、自分を愛された存在だと認識させることがもっとも大事です。」

また、こどもに事実を知らせるタイミングについては、「タイミングはとても難しいしことですが、養子縁組でこどもを迎えたら、できるだけ早いころから事実を話す、そして、血は繋がっていなくとも愛しているということを伝え続けることが大切です。もし後になって実親でないと事実を知った場合、これまでの自分の人生が嘘の上に成り立っているように感じ、生きてきた人生すべてが揺らいでしまうことになります。それは、避けなければなりません。」と話します。

こどもたちの空白の時間ができないように、すべての情報をできる限り集め、事実を伝えることの必要性について、その重要性を理解しました。

写真)代表のイ・ソラさんらとの意見交換の様子です。

視察を終えて

今回の視察を踏まえて、私はこどもの出自を知る権利を守るために、以下の2つのポイントが重要であると考えます。

国が養子縁組の情報を保管、保存し、出自を知る権利を保障する

養子縁組をしたこどものアイデンティティを守るためには、実の親からもらった記録を保管、保存し、記憶に空白の期間をつくらないことが非常に重要。実親の存在を最後まで開示しないケースもあるが、少なくともそのこどもは知る権利がある。こどもが出自を知るという選択をした際に円滑に手続きが行えるように、国が養子縁組の情報を保管、保存するデータベースを構築する必要がある

養子縁組後の生活を支援する仕組みを作る

日本では、一時保護等の入口の議論はようやく活発になってきましたが、出口の質の向上も非常に重要。養子縁組をした親が子育てがうまくいかない時や悩んだ時に、養子縁組をした先輩家族や専門家に相談できるような体制も整えることで、結果としてこどもにとっても非常に良い環境になるこどもに実親の存在をどのタイミングでどのように伝えるのか、心理的負担がかかるので、こういったことも相談できる団体は、当事者にとっても非常に心強い。

養子縁組のこども達のアイデンティティーの確立に向けて、日本でも出自を知る際のプロセスの整備に取り組みたいと思います。

番外編 

今回の韓国視察はとにかくタイトで忙しかったため、食事の時間を割くこととなりました。左の写真はコンビニで昼⾷を買い、移動中に⾷べているところです。 容器が柔らかすぎて、バランスを取りながら⾷べるのに苦労しました。右の写真は唯⼀ゆっくりできた昼⾷。と思いきや、5分で⾷べ終わってしまい早めに次のアポイント先に向かいました。しかし、次のアポイントの場所に誤りがあり、⾞で40分移動することに︕ 5分で⾷べ終わり早めに向かったおかげで、オンタイムで開始できました。