2025.2.26

日常生活用具給付等事業の誤解!発達障がい・精神障がいでも対象。自治体格差是正へ①

発達障がいがあるお子さんを育てる当事者の方、こども政策に取り組む地方議員、必見です。
「日常生活用具給付制度の対象は身体障がい者のみで、発達障がい・精神障がいのある人々は利用できない」というのは誤解!厚労省の見解を紹介します。
最下部には、全国47都道府県の対象表も載せていますので、どうぞご活用ください。

背景

私はこれまで、発達障がいや精神障がいを抱える方の働き方の選択肢を広げる政策を推進し、そうした取り組みをする民間企業を応援してきました(詳細はこちら)。(注1)
その一方で、こども家庭庁を創設する過程で大変驚いた事実は、国に障がい児専門の部署がなかったということです。同じ障がいでも対象がこどもと大人では、まったく違った政策が必要です。
そこで、こども家庭庁では、障がい児支援をする専門の部署をつくりました。それにより、補装具支給制度の所得制限撤廃や、こどもホスピスの調査研究事業も実現できました。
 しかし、私がまだまだ大きな課題だと感じていることのひとつに、発達障がい児への支援があります。国の発達障がい児に対する施策の少なさや、不登校との関係については別のブログで詳しくまとめますが、今回は、「発達障がい・精神障がいのある人々が日常生活用具を利用できていない」「地域により日常生活用具給付が使えないことがある」という課題を取り上げます。
当事者や企業、地方議員の方からこのような陳情を受け、役所と議論を重ねた結果、情報が正しく伝わっておらず現場や地方議会で誤解が生じていることが判明しました。多くの市区町村で同様の問題が起きていると考えられますので、このブログを拡散し、正しい情報を広げていただくようお願いいたします。

日常生活用具給付等事業とは?

日常生活用具とは、障がい児・者または難病等の方の自宅での日常生活を容易にするための生活用具のことです。「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令」(以後、障害者総合支援法)の事業の一つとして地域生活支援事業において、日常生活用具の「給付または貸与」が実施されており、市町村により給付品目・補助基準額・対象者等が異なります。発達障がい・精神障がいのある人で給付を受けるには、療育手帳または精神障害手帳を持っているか、障害福祉サービス受給者証が必要になることが多くなっています。
以下の図にあるように、「用具の要件」がすべて満たすもので、「用具の用途及び形状」のいずれかに該当するものについて市町村が定める種目が対象となります。費用は市町村の支弁とされ、都道府県は100分の25以内、国は100分の50以内の負担です。

資料提供)厚生労働省

課題

この日常生活用具給付等事業ができたのは、平成18年10月。それ以前は、身体障がい者の方を対象とした制度だったことが原因で、現在のこの制度も、身体の障がいを対象としていると誤認されています。厚労省は、日常生活用具給付等事業の総事業費に占める「用途・形状」区分ごとの割合しか把握していないため(注2)、発達障がいや精神障がい者が対象とされていない原因を、それぞれの立場の方からヒアリングを重ね分析した表が以下です。地方議員数十人にも確認しましたが、この制度で発達障がいや精神障がいが対象になると知っている先生はいませんでした。

写真)ヒアリング一例:障がいのある方の支援をする企業からのヒアリング(ラーゴム・ジャパン株式会社代表取締役藤井さん、株式会社アシテック・オコ代表取締役小林さん、テクノツール株式会社代表取締役島田さん

既存の種目を見直すことについて、令和2年度の厚生労働省が実施した「日常生活用具給付事業の実態把握報告書」をみてみると、「定期的に見直しを行っている」自治体はわずか2.3%、「特に見直しは行っていない自治体」は30.3%にも上ります。後ほど触れますが、厚労省は「平成18年以前に厚労省が定めた種目にとらわれず、各自治体でニーズなどを聞き取って対象種目を見直すよう」、令和6年3月に通知を出しています。この通知で見直しがどれほどの自治体が定期的に見直しを行うようになったのか、厚労省にしっかり確認をするよう求めます。

出典)厚生労働省「令和2年度障害者総合福祉推進事業 日常生活用具給付事業の実態把握報告書」

厚労省の見解

まず、市町村職員や、地方議員の先生方の誤解を解くために、厚労省から引き出した見解をQA方式で示します。

Q:日常生活用具給付等事業の対象は「身体障がい者」に限っているのでしょうか?
厚労省:いいえ。日常生活用具給付事業は身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者の方も対象です。
理由:
日常生活用具給付等事業は、障害者総合支援法第77条において、市町村が行う地域生活支援事業の内、必須事業の一つとして規定されています。

この法律における「障害者」とは、第2条で「障害者若しくは障害児(以下障害者等)」と明示され、第4条で障害者とは身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、障害児と定義(注3)されています。
日常生活用具給付事業はこの法律に則って行うため、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、障害児が対象となります。

Q:インターネットで検索すると厚労省のページで、「障害者自立支援法に基づく日常生活用具給付等事業の概要」と「(参考)日常生活用具参考例」が表示されます。
「日常生活用具参考例(以下の表)」には、「種目」や「対象者」が身体障害者に限定されており、この参考例を判断基準にしている自治体も多くみられます。この参考例に法的拘束力はあるのでしょうか?

△インターネットで検索すると、厚労省のURLで閲覧できた「日常生活用具参考例」※現在は削除されています。

厚労省:この参考例に法的拘束力はありません。
理由:
対象種目は、厚生労働省告示で定めるものが対象となります。具体的な用途及び形状は文章で書かれており、該当するものは給付の対象となります。

出典)厚生労働省

Q:では、この「参考例」がなぜネット上に掲載されているのでしょうか?この「参考例」が現場で誤解を生んでいる原因のひとつだと考えられます。
厚労省:混乱を招くので削除します。
掲載していた理由:
平成18年10月に障害者自立支援法ができる以前は、「身体障害者物品」ということで、制限列挙方式で各自治体に事業をおこなってもらっていた経緯があります。平成18年10月に対象が告示に切り替えられた際、「例示がないと自治体も困るだろう」という考えがあったと思われ、そのタイミングで例示を示したと推測されます。
当時の資料としては各自治体が参考にするものとして一定の効果はあったかもしれませんが、混乱を招くため削除致します。
(2025年2月現在、削除確認済)

Q:誤った解釈で対象種目を定めている自治体がありますが、厚労省はどのような対応をしていますか?
厚労省:平成18年以前に厚労省が定めた種目にとらわれず、各自治体でニーズなどを聞き取って対象種目を見直すよう、令和6年3月に通知を出しています。
課長会議資料は、通達と同様に各自治体へ送付しており、周知されているものと承知しています。

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障害保健福祉関係主管課長会議資料(令和6年3月)
社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室

「当事者団体等からは、一部の市町村においては、長期間にわたり種目や基準額等の見直しが行われていない状況にあるとの声も寄せられているところである。
 このため、各市町村においては、平成 18 年の障害者自立支援法以前に国が定めた基準額や実施方法にとらわれることなく、定期的に当事者の意見を聴取によるニーズ把握や実勢価格の調査等、地域の実情に即した、適切な種目や基準額となるよう定期的な見直しに努められたい。
==
Q:告示の規定に「介助者」があり「保護者」がないのはなぜでしょうか?
厚労省:基本的には障害のある方が使うものと考えています。
例えば、入浴補助具は保護者・介助者が使うものですが、本人が入浴したいので本人に帰属するものだと考えています。

Q:障害者総合支援法の中で「障害者等」というのは障害者、障害児が含まれます。例えば、1歳の障害がある子の場合、それは「本人が使用するもの」ではなく保護者が使うものという形に整理せざるを得ないのではないでしょうか?障害児については、保護者の視点も欠かせず、当然に保護者も含まれるという法律上の解釈が必要であると考えます。
例えば、障がい児用の特殊な抱っこ紐があり、日常の移動や、災害時の避難のために使用されます。この用具についても「保護者が使うものなので対象外」だと解釈している自治体がありました。

厚労省:障がい児用の抱っこ紐は本人の移動支援であるため、「ロ)自立生活支援用具」の「移動・移乗支援用具」として、対象にしてもいいのではないかと考えます。
例えば、簡易的なコミュニケーション支援用具であったとしても、保護者の方とコミュニケーションを図る、それは本人の意思表示のためであるので、基本的には、障がいのある方が使用するものだと考えます。

Q:例えば、発達障害の方々のための環境調整用具として使われる特殊な重みのあるブランケットもあります。この用具についても「前例がないので対象外」だと解釈している自治体がありました。
厚労省:「イ)介護・訓練支援用具」、もしくは「ロ)自立生活支援用具」で解釈できると考えます。

おわりに

 今回私がこの問題を取り組んだ理由は、住んでいる地域によって障がいのある人への支援が異なることを、少しでも是正したいと考えたからです。国の解釈が正しく地方自治体の現場に伝わるよう、情報をまとめて発信しました。
 また、私がこれまで視察した学びの多様化学校の先生や、不登校支援をおこなう方から「不登校児の相当な割合に発達の課題があると感じる」と伺いました。
 不登校支援として学びの選択肢を確保することも推進していますが、通常の学級で発達に課題がある子が生活しやすい用具を補助し、環境を整えることで、不登校にならずに済むこどももいるのではないかと思います。
 厚労省には、再度の自治体への周知徹底を強く求めておりますが、当事者、支援者、地方議員の先生方の力が不可欠です。地域の障がい児・障がい者の方に必要な支援が届くよう、本制度の解釈を正しく理解いただき、自治体に対して声を上げていただきたいと思います。今回は触れていませんが、障害者手帳がない難病患者さんの日常生活用具の利用についての改善も重要な課題です。

全国の「日常生活用具給付等事業」において発達障害・精神障害を対象とする自治体の事例

全国の「日常生活用具給付等事業」において発達障害・精神障害を対象とする自治体の事例
こちらからダウンロードしていただけますので、ご活用ください(※2025年2月26日時点)

(注1)このブログでは、法律や制度の名称、厚生労働省の発言以外は、「障がい」と表記しています。
(注2)ちなみに、令和4年度日常生活用具給付等事業の総事業費に占める「用途・形状」区分ごとの割合は、排泄管理支援用具(ストーマ・人工肛門)が約8割を占め、介護・訓練支援用具、自立生活支援用具、在宅療養等支援用具、情報・意思疎通支援用具、居宅生活動作補助用具がそれぞれ数%です。
(注3)(定義)
第四条 この法律において「障害者」とは、身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者、知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条第一項に規定する精神障害者(発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七号)第二条第二項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。以下「精神障害者」という。)のうち十八歳以上である者並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が主務大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるものをいう。