2026.2.19
海外視察報告①〜養子縁組とこどもの出自を知る権利の保障、韓国から学ぶ〜

写真)北部児童保護専門機関の職員の皆様と
(左下は、⽬⽩⼤学⼈間福祉学科の姜 恩和(カン ウナ)教授)
2025年12月、山田太郎事務所において韓国視察を実施しました。
今回の視察の主な目的は、韓国ですでに制度化されているこどもの出自を知る権利および養子縁組記録の在り方について、実態を調査することです。こどもの出自を知る権利とは、こどもが自らのルーツを知る権利を指します。日本ではまだ十分に浸透しているとは言えませんが、日本も批准している児童の権利に関する条約(こどもの権利条約)第7条には、「児童は、できる限りその父母を知り、かつその父母によって養育される権利を有する」と規定されています。また、国内法であるこども基本法においても、「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり」と明記されています。
私はこれまで、「社会的養護のこどもたちの出自を知る権利に関する勉強会」への主宰や、いわゆるベビーライフ事件をはじめとする社会的課題について、各省庁へのヒアリング等を積極的に行ってきました。当事者、実務家、専門家の方々と議論を重ね、諸外国の制度も参照しながら日本の制度改善に向けた政策提言を行ってきましたが、いよいよ法整備が求められる段階にあると考え、今回あらためて視察を行いました。
今回は、韓国に所在する専門機関3か所を訪問し、各施設の概要や養子縁組記録の保存・管理の実態等について意見交換を行いました。
- 北部児童保護専門機関
- 児童権利保障院/保健福祉部
- 社会福祉法人大韓社会福祉会
🔸韓国における養子縁組政策の転換
現在の韓国における養子縁組政策は、1950年代の戦後混乱期、またその後の韓国国内の貧困等を背景とした保護対象児童の増加を受け本格化しました。この期間、民間養子縁組機関が中心となって国内外への養子縁組を進め、2020年までに約24万人(国内約7万人、国外約16万人 )が養子縁組されています。長らく手続きやマッチング、アフターケアまでを民間機関が担当していましたが、情報管理の不備や不適切事案が頻発し、国家責任の問題へとなっていきました。そのため2007年には養子縁組情報を一元管理する機関が設置され、出自情報の集約が進められました。

資料)韓国での養子縁組の推移(姜恩和教授提供)
その政策決定の過程では、過去に散逸していた情報を収集するとともに、当事者団体の声を反映させながら条文を策定するなど、当事者と政府が協議を重ねてきました。その後、約10年にわたる議論を経て、韓国内において国際養子縁組の規制や国内養子縁組、ならびに子どもの出自を知る権利の具体的制度を定める法律が整備されました。2013年に韓国はハーグ国際養子縁組条約に署名し、2023年には関連法が改正され、養子縁組機能の国家への移行が進められました。
法改正後は、保護対象児童について国および自治体が責任主体となり、保健福祉部が政策を統括し、児童権利保障院が手続および情報公開を担う体制へと転換されました。また、養子縁組政策委員会による適格審査やマッチングの公的実施、記録の永久保存、情報公開の一元化など、子どもの権利を中心に据えた制度への再編が進められています。
このような大きな政策転換の最前線にある現場を視察しました。
🔸北部児童保護専門機関

写真)北部児童保護専門機関の皆さんとの会議の様子
最初に訪れたのは、北部児童保護専門機関です。ここは、ソウル市25区のうち北部2区を担当する児童虐待対応の専門機関です。2004年に設立され、20年以上にわたり現場で虐待対応を担ってきました。韓国では2000年の法改正を契機に民間主導で虐待対応体制が整備され、2014年の児童虐待処罰法制定により対応が強化されました。その後、2020年10月からは虐待通告後の初動対応を公的部門が担い、その後の事例管理や家族支援を専門機関が担う仕組みに再編されています。
1.制度上の位置づけと役割分担
現在、虐待通告は主に警察に入り、自治体に配置された虐待専門公務員が現場調査を行っています。公務員が虐待の有無や重症度を判断し、分離保護(一時保護・施設・里親等)か在宅支援かを決定します。分離保護とは、施設での一時保護や里親との生活を検討するなど虐待の加害者とこどもを分離させる保護の方法です。在宅支援と判断されたケースや、分離後の家族再統合支援が必要なケースが、北部児童保護専門機関に公文書で移管されます。移管後、ケースは「集中」「一般」「モニタリング」の3類型に分けられ、支援強度や訪問頻度が決定されます。法的根拠に基づく事例管理であるため、保護者が介入を拒否する場合でも、自治体から事例管理対象である旨の通知を受け、北部児童保護専門機関が法に基づき訪問・支援を行います。
2.支援内容
北部児童保護専門機関の支援は、①虐待予防、②家族関係の改善、③こどもの回復支援、の3つで構成されています。単に指導を行うのではなく、「家族チーム」として家族主体で課題解決に取り組む点が特徴です。具体的には以下の取組を行っています。
- 訪問型家庭支援プログラム
支援が必要な家庭を選定し、定期的に家庭訪問を実施。養育態度の改善、体罰に代わるしつけ方法の指導、一貫した反応の重要性の理解促進などを行います。夫婦間の関係に問題がある家庭には夫婦関係改善プログラムを実施します。 - 保護者教育・加害保護者プログラム
虐待の定義やこどもの発達理解、怒りのコントロールなどについて複数回の面談・教育を行います。家庭復帰を希望する場合は、所定のプログラムを履修し評価を受ける必要があります。 - こどもへの支援
トラウマケア、情緒安定支援、心理検査、個別カウンセリングなどを実施します。性的虐待の場合は専門センターと連携しています。 - 経済的支援・資源連携
経済的困窮が背景にある場合、年間一定額の物品支援や外部資源(200万〜800万ウォン規模の支援)につなげ、生活保護制度の活用支援も行います。 - 家庭復帰支援プログラム
一時保護後の復帰にあたっては、段階的外泊や集中的訪問を行い、復帰後は週1回訪問や月数回のモニタリングを実施します。再発がない状態を6か月以上確認し、自治体の審議を経て終結します。支援期間は最短9か月、重症例では2〜3年に及ぶこともあります。
このような児童保護機関が実施するプログラムの多くは、民間法人が独自に作成したものですが、実施機関によって支援内容に差が生じないよう、児童権利保障院と共同で開発されたものもあると説明を受けました。
現在では、全国100か所の保護専門機関において同様のプログラムが実施できるよう、内容の標準化・均一化が進められているとのことです。

写真)北部児童保護専門機関の施設の様子
3.組織体制や地域連携
北部児童保護専門機関は職員14名、うち相談員9名で構成されており、1人あたり約40ケースを担当しています。1人20ケース以下を担当することが理想とされていますが、現状は職員への負担が大きい状況が続いていると伺いました。財源に関しては約85%が国費、15%が法人負担で、法改正後に国家負担が増えたことが特徴的です。
また、この機関は社会福祉法人によって運営されており、法人内研究所で専門研修が実施されています。職員は社会福祉士資格を有する上、心理分野の専門性を備え、100時間以上の専門教育を受けています。さらに、区、警察、学校、医療機関などと情報連携協議会を構成し、合同点検が年2回実施されています。これらの機関では個人情報保護法上の制約に留意しながら、実務レベルでの情報共有が図られています。また、医療機関や法律事務所との連携体制も整備されています。
4.成果と課題
公的部門が初動を担うようになり、対応の迅速化というメリットが生まれました。一方で、公務員の異動や苦情対応への慎重姿勢から、虐待認定件数の摘発が以前よりも効率的になされていないのではないかという懸念もされています。虐待認定件数の中で再発率は現状約15%となっており、再発予防強化を重視する取り組みが多様化されています。韓国社会でも、児童虐待は深刻な社会課題であるとされ、地域ぐるみの支援をすることでこの現状を是正していこうとの動きがみられます。北部児童保護専門機関は家庭機能の回復とこどもが安全に成長できる環境づくりを目指している現状でした。
日本において、虐待を受けた子や家庭の長期的なアフターケアを担う専門機関は、現時点では存在していないのが実情です。多くの場合、保護や一時的な支援に重点が置かれ、その後の継続的な心理的支援や自立支援、記録へのアクセス支援などは十分とは言えません。
その点、今回視察した機関では、虐待後の回復支援のみならず、当事者が自らの人生を主体的に再構築していくための伴走型支援が体系的に整備されていました。制度として位置づけられ、専門職が連携しながら長期的に関わる体制は、日本にとって大いに参考となるものです。
だからこそ、本視察の意義は非常に大きく、今後、日本においても必ず整備が求められる施設・機能であると強く感じました。単なる先進事例の紹介にとどまらず、日本の制度設計に具体的に反映させていく必要性を実感する機会となりました。





