2026.4.27
児童福祉法、「大人の都合」から「こども中心へ」本気の法改正へ
平成28年の児童福祉法改正は、日本の社会的養育を大きく前進させる重要な転換点となりました。しかし、その理念を現場で確かな成果として実現するためには、なお制度面での補強が必要です。こうした問題意識のもと、さらなる実効性を持たせるための法改正に取り組んでいます。本稿では、その内容について紹介します。
1.平成28年改正は、日本の社会的養育を大きく前進させた転換点だった
平成28年(2016年)に行われた児童福祉法改正は、日本の社会的養育の歴史の中で画期的な改革でした。「子どもは権利の主体である」、「家庭養育優先原則」という理念を法律に明記し、社会的養育の方向性を大きく変えた改革です。
特に、「3歳未満の子どもは家庭的養育(里親・養子縁組)が原則」という国際基準に沿った方向性を示したことは、日本の制度を大きく前へ進めた重要な一歩でした。
この理念が明確に示されたことで、自治体や現場の意識は確実に変わり始め、家庭養育の重要性は社会全体に広く共有されるようになりました。
2.しかし、理念を実現するための制度が十分ではなかった
一方で、この10年で明らかになったのは、理念を現場で確実に実装するための仕組みが十分に整っておらず、制度的な後押しが不足していたという現実です。
たとえば、以下の点が課題として挙げられます。
・里親委託率の伸び悩み
平成28年の改正の児童福祉法理念は、5年以内に3歳未満のこどもの、7年以内に就学前のこどもの里親委託率75%以上を実現させ、学童期以降は10年以内を目途に里親委託率50%を実現することでした。
しかし、実際は令和6年度末の里親等委託率は 29.4%。平成28年改正後の改善幅は 毎年+1%前後 にとどまり、国が掲げた2022年までに75%という目標の達成が困難な状況です。

・自治体間の格差
里親委託率は全国で5倍以上の格差が生じています。
同じ日本に生まれても、住む地域によって家庭で育つ機会が大きく左右されるという現状は、こどもの権利の観点から看過できません。
この格差は、自治体の姿勢・体制・里親支援の仕組みの違いによって生じており、平成28年改正が理念にとどまり、法制度が整わなかった結果と言えます。
・乳児院・児童養護施設の役割転換が進まなかった
本来、平成28年改正後には、施設は家庭養育への移行支援や地域支援、医療的ケアを担う方向性が示されていました。しかし、こうした役割転換は十分には進まず、施設は旧来の入所中心の機能にとどまりました。

・ケアニーズに応じた支援体制が未整備
同年齢であれば、措置費・委託費が同額であり、子どもの状態に応じた財政援助が施されず、ケアニーズの高い子どもほど家庭養育に移行しにくい構造が生じていました。
・施設の高機能化、多機能化が限定的
平成28年改正後、児童養護施設には虐待や逆境体験による心の傷に対応する治療的ケアの専門性強化といった高機能化、さらに地域支援・里親支援・家庭復帰支援・アフターケアなどの複数の役割を担う多機能化が期待されていましたが、その実現は限定的でした。
このように平成28年度の抜本的改正の理念を支える制度的・財政的な基盤が弱かったため、現場の努力だけでは理念の実現に限界がありました。
3.今回の2026年改正は理念を実現するための制度的アプローチ
今回の2026年改正案は、平成28年改正の理念を「実行可能な制度」に変えるものです。
・乳児院を「入所施設」から外し、在宅支援センターへ転換
改正案37条では、乳児院は 「乳幼児総合支援センター」 に再編されます。
「乳幼児総合支援センターは在宅支援を目的とする」と明記されており、改正により
乳児院=乳児を預かる施設ではなくなる。
家庭養育への移行を本気で進めるための大転換です。
(2)3歳以上の施設入所は“例外”に
改正案27条では、3歳以上の施設入所は「高度専門支援が必要な場合」に限定されます。
さらに、入所期間は「必要最小限度」にとどめる、養子縁組の可能性を必ず検討する、里親委託への移行を義務化するという強い規定が入りました。
(3)児童養護施設は「治療的ケア」に特化
改正案41条では、施設の役割を明確に再定義しています。
「高度の専門的知識及び技術に基づき、家庭的環境で養護する」ことを目的としており、施設が“治療的ケア”を提供する専門機関へと転換することが示されています。
施設は地域に分散した小規模形態を原則とするため、地域支援、里親支援、アフターケアなどの多機能化を担うことが法律上明確になります。
(4)里親支援センターの財源を法定化
改正案50条の2では、里親支援センターへの費用支弁が法律に明記しています。
これにより、里親支援が全国で安定的に実施できるようになります。
4.法改正で何が変わるのか
① 乳幼児が家庭で育つ社会へ
乳児院の入所機能が廃止されることで、0〜2歳児の家庭養育が一気に進むことが期待されます。
② 施設入所の長期化が終わる
施設への入所期間は3年以上が60.6%、5年以上が41.8%と常態化している現状です。
改正により、1年(最大3年)で家庭へ移行 が制度として義務づけられます。

③ ケアニーズに応じた支援が可能に
ケアニーズ評価・専門里親・治療的ケア施設が整備され、こども一人ひとりに合った支援が可能になります。
④ 特別養子縁組が進む
養子縁組支援センターの法定化、出自を知る権利の保障、ケースワークの全国標準化により、パーマネンシー保障が強化されます。
⑤ 施設の高機能化・多機能化が進む
逆境体験などによる心の傷に対して包括的な治療的ケアが可能になり、場当たり的な対応ではなく背景にあるトラウマや愛着などの個別の課題に向き合う専門的な支援へと転換することを意味します。
こうした機能が整うことで、施設は最後の受け皿ではなく、家庭養育への移行を支える専門的支援拠点としての機能を果たせるようになります。
こうした治療的ケアが整うことで、子どもが安心感を取り戻し、将来にわたって安定した人間関係を築くための基盤をつくることができます。
5.大人の都合からこども中心の社会的養護へ
平成28年改正が示した方向性は、今もまったく揺らいでいません。
むしろ、その理念を徹底するための法改正が必要なのです。
議連資料の最後には、「法律が徹底されないことは制度虐待である」と記載されています。
まさにその通りです。理念だけでこどもを守ることはできません。制度を整え、運用を変え、現場を変えなければ、こどもたちの人生は変わりません。
今回の法改正は、「理念を示した第一ステージ」から「制度として実現する第二ステージ」へ進むための法律案として位置付けることができます。乳児院の機能転換、3歳以上の施設入所の例外化、里親・養子縁組支援の強化、法改正を通じてこれらを実現し、こども中心の社会へ、理念と制度の両輪をそろえるために、本気で転換していきます。





