2022.3.25
東京コロニー視察:国会図書館資料のデジタル化と障害者優先調達推進法
1.はじめに
2022年1月13日、赤松健さんとともに、社会福祉法人東京コロニー(コロニー東村山)を訪問させていただきました。
コロニー東村山では、障害のある方たちが国会図書館資料のデジタル化業務を進めており、それを視察させてもらうためです。
出典:コロニー東村山HP
2.国会図書館資料のデジタル化と障がい者の就労支援
私が2019年に自民党で知的財産戦略調査会「デジタル社会実現に向けての知財活用小委員会」(以下、「知財小委」という。)の事務局長に就任してから進めてきた国会図書館資料のデジタル化ですが、5年間で207億円の予算を確保することができました。
しかし、予算の確保とそれを用いたデジタル化作業の推進は、私が目指すゴールではなく、あくまでもスタートにすぎません。
デジタル化された資料が国民に十分利活用されるための法整備(著作権法改正)、法整備後の具体的なサービスの開始、それらが実現しなければ国会図書館が資料のデジタルデータを保有している意味がほとんどないからです。
そこで、私は、予算措置に向けた取組みを進めながら、知財小委において、著作権法改正の議論も行ってきました。その結果、2021年改正著作権法では、「国会図書館による絶版等資料のインターネット送信」及び「図書館等による図書館資料のメール送信等」が可能となり、国会図書館資料がデジタル化された場合に国民が直接に恩恵を受けることができるようになりました。
ちょうどデジタル庁設置法案を含むデジタル改革関連法案が審議されていた時期で、私は自民党のデジタル社会推進本部の役員として「デジタル化は国民が恩恵を感じられるものでなければならない」と訴えてきましたが、国会図書館資料のデジタル化も同様の信念で政策を進めました。
また、それだけでなく、毎年2.3億円しかなかった国会図書館資料のデジタル化予算が大幅に増加することを障がい者の就労支援につなげたいと思っていました。資料のデジタル化作業は、さまざまな障害のある方でも担当できる部分が多く、反復作業が中心であるため集中して能力を発揮しやすいと考えたからです。
そこで、知財小委の提言によって確保した5年間で207億円の国会図書館資料のデジタル化予算を、既存の受注業者への特需とするだけでなく、新しい政策展開につなげたいと考えました。
3.国会図書館デジタル化予算と障害者優先調達推進法
さまざなな検討を行う中で私が目をつけたのが、平成25年4月に施行された「障害者優先調達推進法」です。この法律は、「障害のある人が自立した生活を送るためには、就労によって経済的な基盤を確立することが重要」であるとの認識の下、「障害者が就労する施設等の仕事を確保し、その経営基盤を強化」することを目的としたものです。しかも、行政機関のみならず、立法機関や司法機関もこの法律の対象となっており、国立国会図書館にも適用されるのです。
非常に素晴らしい法律で、この法律があれば私の考えはすぐに実現できるのではと思いました。しかし、やはりそう簡単にはいきませんでした。まず、国がどれだけ障害者就労施設等から調達をしているのか実態を調べようとしたところ、そもそも各府省庁においてそのような資料は存在しないとのこと。そこで、参議院厚生労働委員会調査室に資料作成を依頼しました。それが以下の表です。
障害者就労施設等からの調達は、件数に占める割合で見ると厚生労働省が約半数の49.14%となっていますが、これを金額に占める割合で見ると1%にも満たない0.13%にしかすぎません。厚生労働省が障害者就労施設等に発注している物品の平均額は1件あたり約5万円、役務の平均額は1件あたり約27万円であり、「障害者が就労する施設等の仕事を確保し、その経営基盤を強化」できているとは到底言えない状況です。
そこで、この法律を所管する厚生労働省や財務省と何度も打合せを行い、なぜ少額の発注しかできていないのか、より一層この法律が利用されるにはどうしたらよいか、検討を行いました。そうしたところ、どうやら国の機関としては、予算決算及び会計令99条2号~7号の少額随契(随意契約)の枠内(契約の種類に応じて30万円~250万円まで)でのみ、障害者就労施設等に発注しているのではないかということが分かってきました。
しかし、障害者優先調達推進法が制定される際、予算決算及び会計令が改正されて99条16号の2という条文が新設され、「慈善のため設立した救済施設から直接に物件を買い入れ若しくは借り入れ又は慈善のため設立した救済施設から役務の提供を受けるとき」は金額に関わらず随意契約できるということになっています。この事実が国の機関に十分に周知されていないことが、少額の発注ばかりになっている大きな要因でした。
ただし、WTO(世界貿易機関)の下で運用されている「政府調達に関する改正協定」によって、①一定金額以上の政府調達について、②各国が非競争的な入札(すなわち随意契約)によることができる場合が非常に限定されており、障害者就労施設等についての非競争的な入札も制限されてしまっています。そのため、一般的な物品役務の調達であれば「予定価格1,500万円以上」となると、障害者就労施設等との随意契約ができないことになっています。
全くの無制限ではありませんが、「1500万円未満であれば障害者就労施設等との随意契約ができる」という非常に重要な点が分かりました。これだけの規模の仕事を国が発注すれば、「障害者が就労する施設等の仕事を確保し、その経営基盤を強化」していることにもなります。そこで、厚生労働省と財務省にこの旨を国の各機関に周知することを依頼するとともに、国会図書館に対しては5年間207億円の予算の執行にあたってはこの制度を最大限活用すべき旨を要請しました。
最初は難色を示していましたが、何度もこの制度の重要性を訴えたところ、「障害者優先調達推進法を最大限活用した新しい調達を行う」との非常に大きな決断をしていただきました。そして、その新しい調達によって国会図書館資料のデジタル化業務を受注したのが、今回私が視察に訪れた東京コロニーだったのです。単価契約ですが、総額で1000万円を超えが想定される画期的な事例になりました。今後、この国会図書館の優先調達の事例をもとに、もっともっと障害者優先調達推進法の理念が現実のものとなっていくことを切に願っています。
4.東京コロニー(コロニー東村山)視察
今回、東京コロニーを視察したのは、障害者優先調達推進法に基づいて国会図書館資料のデジタル化について受注したからという理由だけではありません。デジタル化業の進め方と結果に極めて際立った点があるとお伺いしたからです。
東京コロニーでは、本件を受注した後、日本財団から助成を受けて最新設備を導入。スキャナーはもちろんのこと、国民の大切な知的資産である図書等を盗難・焼失等から守るための書庫も新設しています。この書庫は、入室権限が限定されており、入退室のログも残るようになっています。また、写真にはありませんが、入り口のところが常時防犯カメラで撮影されていました。書庫内は、図書等を傷めないよう温度と湿度が空調システム制御で常に一定に保たれ、また空調システムが発火したとしても図書等が燃えないよう、空調機械は全て書庫外に置かれています。空調機械と書庫はダクトでつながれていますが、ダクト内部には鉄製の扉があり、出火時などは火が書庫内に侵入しない設計になっているとのことです。
車椅子で生活されている方が、車椅子に座ったままスキャン作業をしている様子。「はじめは単純作業で飽きるかと思っていたが、一つ一つを丁寧にスキャンしていくうちに、本当にきれいにスキャンすることの難しさ、奥深さを実感するようになった」とのこと。妥協を許さない姿勢で仕事に臨んでくださっている結果、作業進捗確認・現場視察に来た国会図書館職員をして、「他社と比べても品質が高い!」と言わしめています。
国会図書館資料のデジタル化は、単にスキャンをして終わりというわけではなく、サムネイルを作る工程や、目次ページがどこからどこまでかを判別する工程、それらの工程に問題がないかを確認する工程等もあります。目次ページはすぐに分かるだろうと考えている方もいるかと思いますが、図書によっては、全体の真ん中あたりに急に目次が出てきたり、最初の方と途中とに2か所に目次が出てきたりと、かなりイレギュラーなものもあり、人が目視で確認することが不可欠であるということでした。どの業務を担当している方も、「国民の知的資産のデジタルアーカイブ化」という一大プロジェクトに携わっていることに、誇りとやりがいを感じてくださっていました。
サムネイルの作成
目次ページの判別
全体の確認
非常に驚きましたが、東京コロニーでは、国会図書館資料のデジタル化の工程管理のために、独自でシステムを開発し、絶えずそれをアップデートしているとのこと。それによって、デジタル化作業の効率・品質は日に日に高まっているそうです。そのシステムの開発・改善を行っているのも、障害があって東京コロニーで働いている方です。随所でデジタル化が進められており、東京コロニー全体の生産性が高められていることが実感できました。
障害者就労施設の収益力が高まれば、そこで働いている障害のある方の工賃向上につながり、それが障害のある方の自立を強力に後押しします。「工賃が低すぎて、とても障がい者が自立するどころの話ではない」、今の日本の大部分はそうかもしれません。しかし、障害者優先調達推進法に基づき国の調達を工夫し、東京コロニーのようにデジタル化をはじめとした生産性向上の取組みをどんどん進めていけば、現状を大きく変えることができます。そのような未来にしていくため、私も引き続き全力で取り組んでまいります。