2016.2.25
TPP法定損害賠償について
TPPの法定損害賠償について少し説明をします。
結論としてはこの件、安心してもらって大丈夫です。
TPPでは、著作権侵害の損害賠償としての要件を2つ定めています①権利者を補償するために十分な額であること②将来の損害を抑止することの二つです。これは「TPP協定(仮訳文)第18章(知的財産)・・・資料A」のP2545の8に記載されています
第十八・七十四条民事上及び行政上の手続及び救済措置
8 6及び7の規定に基づく法定の損害賠償は、侵害によって引き起こされた損害について権利者を補償するために十分な額に定め、及び将来の侵害を抑止することを目的として定める。
②について注意が必要です。「将来の損害抑止」とは今まさに犯罪を犯そうとしている人が、「もし、この著作権を侵したら損害賠償金を払わなきゃいけないから、思いとどまろう」と思うことです。将来、作品の価値が上がるといったこととは関係ありません
法定損害賠償についても同じ資料のP2544の6で「a)権利者の選択に基づいて受けることができる法定の損害賠償」「b)追加的な損害賠償(懲罰的損害賠償を含めることも可)」の両方又は片方を導入しなければならないとあります。
第十八・七十四条民事上及び行政上の手続及び救済措置
6 各締約国は、民事上の司法手続において、著作物、レコード又は実演を保護する著作権又は関連する権利の侵害に関し、次のいずれか又は双方の損害賠償について定める制度を採用し、又は維持する。
(a) 権利者の選択に基づいて受けることができる法定の損害賠償
(b) 追加的な損害賠償
(注)追加的な損害賠償には、懲罰的損害賠償を含めることができる。
ポイントは法定損害賠償とは「与えられた損害の程度に応じて賠償額を算定するのではなく、制定法の範囲内で規定するもの(wikipedia)」であり、必ずしも上記bにあるような、追加的な損害賠償や懲罰的な物を意味していません(米国は懲罰型です)。実際、日本の著作権法第114条3では、著作権侵害の損害賠償について、実際の損害の額ではな受け取れたであろうライセンス料を請求することが出来るとあり、現行法でもTPPの法定損害賠償の要件を満たしていると考えもあります(実際にTPPの締結に関連して法改正するかは別問題)
著作権法
(損害の額の推定等)
第百十四条 ….著作物若しくは実演等の複製物の数量に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を….著作権者等が受けた損害の額とすることができる。….
2 ….その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
また、資料AのP2465第18.5条では「各締約国は、自国の法制及び法律上の慣行の範囲内でこの章の既定を実施するための適当な方法を決定することが出来る」とあり、日本政府には一定の裁量が与えられています。
第十八・五条義務の性質及び範囲
各締約国は、この章の規定を実施する。締約国は、この章の規定に反しないことを条件として、この章において要求される保護又は行使よりも広範な知的財産権の保護又は行使を自国の法令において規定することができるが、そのような義務を負わない。各締約国は、自国の法制及び法律上の慣行の範囲内でこの章の規定を実施するための適当な方法を決定することができる。
上記のことから、TPPの法定損害賠償の件、引き続き注視しますが、必要以上に重く受け止める必要は無いと考えています。また補足ですが、オリジナルであっても、二次創作であっても、それらの海賊版については、きちんと取り締まられるべきだと考えています