2023.1.18

視察報告④ イギリス(孤独孤立対策)政府と民間の取り組み編

政策の背景

コロナ渦の長期化により、世界中で孤独・孤立が深刻な社会問題化しています。日本でも、英国の次に孤独・孤立対策大臣を設置し、重点計画を策定しています。孤独孤立対策の先駆けである英国から最先端の事例を学ぶことで、今後の国内の孤独対策の発展に貢献できると考えて、個談を申し込みました。

視察では、英国政府の孤独担当省、政策アドバイザーのエマ・バーロー氏と孤独廃絶のためのキャンペーン(Campaign to End Loneliness)の会長ポール・キャン・OBE氏にお会いしました。

写真)左からエマ・バーロー氏とポール・キャン・OBE氏、私

イギリスにおける孤独孤立対策とは

イギリスで孤独孤立対策が始まったきっかけは、当時労働党に所属していたジョー・コックス議員です。彼女が孤独問題に注目し、委員会設立を準備していました。コックス議員は、2016年6月に銃撃により亡くなられてしまうのですが、そのジョー・コックス議員の意志を継ぎ、孤独問題委員会の設立が引き継がれ、2017年12月に最終報告書を公表しています。報告書には、主に3つの提言を行なっています。

写真)ジョー・コックス議員(享年41歳)
(2016年6月、EU離脱国民投票直前、極右からの銃撃を受け死亡)

1. 政府主導の取組:各地域・個人の取組について、全国的、政府横断的な取組、担当大臣の任命等の取組が必要である。

2. 進捗状況の計測:各地での進捗を計測可能なものとするため、国による指標設定、年次報告作成等の取組が必要である。

3. きっかけを生みだす現場への投資:現場での取組の支援として、イノベーション創出、活動資金提供等が必要である。

委員会の報告書等を踏まえ、2018年1月にテリーザ・メイ首相は孤独と社会的独立への政策を財布横断的に行うことを発表しました。提言の実現のため、孤独担当の政務職任命を発表しました。また政府は、孤独対策戦略の策定、人々の抱える孤独に対する支援活動のための基金設立や学術研究での活用を目指すため国家統計局と共同で孤独度を図る指標の設定するなどの取り組み方針を決定しました。

写真)英国政府の孤独担当省庁が入る建物の前で
写真)歴史を感じるエントランス

日英孤独担当大臣・共同メッセージを発表

2021年6月にオンライン会合にて日英孤独担当大臣(坂本哲志孤独・孤立対策担当大臣、ダイアナ・バランイギリス孤独問題担当国務大臣)間での孤独政策の現状・今後の方向性等の取り組みについての情報交換が行われ、孤独対策に関する共同メッセージを発表しています。主な内容は以下の通りです。

1. 英国と日本は、孤独への取組みが重要な国際的課題であると強く信じている。

2. 両国は、緊密な対話を通じて知識と経験を共有することで、この課題に関して国際社会をリードしていく。我々は、孤独は誰にでも起こりうるものであることを認識し、孤独の偏見を克服しなければならない。家族、友人、隣人、支援者がコミュニティーの中でつながることは、孤独を克服するための重要なステップであり、我々の政策はこれを支援するものでなければならない

視察を終えて

英国政府は、2018年10月に公表された孤独戦略(Loneliness Strategy)で3つの目標を提示していますが、この3つの指標が日本でも非常に重要だと感じました。

1. 人々が孤独について話し、助けを求めることができると感じるよう、スティグマを減らす

2. 社会全体による政策立案・実行において、人間関係と孤独が考慮されるよう、持続的な変化を促す。

3. 孤独に関するエビデンスを改善する。

孤独戦略を受け、Official for National Statistics (ONS)は孤独を図る指標に関するガイドラインを公表しました。また、孤独の問題を抱えるグループをつなぐため、チャリティ/民間企業等のネットワークづくりも行なっています。そして、主に4つの予算から孤独孤立対策を支援しています。

1. Building Connections Fund

政府が全国宝くじ基金等と共同で£1,150万(約19億)を構成し、孤独に取り組みエビデンスを改善する126の事業を支援しています。

2. Loneliness Engagement Fund

孤独リスクの高いターゲットに関わる9つの団体に最大£5万を提供しています。

3. Local Connections Fund

コロナ禍で、孤独に取り組み、社会的なつながりを促す全国的な組織9つに、£50~100万を提供しています。

4. Loneliness Covid-19 Grant Fund

全国宝くじ基金と共同で、更なる£400万の基金を構成し、地域のより草の根の団体に資金を提供しています。

英国の孤独の指標について

 2018年10月に公表された英国政府の孤独戦略(Loneliness Strategy)を受け、Office for National Statistics(ONS)が孤独を図る指標に関するガイドラインを公表しました。間接質問と直接質問を組み合わせた4問を推奨しており、Community Life Survey等の調査で実際に導入されています。

<Community Life Survey 2020/21 Reference Tables>

英国の孤独対策の例:Tackling Loneliness Network

Tackling Loneliness Networkは、孤独のリスクにあるグループを繋ぐために政府によって設立されたチャリティ・民間企業等のネットワークです。70以上の様々な分野・規模の組織が参画しています。ネットワーク活動として、Tackling Loneliness Championsに署名した組織は、次のような取り組みが求められます。

1. Sharing learning

政府が提供するプラットフォームTackling Loneliness Hubを通じて、取組みからの学習を共有する。ネットワーク・メンバーによる学習グループに参加するなど、他の組織と協力し、好事例・困難事例を共有する。

2. Improving evaluation

孤独の評価のトレーニングセッションやワークショップに参加する。

3. Upskilling their people

Loneliness Awareness Weekなどを通じて、孤独に関するメッセージを強調する。ワークショップやイベントを通じて、この問題に対する認識を高め、話し合う。

Campaign to End Loneliness(チャリティ団体)

Campaign to End Lonelinessは、2011年から孤独問題の専門家として活動している団体です。孤独問題に関するエビデンスの構築や、孤独問題に取り組むコミュニティの連携・支援等を進めています。同Networkのエビデンス、洞察、アイデアを共有するためのデジタルプラットフォーム「Tackling Loneliness Hub」も運営しています。

全国宝くじ基金の資金提供を受け、2017年から孤独問題に関する動画の作成など、企業や一般の人々に対するキャンペーンを展開しており、孤独は恥ずかしいという偏見をなくすことが重要だと訴えています。政府とNPO・NGOとの連携が、予算・人的ネットワークともに強固であると感じました。

写真)英国の様々な孤独・孤立問題対策についてお聞きすることができました