2023.1.18

視察報告⑤ イギリス(孤独孤立対策) 社会的処方(Social Prescribing)編

写真)社会的処方:Social Prescribingについて、早朝から午前中いっぱい、中身の濃い議論をしました。

英国の社会的処方(Social Prescribing)による孤独孤立対策

社会的処方は、従来の医療の枠組みでは対処が困難な問題に対して、薬に頼るのではなく地域での人と人との繋がりを利用し処方していくことを目標としています。社会的処方は、地域紹介(community referral)としても知られ、NHS (National Health Service)のGP(かかりつけ医)や看護師等が人々に地域の非臨床サービスの紹介を可能にするものです。多くの場合は、リンク・ワーカー(Link worker)が、地域の関係者と協力し、地域の支援ソースにアクセスします。

社会的処方で提供される支援には、ボランティアなど地域の様々な組織により提供され、ボランティア活動、ガーデニング、料理、健康的な食事のアドバイスなど、多岐にわたります。社会的処方は、生活の質向上や感情的幸福につながる可能性があるというエビデンスがあります。

このような制度が日本でも取り入れられるのではないかと考え、The Global Social Prescribing Alliance, Development LeadであるDr. Nogdan Chiva Giurca氏に英国の社会的処方について詳しくお話しを伺いました。

写真右)Dr. Nodgan Chiva Giurca氏 Bogdan医師は、SocialPrescribing の傍ら、週の半分は臨床医として勤務している

施策実施までの背景には、救急でGP(かかりつけ医)にくる2割が社会的理由、4割が精神医療的理由、残りが救急医療が必要な人だと判明したことが大きいそうです。薬だけでは問題は解決できない、社会的な処方が必要だとという現実から、2017年にイギリス国内の100以上の地域で社会的処方が進められ、2018年から全国展開しています。結果、救急外来が4割減、GPの約6割は仕事量が減少し、医療費抑制につながっているというエビデンスがでました。また、GP等のNHSサービスの使用減少につながる可能性があり、GPの59%は社会的処方が仕事量を減らすのに役立つと考えているそうです。

リンクワーカーはDBS(無犯罪証明書)で背景チェックは受けますが資格は不要な上、GPに雇われているためすべての情報(Need to know)がデータベースで閲覧できるようになっています。NHS Englandのリンクワーカーは、現在2,500人2023年1月までに3,500人、2024年までに4,500人になる予定だそうです。

また、38の医大すべてで社会的処方を学ぶためのカリキュラムに変更されるなど新たな医学生のトレーニングにも重点を置きはじめていることにも大変驚きました。英国の場合、GPがリンクワーカーを紹介しても人頭払いで受け取れる報酬は同じで、社会的処方に切り替えやすいインセンティブ構造があります。世界的に英国から社会的処方を学ぶ動きが活発化(22か国に普及)しています。

今回の視察で社会的処方の重要性とその効果を非常に強く感じました。しかし、日本はGPシステムがなく、社会的処方の入口の統一ができないため画一的な制度展開には限界があるのではないかと感じます。既存資格(ソーシャルワーカー)の活用の可能性など、日本型の研究を進め、国内での推進を検討していきたいと思います。

図)日本と英国のGP(家庭医)のシステムの違い
出典:ニッセイ基礎研究所「2018年度の診療報酬改定を読み解く」

写真)ロンドン市内のど真ん中National Academy for Social prescribingが入る施設には、無料で開放する公共スペースが充実。このスペースはヨガ等の健康管理ができる場所としても利用されている。

写真)市民やNPOが音楽や芸術イベントも開催できるスペースも。この日も午後からのイベントの準備が行われていた。

写真)屋上にはボランティアで運営されているガーデニングスペース

写真)カフェもボランティアで運営されている(この日は定休日)地面には手作りのタイルも