2020.9.2
障がい者B型就労所「AlonAlonオーキッドガーデン」視察レポート
8月31日、千葉県富津市にある就労継続支援B型事業所(※1)「AlonAlon」の視察に行ってきました。AlonAlon理事長の那部さんとは、障がい者の就労事業の課題を解決するために継続的に議論していますが、今回は、新型コロナの影響で全国の障がい者が働く事業所の工賃が下がっている中での現状をヒアリングすることが主な目的でした。
新型コロナの影響がない平時の場合でも障がい者一人あたりの平均工賃は16,000円/月しかなく、障がい者年金と合算しても生活保護受給額に届きません。一方、AlonAlonでは、コチョウランを栽培し、企業に販売することで障がい者に最高10万円の工賃を支払っています。加えて、施設定員20名規模のB型事業所ですが、設立3年で計10人の利用者を一般企業に移行させており、企業への就労移行率は50%を超えます。このAlonAlon方式を全国に広げるために、政治としてすべきことは何か。ということも議論してきました。
(※1)B型とは、就労継続支援B型事業所のことで、障がいや難病のある方のうち、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスです。(以下の図を参照)
出典)厚生労働省「障がい者の就労支援について」平成27年
AIで自動化したコチョウランの栽培
このAlonAlonオーキッドガーデンでは、200㎡の敷地で5000本のコチョウランが栽培されています。通常、コチョウランの栽培は、職人が肌感覚で日光を当てたり暖房をつけたりしながら、24時間体制で管理が行われています。しかし、ここではAIですべて自動化されており、温度や湿度、遮光カーテンなどが24時間最適にコントロールされています。クラウドでつながっているので、スマホ一つで遠隔操作もでき、働く人は週休二日、長期休みもしっかりとりながら、最高品質のコチョウランを安定して出荷することが実現できています。通常のハウスは2千万程度ですが、ここではIT化に5千万円の投資をしているそうです。
写真)コチョウランのハウス
写真)AIシステムでの管理制御盤
自立を目標としたきめ細やかな指導
休憩スペースでは、毎日朝礼が行われています。このAlonAlonでは、“コチョウランを販売する学校”というコンセプトで、社会人として通用するようにきめ細やかな指導がなされています。作業工程は60の段階に細分化し、入所したその日から仕事ができるようになっているので、個人の段階に合わせて、徐々にできる作業を増やしていくことができます。毎月800株が出入荷されるので、全員が同じ工程を毎月反復練習することができ、効率的な職業訓練になっていました。
那部さんが「一つひとつできるようになることを積み上げることで、自己肯定感が上がっていく。これこそが就労教育だと思う。」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思います。
写真)休憩・朝礼のスペース
写真)朝礼時に1日の予定の確認が行われる。日直制度もある。
写真の彼が行っているコチョウランに角度をつける作業は60段階の中でも最終段階。指先の感覚を信じて、折らないように慎重に行われる作業はまさに職人技で、これが習得できれば就職も目前だそうです。どの作業でも、皆が生き生きと楽しそうに働いている姿が、とても印象的でした。
写真)コチョウランに角度をつける作業をしている様子
就労事業所の諸課題と今後の方向性
そもそも就労事業所は障がい者が経済的自立を果たすように後押しすることを目標とすべきですが、実態はまったく異なっています。現在、障がい者就労事業所B型は全国に1万1千あり、中度・重度の障がいをもっている30万人が就業しています。事業者には国から年間3千億~4千億円の給付金が支払われていますが、障がい者が受け取っている工賃は540億円しかありません。そして、B型就労所から一般企業への就業に移行する人は1%しかいません。
その理由は、福祉事業者が利用者に職業訓練をして一般企業に就労させたとしても、事業者へのメリットがなにもないからです。逆に、国からの事業者への報酬は、利用者数に応じて決まるため、利用者を抱え込もうとするケースもあります。つまり、利用者が巣立つと事業者はもうからなくなるのが現行の仕組みで、利用者と事業者の利害が一致していないのです。この制度では、障がい者の賃金は一向に向上しないでしょう。
今後、事業者が利用者を一般企業に就労させた場合のインセンティブなどを制度として組み込むこと、事業者が営利目的の事業と両輪で運営できるよう投資の補助制度など、制度自体の見直しが必要だと思っています。
写真)AlonAlon理事長の那部智史さん(右)