2022.2.17

新アプローチ、大阪府寝屋川市のいじめゼロの取り組みとは?

■この記事のまとめ

・大阪府寝屋川市は、いじめゼロの取り組みとして、「教育」「行政」「司法」の三権分立の新アプローチで効果を上げている。

・「監察課」では、加害児童・被害児童・その保護者や教員も含めて直接意見を聴取し、独自でいじめの判定をする

・寝屋川市のような先進的な事例が他自治体にどんどん広がっていくこと、こども家庭庁がその横展開に貢献していくことが必要。

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1月26日、私(山田太郎)が事務局を務める第30回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。

写真)教育評論家・法政大学名誉教授の尾木直樹先生

本日は、教育評論家・法政大学名誉教授の尾木直樹先生にもご出席いただきました。

尾木先生からは、「いじめの問題については、こども家庭庁の創設に伴いさらに期待が高まっている。また子どもたちに直接話を聞くと、「もっと自分たちの話を聞いてほしい」と言っている」という教育現場からのこどもたちのお話がありました。

■大阪府寝屋川市のいじめゼロの取り組み

大阪府寝屋川市は2年前に初めて登校の選択制を導入するなどいつも子ども側の立場から施策を考え、教育委員会と協働しながら子どもの安全・安心を確保したり、学習を確保するなど市独自の取り組みをされています。

今回は大阪府寝屋川市長の広瀬慶輔さん、大阪府寝屋川市危機管理部監察課から、寝屋川市における『いじめゼロ』への新アプローチについて詳細にご紹介いただき、議論しました。

写真)大阪府寝屋川 広瀬慶輔市長

寝屋川市では大きないじめ問題があったわけではありませんが、監察課という課を設置しています。もともと市長は、若い子育て世代の方にお越しいただきたいという想いから、サービスの一環として教育環境を整えることを始めました。

他市では大きないじめ問題があった後に対応策が立案されていますが、そうした環境下では行政と教育委員会の間での忌憚のない意見交換が難しい状況になります。寝屋川市ではいじめ問題に対して教育的アプローチと行政的アプローチ、そして法的アプローチの3段階を用意していることが特徴です。

「教育的アプローチの限界」という仮説を立て、学校現場への教育カウンセラーの派遣や、教育委員会への第三者機関の設置など、よくある「教育的アプローチ」の補強では課題解決につながらないと考えました。

そこで、「教育的アプローチ」は「いじめの予防・見守り」に注力し、新たなアプローチとして、「行政的アプローチ」を導入するとともに、児童・生徒に「被害児童・生徒」、「加害児童・生徒」という概念を導入して児童生徒を1人の市民として、人権問題として扱うことを始めました。

また、これまで教育的アプローチの中で教職員が加害児童・生徒宅を訪問していたりしましたが、夜中・休日などに実施するなど大きな負担となっておりました。

その役割を行政的アプローチとして監察課が引き受けることで教職員の働き方改革にも繋がり、教職員は日常の予防・予後のケアといった教育的アプローチに集中してもらうという役割分担をしていることも特徴と言えます。

そして、警察への告訴、民事での訴訟を行うルートを確保・指導する、「法的アプローチ」を導入し、第2の 「行政的アプローチ」の実効性を担保する役割を果たします。被害者側が警察への告訴、民事での訴訟を行うルートを確保・指導するなど、刑事事件・民事事件としての法的な手続きを支援するほか、法的手続きに要する弁護士費用の一部補助も実施しています。

3つそれぞれのアプローチが全く違った役割を持っており、相関関係をもち補完し合いながら効果を高めています。

資料:「いじめゼロ」への新アプローチ

教育的アプローチでうまく解決できなければ行政的アプローチが出てきて、「そこでは被害児童・加害児童という扱いを受けるんだ」ということがわかっていれば教育的アプローチに協力してくれる保護者・児童・生徒も増えていくことになります。

資料:「いじめゼロ」への新アプローチ

また今までは、教育的アプローチの観点からすると教職員たちはどうしても大切な児童・生徒なので「現場で解決していきたい」という思いが強くあり、情報が十分に学校長や防止委員会まで上がってこないというケースも多く見られました。しかし寝屋川市では学校の通常の教育的アプローチ以外に、監察課に情報が入ってきますので、現場だけで解決をしようとするのではなく、きちんと学校長等に報告をしておく必要があるんだというように教職員の意識の傾向に変えるという役割もあります。

そのための方策として、監察課が毎月子どもたちに情報提供を促進するチラシを配るという「攻めの情報収集」を実施し、子どもたちへの「いじめ」の啓蒙と抑止効果を狙っています。

 

資料:寝屋川市令和3年11月児童・生徒配布チラシ

また監察課が学校からの報告を受けるだけでなく、一次情報にあたらなくてはならないということをルールとしています。つまり加害児童・被害児童・その保護者や教員も含めて直接意見を聴取し、独自でいじめの判定をすることとしています。

これは法に示されているいじめの定義や判定システムとは独立して、監察課の中の弁護士も含む専門委員が動くようになっています。

これはいじめ対策における三権分立ではないかと考えています。教育・行政・司法がそれぞれ独立して動くことで、子どもたちのいじめ問題に対する積極的な対応を実施することができていると考えています。

資料:「いじめゼロ」への新アプローチ

また広瀬市長からはこれまでのいじめ対策についてのご提言をいただきました。

これまでのいじめ対策は教育的アプローチの中の充実に焦点が当たっていました。しかし、教育部門に限らない議論が必要となります。

例えば行政的アプローチの所管は総務省、教育的アプローチの所管は文部科学省、そこに虐待の問題も関連するとなれば厚生労働省も関わるなど、省を跨いだ議論が非常に重要になります。

全ての子どもたちの教育・生活環境を整備していくことを考えるならば、やはりこども家庭庁に非常に注目をしているところであり、いじめ対策の三権分立がしっかり機能するような制度構築を期待しています。

これまで何十年もいじめの問題が解決することができなかった現状を考えると、寝屋川市のような新たなアプローチが必要であると考えます。

教育的アプローチの限界は、教育委員会や学校現場・教職員に問題があるということではありません。寝屋川市では「学校現場に問題があるのではないか」という予断を排除し、システムに問題があるということを前提に制度設計を行ないました。

現場の先生方は実際99%のいじめ問題を解決しています。残りの1%以下の重大ケースの為にせっかくうまくいっている教育的アプローチを歪めるということは本末転倒になると考えています。

先生方には教育的アプローチをこれまで以上に力を入れて進めていただくこと、そのために重大ケースが起きた時には行政が責任を持って人権問題として取り扱います。さらにそれでもご協力いただけない場合には法的アプローチに移行していくという3段階・三権分立が非常に重要であると考えています。

今後こども家庭庁の中でも、学校現場に問題があるという予断を廃し三権分立を確立していくこと、全国のいじめに苦しむ子どもたちが短期間の間に解消されるようにリーダーシップを持って取り組みを進めていくことに期待をお寄せいただきました。

質疑応答の中では、平時からの学校現場や警察との連携についてやいじめの重大認定や終結の判断等について積極的に意見・情報交換がなされました。

現場目線からするとそれぞれの学校はどこも一生懸命やっているが、どうしても閉じた空間なのでわからなくなってしまうことがあるが、監察課にも報告が行き2方向から考えるようになると、よりいじめが発見されやすくなります。世界各国のいじめ対策も厳罰化が進むばかりで、その先の展望はなかなか見えてきません。敵対するのではなく、普段からのコミュニケーションがとても重要であるとのご指摘がありました。

今回の寝屋川市のような先進的な事例が他自治体にどんどん広がっていくこと、こども家庭庁がその横展開に貢献していくことが必要です。

この勉強会を始め政府・自民党内でもこども政策に関して活発な議論がなされるようになりました。

 “いじめ”が日本全国で問題になっているといますが、「とはいえ具体的にどうしていくのか」という議論を行なっていく必要があると考えています。子どもたちのために、政治で解決できるところをしっかりと取り組んでいきます。

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