2022.4.9

こども庁創設とこども基本法、この1年間山田太郎は何をしたのか?

 今回の通常国会で議員立法を目指している『こども基本法』が、自民党の政調審議会、総務会で、4月1日に了承されました。その後に公明党との与党プロセスも終え、4月4日に衆議院に提出されました。

私はこの1年間、こども庁の設置やこども基本法成立に向けて、全力で取り組んできましたが、壮絶な議論で何度も党内で潰れかけ、成立不能と諦めかけた時もありました。センシティブな時期が続き、皆様にも報告できないことが多かったので、改めてこの1年間こども庁創設とこども基本法の実現のために、「私が何をしてきたのか」を振り返りながら結果をお伝えしたいと思います。

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【目次】

1,こども庁が必要と考えたきっかけ / 菅総理へ私案「こども庁構想」を提言
2,自民党有志で「Children Firstの子どもの行政のあり方勉強会」発足 ←こども庁が解決すべき問題
3,自民党『「こども・若者」輝く未来創造本部』発足 ← 与党の中の議論
4,こども(家庭庁)設置法案閣議決定 ← こども庁の機能、必要な施策(縦割×横割×年代割)
5, こども基本法国会提出へ
   ・なぜ、こども基本法が必要なのか?
   ・こども基本法の内容

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.こども庁が必要と考えたきっかけ / ​菅総理へ私案「こども庁構想」を提言

 2021年1月24日、菅義偉内閣総理大臣(当時)と公邸にてじっくりと1対1で面会の機会がありました。当初の目的は「若者への情報発信についてアドバイスが欲しい」ということで、私に声をかけていただいたのですが、その話は15分ほどで終え、その後、時間を超過し30分ほどはこども庁の必要性等について直接訴えました。

菅総理の施政方針演説の内容を、政策分野別に色分けし、「4分の1以上が、子どもや周産期医療、不妊治療の問題です。『こども庁』のような組織をつくった方が分かりやすく、国民にダイレクトで強力なメッセージが伝わります。縦割りと多重行政を廃し、一貫した行政の司令塔が必要です。これは、菅総理にしかできない仕事だと思います。」ということをお話させていただきました。


写真)菅総理大臣(当時)私(山田太郎)

その時、「こども庁」創設の私案のプレゼンテーションを手渡したのですが、菅総理は、ただ頷いていらっしゃるだけで反応が分かりにくかったというのが私の感想です。

しかし、2日後、加藤勝信官房長官(当時)から直接、「総理から『こども庁』の資料をもらった。総理がすごく興味を持っている。ぜひ検討したい」という電話をいただきました。
こども庁の構想が大きく動いた瞬間だったと思います。

当初私の秘書からは、「菅総理とは『若者へのメッセージ発信』についてというテーマで面会するのに、こども庁の私案について話すのは図々しいのではないか?」と言われました。しかし、1回生議員が、日本の総理大臣に1対1で時間をもらえる機会など、そうそうあるものではありません。このチャンスを生かさない手はありません。わたしは、総理にどう思われようと、公約を実現するためには、あらゆることをしようと決めていました。

2.自民党有志で「ChildrenFirstの子どもの行政のあり方勉強会」発足 ← こども庁が解決すべき問題

  実は、私と同じく「こども庁」創設の必要性を訴えていた、自民党の若手議員がもう一人いました。自見はなこ参議院議員です。自見はなこ参議院議員とはこれまで、産後ケア法案(議員立法)の成立に一緒に尽くしてきた付き合いがありました。2021年秋頃から、「こども庁の創設に向けてどのように動いていくのが良いか」という議論を開始し、議員連盟を立ちあげるのか、政務調査に働きかけPTを立ててもらうのか、様々な案を模索していました。しかし、1月24日の私の菅総理との面会で、官邸の反応が良いことがわかり、「この機運を逃すまい!」と自見さんとともに作戦を立てて、自民党の有志で勉強会を立ち上げることにしました。それが2月2日です。有志のメンバーはこども政策に思いのある、若手議員30人に集まっていただき、木原誠二衆議院議員、牧原秀樹衆議院議員が代表世話人を引き受けてくださいました。

初回の勉強会では、参加した議員から「いい加減、自民党もこども政策を真正面から取り組みましょう!」という意見が続出しました。「若手の力で本当のChildren Firstの社会を実現させる!」という一致団結した熱い空気が、今でも忘れられません。

写真)初回勉強会の写真

その後、急ピッチで議論をすすめ、昨年の4月1日に菅総理に「こども庁創設に向けた緊急提言~〜子ども行政の司令塔を明確化し、縦割りを克服、Children First を実現する〜」を持参しました。この提言は、アンケートでいただいた4万7000件の意見、当事者、講師、議員の意見を反映させる形で、自見議員とともに執筆しました。

4万7000件のアンケートはすべて議員事務所内で企画・取りまとめを行い、外注はしていません。私は生データで皆様からの声1件ずつに目を通しました。皆様から寄せられたこの大きな声が、さまざまな原動力になっていました。

「自分の声が初めて政治につながった」「直接政治に物申すことができる日がくるなんて思ってもいなかった!」という声も多く寄せられました。市民から政治が直接意見を聞き、それが政策となって反映されていく。まさにデジタル民主主義です。このデジタル民主主義は、参議院自民党の「不安に寄り添う政治のあり方勉強会」で実施した『コロナ禍のあなたの不安を教えてください』というアンケート調査が前哨戦でした。

自民党でもこれらの取り組みが、政策実現に関わるようになったのです。


写真)アンケートの概要


写真)菅総理大臣申し入れ時の写真
 

3.自民党『「こども・若者」輝く未来創造本部』発足 ← 与党の中の議論

4月1日、私たちが菅総理に申し入れをしたその日の午後に、菅総理が決断をされ、党内に総裁直属機関として、「こども・若者」輝く未来創造本部が発足されました。「菅政権がこども庁創設に向けて動き出すのか?!」と、マスメディアでも取り上げられるようになったのが、この頃です。二階俊博議員、世耕弘成議員、下村博文議員、野田聖子議員など党幹部や歴代大臣が集結する本部組織に、1回生ながら役員として政策実現の前段階を任されました。

当初は「こども庁なんて必要ない。既存の省庁でできることをやればよい」、「こども中心主義によってこどもがワガママになる」、「時間をかけて慎重に議論すべきだ」といった意見が続出し、議論がまとまらず暗礁に乗り上げかけたこともありました。しかし、大臣経験者の議員からも「これまでの政治の失敗に真摯に向き合い、こどもファーストで議論すべきだ。」という強い意見も多く出され、こども庁創設に向けて凄まじいスピードで動いていきました。

その後、7月7日に内閣官房にも「こども政策の推進に係る作業部会」が発足され、政府としても「こども庁創設」に向けて正式に議論が開始されました。

そのような時、スムーズに進んでいたこども庁議論に暗雲が立ち込めます。菅総理が突然引退され、自民党総裁選が行われることになりました。新しい政権で「菅総理が進められてきたこども政策が引き継がれるのか」という強い懸念あり、Children Firstの勉強会主催として、総裁選候補者による公開討論を企画しました。党内で凄まじい根回しをおこない、子ども政策を議論し合う会合が実現しました。当日は、3候補者が「こども庁の早期設置を図る」考えを示してくださり、すべての4候補者が、子ども政策の担当閣僚を置き、強い権限を持たせることや、関連予算を増額することで一致しました。それまで、総裁選でまったくメディアに取り上げられていなかった子ども政策でしたが、討論会の様子がテレビで放送され、翌日の新聞などでも取り上げられたことで、総裁選の争点にあがったのだと自負しています。

この討論会の実施に際して党内では「何故子ども政策だけ特別扱いされるのか」というような意見や批判もありましたが、何とか実現でき、岸田政権としても重要政策として継続していただけたことは一つの実績だと思っています。


写真)自民党総裁選候補者によるこども政策公開討論会


図)ChildrenFirstのこども行政のあり方勉強会の第二次提言


図)ChildrenFirstのこども行政のあり方勉強会の第二次提言
 

4.こども(家庭庁)設置法案閣議決定← こども庁の機能、必要な施策(縦割×横割×年代割)

  2月25日、無事にこども(家庭)庁設置法案が閣議決定されました。 こどもの意見の尊重、こどもの最善の利益を考慮することを基本とし、こども政策を推進する省庁が日本に創設される素晴らしい法案だと思っています。令和5年度の設置を目指すこととしています。こども庁の名称については、私は最後まで「こども家庭庁ではなく、こども庁であるべきだ」と主張を続けています。詳しいお話はこちらのブログ動画をご覧ください。



▼こども庁の体制と主な業務、組織イメージ

私が設置法で特にこだわって主張したことは、「いじめ」についてです。12月2日の時点での素案には、いじめに関する記載はありませんでした。私は、「文科省だけでは解決できなかったいじめ問題について、こども庁が所管できなければこども庁を創設する意味はない」とまで何度も強く迫りました。この件だけ、官僚と何十時間議論したかわかりません。結果として、12月7日、15日には以下のようにこども庁がいじめ事案や対策についても所管できることが記載されました。

5.こども基本法国会提出へ

こども庁設置法と並行して、議員立法で「こども基本法」を提出すべく、昨年から下準備を続けてきました。事務方と、世界中のこども基本法をリサーチ・比較し、日本国内の研究者や関連団体に徹底的にヒアリングを重ね、基本法の理想形を作成するは、秋ごろから着手していました。私はデジタル政務官を拝命しており議員立法に表立って携わることはできない立場なので、すべてアンダーでおこなってきました。

4月1日には自民党の総務会で了承され、衆議院に提出もされました。壮絶な議論で何度も党内で潰れかけ成立不能と諦めかけた時もありましたが、「こども基本法」の名称も死守でき、実現が見えてきました。

○なぜ、こども基本法が必要なのか?

近年、子どもの虐待に関する痛ましいニュースが続いています。特に2018年3月に東京都目黒区で亡くなった5歳の船戸結愛ちゃんと、2019年1月に千葉県野田市で10歳で亡くなった栗原心愛ちゃんの事件は、メディアでも大きく報道されました。児童相談所や学校、警察などの多くの機関が関わっていながら、誰もこの2人を救うことはできませんでした。特に、心愛ちゃんの必死のSOSであったアンケートが、教育関係者から父親に渡っていたという事実は、子どもの権利を守るという視点が全く抜け落ちていたと言わざるを得ません。

現在の児童虐待、いじめ、自殺、不登校などの子どもを取り巻く環境は過去最悪の水準です。子どもの最善の利益が考慮され、子どもの権利が守られている状況とは全くもって言えません。いわば、「子ども緊急事態」なのです。

しかし、日本では「児童福祉法」「母子保健法」「教育基本法」「少年法」「児童虐待防止法」「子どもの貧困対策推進法」「成育基本法」など、子どもに関わる多くの法律がありますが、子どもの権利を包括的に定めた「こども基本法」が存在しません。

こうした問題の根底には、1994年に「子どもの権利条約」を批准しているにも関わらず、子どもの権利を保障するための法律が存在せず、子どもの権利が軽視されがちな社会があるからだと考えられます。子どもをめぐるあらゆる問題を解決し、保健、医療、福祉、療育、教育等の子ども施策を整合性をもって実施するには、子どもの権利に関する国の基本方針、理念が定められることが必須なのです。

○こども基本法の内容

  法案は決して100点満点ではないですが、自民党内の根強い反対意見があった状況からすると、この内容で国会提出までできたことは奇跡だと思っています。今回国会に提出されたこども基本法案の概要は以下です。

簡単にポイントを説明します。

1,目的に、「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」「権利の擁護が図られ」という文言が明記された。

2,「こども」の定義を「心身の発達の過程にある者」と記載されたことで、年齢で支援が区切られることがない。

3,「こども施策」を「新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、おとなになるまでの心身の発達の過程を通じて切れ目なく行われるこどもの健やかな成長に対する支援」と記載されたことで、切れ目のない支援を実現できるようなる。

4,基本理念に、「子どもの権利条約4つの原則(命を守られ成長できること、子どもにとって最もよいこと、意見を表明し参加できること、差別のないこと)」が明記された。

5,国、地方公共団体、事業主(雇用環境の整備)の責務が明記された。

6,こども政策推進会議を設置することが明記された。

7,附則で「コミッショナー」の検討の土台となる文言が明記された。(こどもコミッショナーに関する私の立場にはこちら

基本法について、要綱、条文をご覧になりたい場合は、こちらをご覧ください。

このこども基本法によって、こども政策に横串を通すために全関係者が共有する「共通理念」が国内法として初めて成立することになります。こども庁(省)構想は、何十年も前から議論がありながら、実現ができていなかった政治的課題ですが、昨年1月に菅総理に面会後、約1年間でここまで来たことは、大変感慨深いです。これも、常に応援くださった国民のみなさんや、関係団体、先輩や同僚議員のおかげです。しかし、国会審議はこれからです。成立に向け、気を引き締めて臨んでいきます。