2022.5.24

不登校特例校の現場から~不登校支援の現状と課題~【後編】

 2022年4月29日、岐阜県揖斐郡にある不登校特例校「西濃学園中学校・高等学校を視察してきました。不登校特例校とは文科省の指定を基に、不登校の生徒児童の実態に合わせて弾力的な教育課程を編成することができる学校のことです。現在全国で10自治体にあり、21校が指定されています。うち公立が12校、私立が9校です。

※ 日本の不登校の現状と国の施策全体像について知りたいかたは、先にこちらのブログをご覧ください。


写真)左から加納先生(学園長代理)、私(山田太郎)、北浦学園

■西濃学園の特徴
  西濃学園は、岐阜駅から車で一時間ほど北西に向かった山村地域にあります。全国で唯一の全寮制の不登校特例校で、中学の定員は70名ほど。中学・高校一貫で廃校になった校舎が利用されています。

  高校教員だった北浦学園長は、自宅を売り払い、私財を投げうって不登校の子どもの支援をはじめられました。不登校になった子どもたちを問題児として捉えるのではなく、大切な存在として個々の特性に合わせた教育が必要と考えたそうです。これまで多くの苦労や困難を乗り越え、日本の不登校生徒のために30年間活動を継続されています。西濃学園で働く方々の情熱には、大変心打たれました。
 

玄関には卒業生が描いた絵画が飾られています。「本当に手のかかる子だったが、現在は画家として大活躍している」とおっしゃっていました。これまで不登校だった生徒たちの社会復帰のエピソードもたくさん伺いました。具体的なことは書けませんが、児童相談所の職員になった方、教員として母校に戻ってきた方、自衛隊を目指すようになった在学生など、こども達の可能性は環境次第だと改めて強く感じました。


西濃学園では奥穂高登山に力をいれており、10年継続している最重要行事だそうです。校内でも多数の登山の展示がされていました。今年の夏に向けた親子登山説明会に、私も参加させていただきましたが、想像以上に本格的な登山で驚きました。

授業風景はとても自由な雰囲気でした。臨床心理士とのカウンセリングルームや生徒が気持ちを落ち着かせることができるリラックスルームなど、プライベートかつ出入りが自由にできる空間も確保されていました。

西濃学園の特筆すべきことは、臨床心理士が常駐し、「子どもの行為」の意味を理解することに力を注いでいること。また、臨床心理士を中心に定期的に職員と情報交換を行ったり、各月に外部の專門家を招き、事例研究会を実施している点です。職員も全員、臨床心理の研修をするそうです。また、母親とは「母親ノート」といって、会話やLINEなどのやり取りを記録してもらうそうです。経験があれば、ノートを見るだけでこどもへの接し方の問題がわかることも。母親にこどもへの接し方の指導をするだけで、親子の関係が改善され不登校から立ち直る場合もあるそうです。

私も大好きなボードゲーム部や映画部もありました。生徒が自主的に立ちあげて活動しているそうです。

学園では3食、学園長のご家族による手作り。私も美味しいカレーをいただきました。


寮生活の様子(西濃学園ウェブサイトより)

 学園長は、「勉強だけではなく、清掃や草刈りなど環境ボランティアを活発に行ったり、お祭りや運動会などを地域と共同開催するなど、多くの場面で地域住民と交流することが重要だ。こうした交流により、子どもたちが人間関係の構築や共同・公共の意識を学ぶ一方で、人口減少の進む地域にも若者の息吹を吹き込んでいる。」と言います。山村地域での不登校特例校は、地方創生としても可能性があるのではないかと感じました。

大自然の中で愛情あふれる先生や臨床心理士の指導のもと、学習の遅れや生きる喜びを取り戻す教育を目の当たりにし、大変実りある視察になりました。西濃学園の授業研究資料はこちらから御覧いただけます。是非ご覧ください。

■現場から見えてきた課題

 半日の視察で先生方にじっくりとお話を伺い、様々な課題が浮き彫りになりました。

  • 不登校特例のノウハウ共有の課題

 コロナ禍で不登校が一気に増えた時、市区町村単位での対応はお手上げ状態だったと言います。一般校と不登校特例校の教員の人事交流なども促進し、不登校特例校のノウハウを共有していく必要があると思います。

また、不登校特例校間をみても、公立と私立の壁、またフリースクールとの壁が大きいことが課題です。現在では毎年、全国の不登校特例校が集まり事例研究会が開催されていますが、十分ではありません。不登校特例校同士やフリースクールとの横のつながりを強化することに加え、一般校の先生にも不登校特例校の理解を促進することで、こども個々に合せて選択肢を提供できるようになるはずです。

  • 経営の課題

不登校の場合、福祉的支援の側面が非常に重要であると改めて感じました。現実的には、発達特性の二次障害で不登校になっている場合も少なくなく、教育と福祉がしっかりと連携していく必要があります。西濃学園の場合も、臨床心理士の常駐や寮での生活支援など、個々に寄り添った非常に手厚い支援をしています。そうすると、一般校と比較してもコストがかかることは当然ですが、県や町からの補助は十分ではなく、企業や卒業生からの寄付に頼らざるを得ない状況です。全国に不登校特例校を拡大していくためには、公的支援の拡充に加え、FPIの活用を促進するなど、持続可能なモデルを検討すべきだと思っています。

  • スクールソーシャルワーカーの課題

 前回のブログでも触れましたが、岐阜県でも、スクールソーシャルワーカー不足は深刻だそうです。月に一度来るだけのカウンセラーでは、こども達も心を開くことが難しいのではないでしょうか。やはり、スクールソーシャルワーカーの予算拡充をしっかりと実現させていかねばなりません。

その他、予算時期の問題や授業数柔軟化の問題など、不登校特例校の足かせになっている制度の改革にも取り組んでいきます。不登校の増加は簡単に解決できる問題ではありません。しかし、政治としても「不登校支援をする」という強いメッセージを発信し、こども達のために一つずつ、粘り強く取り組んで参ります。

西濃学園に関する授業研究資料はこちらから是非ご覧ください。