2022.6.5
里親委託率全国2位!福岡市の取り組みを視察
写真)左:事務局長 森徹さん、右:私(山田太郎)
■「里親をチームで支える仕組み」SOS子どもの村福岡の視察
先日5月31日、里親率を32%増加させ、全国でも2位を誇る福岡市に、珍しい里親の仕組みがあると伺い、視察に行ってきました。福岡市西区にあるSOS子どもの村福岡です。
2010年にはじまった子どもの村福岡は、敷地内に5軒の家があり、村長、里親、里親を生活面で支えるファミリーアシスタント、精神科医や小児科医、臨床心理士やソーシャルワーカーなど、専門家とチームになり、里親養育に取り組んでいます。私はこれまで、国内外さまざまな施設や里親を見てきましたが、初めて聞く事例でした。しかも、財源のほとんどは地元の企業やスポーツ選手などからの寄付で賄われています。
写真)5軒の家の中央に広々とした庭が広がる。各自宅の後ろ側にも庭がありプライベートな空間も保たれている。
写真)ショートステイ用のお宅。(3-5日程度のステイが多いそう)
写真)プロ野球の柳田選手はホームラン1本につき30万円の寄付をしているそうで、2018年は39発のホームランを打ち、1170万円を寄付。毎年の野球練習会は、こども達もとても楽しみにしているそうです。
各家庭では3-4人程度の子どもたちが生活しています。家族みんなでの食事や、買い物、習い事、家族旅行など、子どもたちは家庭のなかで尊重され、愛情をいっぱいに受けて成長します。地域のお祭りや行事に参加するなかで、社会とのつながりも学んでいきます。
地域との関係について、事務局長の森さんは「実際、2か所の候補地域では反発があり実現できず、3か所目のここ今津でも最初は「いじめ・非行が多くなるのではないか」と反発の声がありました。しかし、地域の長が受け入れてくれたことをきっかけに、今ではすっかり地域の皆さんに受け入れてもらえました。」と言います。
森事務局長:「もともと「アンチ施設」で始めたのがここ「子どもの村」です。一方で、私たちは里親にもさまざまな課題があるということを前提としています。実際、育児につまずいたり、里親は相談できる相手がいなかったりして里子を手放すこともありますが、そういった里親をいかに減らし質を向上させていけるかということが目標です。里親に対し、どのような介入があれば問題を解決できるのかという実践をしているということです。ここでは、他のスタッフや専門家、地域の方々など、たくさんの人に見守られています。里親が一人で抱え込んでしまわないよう相談もでき、「村の子ども」として一緒に育てていけるシステムが整っていることは、子どもにも里親にも安心できるシステムです。お金さえあれば、全国で展開していきたいですね。」
写真)たまごホール。雨の日の室内遊戯場として活用したり、ピアノも備え付けでこども達が自由に弾くことができる。ここで地域の交流会やイベントなども開催される。
写真)こども達の心のケアを行うカウンセリングルーム。その他、こども達が実親と交流するための家族の部屋なども備え付けられている。
■日本の要保護児童
ここで、改めて日本の社会的養護の現状について整理します。親の病気や貧困、虐待など、さまざまな事情で家族と暮らすことができない子どもたちは、全国で約4万5千人います。このようなこどものことを要保護児童といいますが、そのこどもたちの成長を社会で見守り、自立まで支えていくことを「社会的養護」といいます。
この社会的養護が必要なこども達も当然に、愛され、育つ権利をもっています。私は日本に生まれたすべての子どもに、家庭で愛されて育つ子ども時代を過ごして欲しいと強く願っています。国として社会的養護を包括的に推進し、質の担保された里親や特別養子縁組を増やすために、2016年から「こども(家庭)庁」の創設を公約として訴え、活動してきました。
で要保護児童は約4万5千人と言いましたが、日本こどもの人口は減少し続けているにもかかわらず、社会的養護が必要なこども達は増加しています。
この図を見ていただくと、圧倒的に多くが児童養護施設という施設の中で、集団生活を営んでいるというのが現状だとわかります。乳児院というのは0歳から2歳までの小さい子どもたちが暮らしている施設です。
図)令和4年度の日本の児童養護
ファミリーホーム・里親というのは個別の自宅で、1人ないしは多くて4人くらいの子どもを預かっている形態です。
次の図で、入所時の年齢を見ると、0才から5才児というのが半分以上です。この児童養護というのは、かつては孤児院からスタートした制度です。戦時・戦後、両親とも戦争で亡くなってしまった身寄りのない子どもたちを、行政が保護したというのが背景です。現在は、両親の死亡・行方不明で来られる方は全体の約10パーセントで、3割以上は虐待、ネグレクトが原因です。
図)令和4年度の日本の入所時の年齢と保護の理由
■日本の里親委託率は世界でも最低水準
子どもにとって、家庭で愛されて育つことは、心身の発達や愛着形成にとって非常大切なことです。私は、子どもたちにとってもうひとつの家族となる里親家庭の普及を推し進めていくことが必要だと思っています。
しかし、日本の現状は里親委託率が21%。これでもこの10年で10%程度上昇した数字です。欧米諸国では、おおむね半分以上が里親委託であるのに対し、日本では施設:里親比率が8:2となっており依然として施設養護依存が高い現状です。世界では乳児院もほとんど存在しません。
図)令和3年度の諸外国における里親等委託率の状況
集団での生活によって、愛着障害等多く引き起こしてしまうという明確な問題点があるにも関わらず、日本では戦後からずるずると施設を継続しているという現状です。
そして、里親委託率は自治体間でも大きな格差があります。全国平均は22.8%ですが、最小(宮崎県)は10.6%、最大(新潟県)は58.3%です。これでは、生まれた地域によって里親に委託される機会すら奪われている状況です。
しかし、これは首長のやる気次第で変えられることでもあります。実際、首長の強いリーダーシップによって過去10年で里親率を30%以上増加させた自治体もあります。
■視察を終えて
福岡市では子ども視点の行政があり、「子どもの権利(生きる権利・育つ権利・守られる権利・参加する権利)」が徹底的に守られていました。それを基盤とし、里親を専門家や地域で支える仕組みには、社会的養護を推進する大きな可能性を感じました。
国としては、里親養育に先進的に取り組む地方自治体やNPOの足かせにならないよう、里親認定の不合理(各県で認定制度が異なる)の見直しを検討していきたいと思います。しかし、子どもが生まれる自治体により権利擁護や社会的養護の格差があってはなりません。全国でこどもの権利が守られるよう、こども基本法を成立させ、中身をしっかりと機能させていくことに全力を注ぎます。