2023.4.26

こどもが死なない国を目指して!「不適切指導」をなくすために、山田太郎が何をしたのか?

いじめとも、家庭の悩みとも無関係なこどもが、学校での「指導」の後に自殺する事件「指導死」。私がこの「指導死」という言葉を初めて知ったのは、2021年3月。学校現場の「不適切な指導」で追い詰められ、命を落としたこども達の遺族の皆さんとの出会いがきっかけでした。

 そこから約2年の活動の末、「生徒指導提要に不適切な指導について盛り込む」ことを実現しました。国会議員でこの指導死の問題に取り組んでいるのは、残念ながら私だけではないかと思います。今回のブログでは、読者一人ひとりに自分事としてこの問題を考えていけるように、私のこの2年余りの活動について振り返りたいと思います。

■児童⽣徒の⾃殺は過去最多。しかし、半数以上は「原因不明」

厚⽣労働省と警察庁は、2022 年に⾃殺で亡くなった⼩中⾼⽣は514⼈(確定値)で過去最多となったことを公表しました。5年前の2017年は357人です。少子化でこどもの数は減っているのに、こどもの自殺は増加しています。

⽂科省統計では、⼩中⾼⽣の⾃殺は2020年度に過去最多の499⼈となりました。しかし、その⾃殺の半数以上が「原因不明」のままにされているのです(⽂科省の問題⾏動調査)。

こどもが亡くなっているにも関わらず、その「原因が不明」、調査すらされないという現状を知ったとき、「この問題は、これ以上現場に任せていても改善しない。国が早急に解決策を打ち出さなければいけない」と強く感じました。

■ChildrenFirst勉強会で「指導死」を取り上げる

こういった問題意識のもと、「指導死」について同僚議員にも知ってほしいと、2021年4月、私が事務局を務めるChildrenFirstのこども行政のあり方勉強会でテーマとして取り上げました。

講師としてお越しいただいたのは、一般社団法人ここから未来 代表理事、指導死 親の会共同代表の大貫隆志さんです。大貫さんは2000年9月、長時間の生徒指導などを受けた翌日、次男の大貫陵平さんを自殺で亡くしました。以来、生徒指導による子どもの自殺を「指導死」と名付け、問題提起を行ってこられました。

このヒアリングを踏まえ、こども家庭庁創設に向けた第一次提言では、「こどもの自殺に対する詳細検証の全数把握やレビュー等を通じ、予防対策の充実を図るとともに遺族支援も行うこと」「府省庁横断的なチャイルド・デス・レビュー(CDR:予防のための子どもの死亡検証)の標準実施に向けた制度整備をすること」を盛り込みました。第二次提言には、明確に「体罰、虐待と指導死の問題」として、学校や保育・教育施設など子どもに関わる各種施設での体罰や指導死、理不尽な校則など不適切な対応は調査すらされておらず、課題をないがしろにした防止策となっているのが現状である。適切な実態調査と再発防止策の徹底が必要」と記載しました。

■改定する生徒指導提要に「不適切指導」を記載するまで

 その後、2021年10月に教員の生徒指導のマニュアルである「生徒指導提要」が12年ぶりに改定にされることを知り、私は、具体的なアクションを起こしていきました。約1年間、文科省と粘り強く交渉を重ねた結果、「不適切な指導」について「生徒指導提要」にしっかりと盛り込むことを実現しました。

2021年10月。不適切な生徒指導でお子さんを亡くされた遺族のみなさん(安全な生徒指導を考える会)から事務所にこんな相談がありました。

「生徒指導提要の改訂に合せて不適切な指導について盛り込んでもらいたいと思い、会で要望書を作成しました。文科省へ問い合わせると、コロナ禍ということもあってか、郵送かメールでなら受け付けると言われました。要望書を受け取ってもらえない場合はどうすればよいのでしょうか?」

そこで、11⽉6⽇「安全な生徒指導を考える会」の皆さんと直接お会いし、詳しいお話をお伺いしました。この会の遺族のみなさんは、「こどもの死を無駄にしたくない」「同じように自ら命を絶つこどもを減らしたい」そんな思いで政府に対して政策提言を試みている方々でした。そして、私自身も「不適切指導について教員や社会に周知徹底し、未然に防ぐためにも、生徒指導提要にしっかりと不適切指導を盛り込むべきだ」と考えました。

私が12⽉21⽇、文科省には遺族から直接話を聞いてもらう場を設け、文科省が一旦は受け取り拒否をしていた要望書を受けとることになりました。この時点では、素案の章立てに「不適切な指導」は全く書き込まれていませんでした。

その後3⽉30⽇、5月10日と文科省から生徒指導提要の検討状況をヒアリングすると同時に、生徒指導提要に「不適切な指導」をひとつの大きな項目として、しっかりと盛り込むよう要請しました。

5月10日時点の生徒指導提要の素案では、「不適切な指導」という文言が目次に追加され、不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることが、過去事例(福井池田町の自殺事案)を踏まえて記載されました。

“第3章 チーム学校による生徒指導体制
3.6 生徒指導に関する法制度等の運用体制
3.6.2 懲戒と体罰、不適切な指導

しかし、不適切指導による不登校や自殺事案では、教員が不適切であると自覚しないまま指導を行っているという重大な課題があります。

そこで、8月9日、再度文科省と面談を設定し、不適切指導の具体例を記載することで、日常の指導に潜む危険に気づき、不適切な指導の予防につながることが考えられることから、さらに踏み込んで、具体例の記載をするように求めました。

この文科省とのやり取りについて、安全な生徒指導を考える会の方は

レクでは、(山田議員は)具体的にどう盛り込めるかを考えてくれました。文科省側も聞いてくれて、検討してくれていることが感覚的に伝わりました」と語っています。(弁護士ドットコムニュース「部活顧問の「不適切な指導」で弟亡くした女性、教員向け「基本書」の初改訂に「時代の変化を感じた」「指導死もっと知って」」

 そして、8月28日に公開された生徒指導提要の改訂案(P104)に、新たに不適切指導の具体例が掲載されました。

前回の生徒指導提要では、不適切指導を想定していないと思われる状況でしたが、今回は不適切指導が目次に入り、具体例まで掲載されました。これは、生徒指導を安全なものにし、こどもの命を守るための大きな一歩だと思います。

その後、9⽉15⽇、安全な生徒指導を考える会のみなさんは、永岡⽂部科学⼤⾂と⾯談し、要望書を提出しました。その時、大臣は「指導死ゼロは基本」と明言されています。

そして、12⽉6⽇、いよいよ新しい⽣徒指導提要改訂版が公表されました。以下が、私が遺族の皆さんと粘り強く取り組んだ結果、大きく前進したポイントです。

・「不適切指導」の存在が明文化された(今までは不適切指導に⾔及すらしていなかった)
・不適切指導が不登校や⾃殺のきっかけになることが記載された
・不適切指導の具体例が示された
・指導後の適切な対応についても記載された

また、確定した改訂版には、非常に重要な不適切指導についての「注意書き」も掲載されましたので、原文を紹介します。

たとえ身体的な侵害や、肉体的苦痛を与える行為でなくても、いたずらに注意や過度な叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感を高め、自信や意欲を喪失させるなど、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねません。教職員にとっては日常的な声掛けや指導であっても、児童生徒や個々の状況によって受け止めが異なること から、特定の児童生徒のみならず、全体への過度な叱責等に対しても、児童生徒が圧力と感じる場合もあることを考慮しなければなりません。そのため、指導を行った後には、児童生徒を一人にせず、心身の状況を観察するなど、指導後のフォローを行うことが大切です。加えて、教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります(生徒指導提要105頁)

■生徒指導提要の周知徹底が必要、レク、質疑から通知発出まで

このようにして、生徒指導提要に「不適切指導」を盛り込むことを実現したわけですが、マニュアルを作って終わりでは意味がありません。いかに現場に周知徹底させるかが重要です。2023年1月20日私は、この提要をどのように周知させていくのか、文科省にフォローアップをしました。文科省からは、「オンライン研修」や「動画作成」を行うとの回答でしたが、それでは不十分であると考え、私からは文科省から教育委員会に対して「通知」「通達」を発出することを求めました。

この発出については、3月9日の内閣委員会で質疑も行っています。

「こども基本法の理念からいっても、やはりこの不適切指導の禁止ということに関して、文科省から教育委員会並びに各学校長に徹底した通達をして、本当にこれによって苦しんでいるこどもたち、そして命を散らすこどもたちが一人もいなくなるように是非やっていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。」

文科省の審議官は、「教師による不適切な指導は、不登校や自殺につながることから、いかなる生徒に対しても決して許されないこと」との答弁がありました。

そして、3月29日付で、文科省初等中等教育局長名で、教育委員会に対して「通知」が発出され、以下が記載されました。

・不適切な指導が生徒指導提要に記載されたこと、そして不適切な指導がいかなる児童生徒に対しても決して許されないこと

・不適切な指導の懲戒処分規定が未整備の教育委員会においては、規定している教育委員会を参考にして基準を定めることが望ましいこと 

■今後の課題
冒頭でも触れましたが、不適切指導をめぐる大きな課題は、いじめの問題と同様に、実態把握の取り組みが積極的にされていない、現在の教育委員会の構造では報告があがりづらいということです。この点についても、一つずつ前に進めていくために、4月4日の内閣委員会で国会質疑を行いました。

『現在文科省では、「こどもの自殺が起きたときの背景調査の指針」を出しています。背景調査とは、自殺又は自殺が疑われる死亡事案について、事案発生(認知)後速やかに着手する、全件を対象とする基本調査です。

内容は、設置者が① 遺族との関わり・関係機関との協力等 ② 指導記録等の確認 ③ 全教職員からの聴き取り(調査開始から3日以内を目途に終了) ④ 亡くなった子供と関係の深い子供への聴き取り(状況に応じて)をします。そして、設置者は基本調査の報告を受け、詳細調査に移行することかどうか判断することになっています。

指針では、全ての事案について移行することが望ましいが、難しい場合は、少なくとも①学校生活に関係する要素(いじめ,体罰,学業,友人等)が背景に疑われる場合 、②遺族の要望がある場合、③その他必要な場合は、詳細調査に移行するよう求めています。

しかし、私が知る事例では、「学校が行ったアンケート調査=詳細調査として終結し、いくら遺族が詳細調査を希望しても、それ以上の第三者による調査はしない。遺族が起こした裁判の判決後に調査・検証を求めても拒否している」教育委員会があり、調査すらしてもらえない多くの遺族の方が今でも苦しんでいます。これは、こどもの命、自殺の扱われ方に直結する重要な問題である考えます。』

質疑では、指導死をなくすためには、調査の報告書の文科省への提出を義務づけ、調査の徹底を図るべきとただしました。その結果、以下の文科省の答弁を引き出しました。

・不適切指導でこどもが亡くなった場合(いわゆる指導死)など詳細調査が行われることとなっているが、アンケート調査はこの詳細調査にはあたらない。

・遺族が詳細調査を希望した場合に、設置者がそれを拒否することは許されない。実際に拒否された場合、文科省は学校設置者等に指導助言を行っていく。

実際に自殺が起きたにも関わらず文科省に調査結果を提出していない事案も私の方で確認しています。全件調査がしっかりと調査が行われるよう、引き続き、粘り強く取り組んで参ります。

そして、根本的に、こどもや若者の死因が自殺であるという国は、やはりあってはならないことです。これは、政治の責任だと思っています。こどもや若者が自分らしく、幸せに暮らせる社会の実現のために、全力を尽くして参ります。