2021.12.29

ステレオタイプの「不登校」から脱却、多様な支援アプローチとは?

12月13日、私(山田太郎)が事務局を務める第22回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。

今回は以下の3つのご発表をいただき、大変中身の濃い、充実した議論の時間となりました。

①「大人ファーストが阻んでいる、こどもの無限の可能性〜現場で起きている諸問題〜」(公益社団法人全国学習塾協会 会長 安藤大作さんより)

②「教育委員会と連携した部活動支援」(リーフラス株式会社 代表取締役 伊藤清隆さんより)

③「不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について」(日本大学教授/内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員 末冨芳さんより)

ステレオタイプのネガティブな「不登校」という考え方から脱却し、子どもたちの新しい生き方の1つとしてどのように支えていくのかを検討することが重要です。

写真)司会を務める自見はなこ参議院議員(左)、山田太郎参議院議員(右)

①大人ファーストが阻んでいる、こどもの無限の可能性〜現場で起きている諸問題〜


写真)公益社団法人全国学習塾協会 会長 安藤大作さん

 令和元年度現在、小・中学校における不登校児童生徒数は196,127人に上り、前年度の181,272 人から14,855人(8.2%)増でした。過去8年間連続で増加しています。文科省の施策により、不登校児童生徒が、自宅に居ながら学校と連携した学習活動を実施することで授業への出席の取り扱いが可能になり、成績に反映させられるようになりました。しかし、現場の実態としてはほとんど浸透・活用がされていません。自宅におけるICT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした児童生徒の数はわずか2,626人でした。

資料:大人ファーストが阻んでいる、こどもの無限の可能性 ~現場で起きている諸問題~

現場に浸透しないもっとも大きな理由としてあげられるのは、保護者の制度認知度不足による学校への依頼件数の少なさ、保護者に周知をするはずの学校現場でも制度認知不足です。また、前例利用や他校利用実績の少なさによる学校側の長期検討期間が必要となることや、学校長裁量(責任)による制度利用のハードルの高さも施行件数が少ない理由であります。

つまり、子どもを中心に置いて考えているのではなく、大人の都合によるものです。このルールを周知することはともすれば「学校に来なくてもいいよ」というメッセージとして受け止められかねません。しかし、国としてこのようなルールがあり、“不登校者が増えている、自殺者も増えている、自己肯定感も下がっている”という現状を鑑みると、やはりこどもファーストで考えた時には国が呼びかけたものを現場に周知浸透させていくことが非常に重要であると考えています。

なかなか浸透が進まない中でも、民間が先進的に活用している事例もあります。「クラスジャパン小中学園」では在宅学習をサポートして記録を残し、学校へのレポート提出をも支援しています。児童生徒の卒業後の進路に対する不利益が解消されています。


資料:大人ファーストが阻んでいる、こどもの無限の可能性 ~現場で起きている諸問題~

最近の不登校は“支援が必要”というものだけではありません。今までは学業不振やいじめなど、本人が非常に不利な状況に置かれているということが多く、どうしても国や行政の目線から「支援施策を」と考えがちでした。しかし、最近は非常に能力が高くあえて学校に行かないという子どもも多くいます。彼らは“支援”という言葉を非常に嫌い、むしろ自分の能力をもっと伸ばしていくためのサポートなら喜んで前を向いて進んでいけるという気持ちを持っています。

続いて、GIGAスクールの問題です。すでに97.6%の自治体で環境整備が完了となっているはずですが、現場の実態は「配布済み」53.7%、「未配布」46.3% であることが、RANAOSが2021年10月14日に発表した 調査結果より明らかになりました。

資料:大人ファーストが阻んでいる、こどもの無限の可能性 ~現場で起きている諸問題~

また、現場では、文科省の部活動ガイドラインも守られておらず、職員の働き方改革にも逆行し、子どもたちの学習・休養の機会を確保することができていないという実態があります。

つまり、国からの呼びかけ、地方教育委員会からの呼びかけがあったとしても、現場の教員、担当者の匙加減の中でバラバラ感があまりにも強いということです。政教分離の弊害というものが今出てきているのではないかと考えており、国がイニシアチブをしっかり取っていくことが必要であると考えています。

最後に、社会教育の再定義の問題について提言をいただきました。
社会教育法において、公民館が営利事業に関わることを全面的に禁止するものではないとされています。しかし、安藤さんの働く学習塾で塾生に向けて学習会を予定し、その会場として塾の近所のコミュニティーセンター(公民館のようなところ)を借りたそうです。料金も支払い、使用許可の印鑑ももらった上でしたが、館長から電話で「営利目的の使用は禁止なので、塾は断りたい。」と言われたという事例がありました。民間事業者がいくらこどもファーストで動こうとしても、上位法令と自治体条例のねじれによって、こどもに届きません。このような“大人ファーストによる弊害“を改善していくべきです。

②教育委員会と連携した部活動支援

次に、リーフラス株式会社の代表取締役伊藤清隆さんより、教育委員会と連携した部活動支援の実態についてご紹介をいただきました。

写真)リーフラス株式会社の代表取締役伊藤清隆さん
 

リーフラスは“スポーツスクール”事業・小学校の体育授業の支援も行なっており、全国13万人以上の子どもたちに“安全に”スポーツ指導を行なっている会社です。特に部活動支援事業、放課後支援として校庭を利用した居場所づくりの事業にも力を入れていらっしゃいます。

資料:教育委員会と連携した部活動支援

なかでも今回の勉強会では部活動支援事業の実態についてご紹介をいただきました。

学校の先生の休日の部活動指導を含めた過重労働は、現在かなり大きなものとなっています。その中で、文部科学省による働き方改革や部活動改革案がまとめられたことにより、部活動の民間委託の流れが加速しています。

資料:教育委員会と連携した部活動支援

リーフラスは14自治体に採用され、部活動支援事業を提供されており、そのうち名古屋市では小学校、それ以外は中学校の部活動を支援されています。そのなかで、名古屋市での事例をご紹介いただきました。

資料:教育委員会と連携した部活動支援

教員の働き方改革の背景もあり、行政としては部活動の廃止も一時検討していましたが、保護者からは子どものスポーツ環境を失くさないでほしいとの部活継続の声があがったことにより、民間事業者に完全委託するという方向性が決定しました。全262校、30,000名の子どもたちに、有志地域住民の協力を得ながら部活動支援・指導を実施しています。

また、特徴として、教育委員会との連携により元・校長先生を採用して各校巡回をすることにより、安全を最優先に考えた部活動支援を安定して提供できるという仕組みになっています。

こどもたちからは5点満点中4.5点という高得点で、こども達の満足度も高くなっています。

資料:教育委員会と連携した部活動支援

「部活動を継続したい」という先生は、兼業という扱いで時間給雇用をし、研修した上で、学校側と残業管理を実施しているそうです。いわゆる“めちゃくちゃ”な部活動時間・内容については、リーフラスがコントロールすることができるようになっており、こども達の安全性も確保されています。学校の先生が副業として部活動指導を実施し、その対価が支払われるようにするという仕組みは、先生にとっても素晴らしい仕組みであると思います。

③不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について

最後に、日本大学教授・内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員の末冨芳さんより、不登校児童生徒への支援アプローチのあり方、今後の多様で柔軟な不登校児童生徒の減少を目指すための方法についてご提言をいただきました。


写真)日本大学教授・内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員の末冨芳さん

まず、「なぜ不登校児童生徒が増加し続けるのか?」と考えると、実態把握・支援ニーズ把握の不足から「多様な学びの保障」を支える制度整備の不足が要因です。つまり多様な支援アプローチが不足しているということです。逆に言えばこれらを改善することで「学びの保障」をすることができるようになり、不登校児童生徒の減少を目指すことにもつながります。

現状では不登校の児童生徒を取り巻くたくさんの壁が立ちはだかっています。

資料:不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について

履修主義(学級で学ぶ)の壁、オンライン授業の推進が進まない実態、費用負担の壁や地域による機会格差の壁、さらには前述した校長先生による履修認定がほとんど行われない現状が、こどもたちが苦しむ一因となっています。不登校の子どもも支えられるような個別最適な学びを支える人的財的な条件、学校以外での「多様な学びの保障」の全体設計を考えていくべきであると捉えています。
 

政策的な喫緊の課題は、不登校児童生徒の実態把握・支援ニーズ把握を進めていくことです。長期欠席・不登校の児童生徒の「いま必要な支援ニーズ」の把握・アセスメントがそもそも必要な状況であり、文科省の当事者調査に加えて、もう一歩踏み込んだ調査が必要であると考えています。その対応策としては、例えば文科省のMEXCBT(学びの保障オンライン学習システム)等を活用した不登校児童生徒の定期的な見守りにより、状況把握・ニーズ把握等を教育委員会が実施し、それに対応できるような共通尺度の開発を進めていくべきではないかと考えます。

あわせて、不登校児童生徒・保護者が、発達特性や学習者特性診断を気軽に受けられ、自治体・医療機関の相談や診断につながるようなデジタル化・ オンライン化されたシステムの開発も重要だと考えます。

資料:不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について

続いて、現状は「多様な学びの保障」を支える制度整備が不足していると言えます。在籍校の校長による履修認定の基準は曖昧で、病気療養児には相対的に柔軟な運用をされていますが、不登校児童に対しても、校長の履修認定基準の明確化・簡略化することが重要だと考えます。

資料:不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について

前提として、不登校の児童生徒が学習・登校等の意欲を回復するための期間は、学習より休養・ケアを重視し、親子を孤立させず見守る体制の整備が重要です。それに合わせて不登校児童生徒の「多様な学びの保障をしていくこと、そして家庭での在宅学習については、少数例かもしれないが虐待等のリスクもあることから、子どもを守るデータベース、MEXCBT等を活用した見守りシステムとクールカウンセラー等による定期面談等を組み合わせた支援アプローチを開発する必要性があると考えます。

ここまで述べてきた“壁”をなくすために必要となる全体的な政策案についてもご提言いただきました。

資料:不登校児童生徒への多様な支援アプローチのあり方について

また、現在の習得主義中心で出席することを前提とした学校から、イノベーティブな取り組み・チャレンジを促進するための大胆な規制緩和が現代の子どもたちには必要であると考えています。

これまで、政府としては、いじめと並んで不登校という問題には取り組みにくいテーマであったと思います。今後、しっかり子どもを中心とした議論を深め続けていくきっかけとなる貴重な機会となりました。