2021.4.16

身体的健康は世界1位、心理的な健康は37位、その原因とは? 第9回Children Firstの子ども行政のあり方勉強会開催

4月6日、私(山田太郎)が事務局を務める第9回目の「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会〜こども庁創設に向けて〜」を開催しました。私たちが、菅総理に申し入れをしたその日に、総理は党内でも「こども庁」創設に向けて検討をする本部を立ちあげる指示をされたとの報道があり、申し入れの報告会として、急遽第9回目の勉強会を開催する運びとなりました。

前日の案内にもかかわらず20名を超える議員と60名近い地方議員等のウェブ参加者と多くの報道関係者が参加してくださいました。

写真)当日の会場の様子

写真)挨拶をする私(山田太郎)、左:自見はなこ参議院議員

そして、「こども庁創設への期待」というテーマで、国立成育医療研究センターの五十嵐隆先生にご講演をいただきました。先生からは、大変重要な指摘と改めて考えさせられる貴重なご意見を多数いただきました。少し長いですが、是非お読みください。

五十嵐先生はなんと、10年以上も前に日本学術会議から、こどもの成育環境を改善するために、総合的な行政の仕組みが必要だということで、子どもための教育、保育、医療、そして環境統合する部局の設立、あるいはこども家庭省またはこども庁を作ったほうが良い。という提言をされていたそうです。

しかし、関係省庁に配布した提言を、どれくらいの方が読んでくれたか、と調査したところ、なんと4%しか読んでいただけていなかったとのこと!!

写真)五十嵐先生

■身体的健康は世界1位、心理的な健康は37位

まず、医学的に見た日本の子どもたちの問題について教えていただきました。

今から30年以上前にWHOが「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」と定義しています。

昨年9月、ユニセフの子どものアドボカシーを研究する部門が、OECDとヨーロッパを含む38カ国の身体的な状態、メンタルの状態、それから社会性の3つの観点から順位づけを行いました。

日本はフィジカルヘルス(つまり身体的な健康)は38カ国中1位。ところが、心理的な問題に関しては37位でした(最下位の38位はトルコ)。そして社会性は27位で総合20位でした。身体的には日本の子ども達は恵まれているが、心理的な環境は散々だということです。

図)五十嵐先生提供資料

一方日本は低出生体重児がOECDの中でも1番多いということも大変衝撃でした。

昭和50年は未熟児(いわゆる2500g以下で生まれてくる子ども達)は5%くらいでしたが、現在ではそれが9.4%と、OECDと比較しても非常に高い状態です。医学的には、小さく生まれると身体的な問題だけではなくて、中枢神経の問題もたくさん出てくるというのもわかっています。

図)五十嵐先生提供資料

そして文科省の方から見ると、例えば特別支援学級に在学する発達障害や情緒の障害値(ADHDや学習障害、自閉症、アスペルガー症候群の子ども達)が平成20年位から急増しています。この10年間の変化に、現場の教員たちが対応するのは、大変困難であることも伺えます。

図)五十嵐先生提供資料

■貧困と児童相談対応件数の増加

一方日本は貧困も無視できない状況で、特に母子家庭になった途端に貧困が強くなるということがわかっています。OECDのなかでも日本が1番相対的貧困率が高くなっています。特に母子家庭の中でも相対的貧困率は50%超えているという事実です。

図)五十嵐先生ご提出資料

その理由としては国からのさまざまな支援が働いていない高齢者の方に集中しており、母子家庭には支援が薄いということが、この結果を生んでいます。貧困=虐待とは言い切れるわけではありませんが、貧困層からの虐待相談は非常に増えてきています。


図)五十嵐先生ご提供資料

■医療的ケア児は2万人、必要な支援

一方医療的なケアが必要な子ども達(わかりやすい例だと未熟児に生まれて人工呼吸器に繋がれて、人工呼吸機を外すことができないで大人になっていく)が増えてきているという指摘もありました。現在医療的ケアが必要な子どもは約2万人、人工呼吸管理の必要な子どもが約4000人という数字です。

図)五十嵐先生ご提供資料

医療的ケアが必要な子どもに対しては、医療の進歩によって例えば白血病は8割以上の子ども達が5年以上生存できる時代になっています。しかし、そういうお子さん達はニ次障害や中枢神経障害、あるいは化学療法のいろんな障害のために、晩期障害という問題が出てます。こういった形にも対応しないといけないということがわかってきています。

■日本が子どもの心の問題に向き合っていない実態

また、2018年に「子ども達の年齢ごとで、何が一番影響を与えているのか」という、調査をされたそうです。そこでは、心の問題が非常に多いということが分かったそうです。

そして、先生から以下のような非常に重要な指摘がありました。

「うつ病も心の問題の1つで、米国では小中学生の子どもの学業成績が悪くなるとうつ病じゃないかと疑うんです。しかし、日本の小児科医はそこまでスキルがなくて、そういうチェックができません。日本の10〜14歳の子どもの死亡の1位は自殺だということをわかって欲しいです。そして、不慮の事故には自殺も入っていると思われます。

日本では子ども心の問題を定期的にチェックするシステムがありません。学校検診は、腎疾患、心疾患、結核疾患、おそらく世界一いろんな検査をいろんな検診をしています。内科検診では裸になって1列になって1人1〜2分で聴診して終わり。学校検診というのは子どもの心理社会性を評価するシステムではないということです。こういった実態に関しては文科省は公開しておりません。

そして、学校にはスクールカウンセラーがいますが、1人の方がいくつもの学校を掛け持っていますし、普段見ていないようなカウンセラーの女性に、親や学校の先生にも言えないような悩みを突然相談しろと言われても、それはできるわけがありません。顔が見えていないカウンセラーになっています。

図)五十嵐先生ご提供資料

図)五十嵐先生ご提供資料

■子どもの心の問題に向き合っていない原因

五十嵐先生は、子どもの心の問題に向き合えていない原因として「治療方針の少なさが大きな問題」だといいます。

精神科の先生はどうしても薬物を使いたがるという傾向がありますが、小児科医はできるだけ使わないで対応しようとしています。それをおこなうと医療として成り立たないという問題があります。そして重症化している精神疾患に対して、小児あるいは青年の精神疾患を見てくれる精神科の先生が極めて少ないというのも、大変大きな問題です。

一方乳幼児の検診ですが、日本の乳幼児の法定検診は3回しかありません。

それに対し米国では、乳児期に7回の乳幼児検診があります。3歳〜21歳までは年1回の検診があり、個別検診で30分くらいかけているそうです。

そこでは予防注射や身体的な評価をしますが、1番大事なのは問診を3歳からずっとやっていれば顔見知りにもなってますし、親御さんにも言えないようなことも相談できるという人間関係を作っている、ということです。

またこのような検診を受けないと学校にいけない、というシステムだそうです。

アメリカの子どもの検診というのは、日本でやっている検診とは別に生活習慣、親子関係、学校生活の子どもを取り巻く環境を聞いて、心身の健康に影響を与えるリスクがないか評価する。その上で適切な助言や指導を行う。

そして、先行的ガイダンスと言う、次の年の検診までに子どもに起こりうる事象、保護者が悩んでいることを具体化して、それへの対応方法を説明して助言する。といった検診がされているそうです。日本の検診内容と比較するとまったく質が異なることがわかります。

写真)五十嵐隆先生

また、アメリカでは知的障害をもつ女の子が、性的な被害を受けることが非常に高いということがわかっています。日本でも同様です。

例えばダウン症で知的障害があるような女の子が、思春期に性的な二次成長が出てた時、男性から言い寄られた時に、女の子から“NO”と言うことができるようにお母さんとお子さんと小さいときから診ている小児科医でロールプレイングをするそうです。これがダウン症、知的障害があるということが性的被害を受けやすいというリスクがあることを認識して、そのリスクに対してあらかじめ対応するという。ということです。日本の医療ではこういったことはほとんどされていません。

最後に先生からは、「子どもを身体、心理、社会的に捉えて本当に支援するためには、省庁を横断的な子ども庁のような組織を作り課題に対して先行的に切り込んでいく必要がある。それがない限りは相変わらず子どもたちへの施策というのは進んで行かないのではないかと考えている次第です。」という力強い提言もいただきました。

図)五十嵐先生ご提供資料

先生のお話から、私たち政治や行政が、子どもの意見を聞かず、子どもの心の問題を何十年間放置してきたことで、子どもの自殺数1位、精神的幸福度37位というような結果を生じさている、ということをきちんと反省しなければいけない、と改めて強く思わされました。参加の先生方からも大変熱い意見を多数いただきました。

写真)衛藤晟一衆議院議員

写真)齋藤健衆議院議員

写真)柴山昌彦衆議院議員

本勉強会は、今後も毎週1回継続していくことになりました。大人の組織論は2の次、3の次です。この勉強会では一番大切な「Children First」という視点を決して忘れることなく、発起人として責任をもって議論を進めていきます。

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