2013.4.19
潜入!福島第一原発~発災2年目の被災地訪問記
山田太郎メルマガ 「ステーツマン(Statesman)の力」Vol.4 2013年4月17日
2013年3月7日から8日にかけて、東日本大震災2周年を目前に福島被災地
を参議院調査会団員として訪問へ。一団の日程は、福島第一原発、Jビレッジ
の視察をはじめ、広野町、楢葉町、いわき市とそれぞれの町長、市長と面談だ。
激怒する町長
「今頃、何しに来たんだ!」
広野町の町長は、我々、国会議員団への挨拶の冒頭から激怒。
「国は、震災復興について『やるやる』と言って何もしない」
「発災以来、もう2年たったのに一向に復興はすすまないではないか!」
広野町は、福島第一原発から約25Km。避難区域である20Kmのギリギリ外側
にあり、いまでも原発に最も近い町だ。
土を入れた黒い大きなビニール袋が町の至る所に置かれている。除染のため表
面を削った大量の土砂だ。これらは、港の方に集められているが飽和状態。そ
こで行き場を失った多量の除染された土砂があちらこちらに溜まってしまって
いる。
いくら「避難解除」をしても除染が進まなければ、町の復興は進まない。
「ここに帰還するのはまだまだ厳しいな」
参加する国会議員団から漏れる本音。
町は、発災前、5000人以上あった人口が、避難解除後、戻ってきた住民は1000
人以下。
老人達は戻っても、幼い子供を連れた夫婦や若い人達は、町への帰還をためら
うと言う。他の地域に避難した人達は、すでに新しい生活を始めている人も多
い。
「過疎」が進んでいた地域が、原発事故によってますます「過疎」が加速する。
被災した町は確かに厳しい状態だ。
「2年もたったのに復興は進んでいない」
町長の怒りの声は、町の住民の怒りの声だ。
基礎自治体の首長は、住民からの不満を一手に受け止めることにある。首長が
県にあげても、そこから先は動かない政府。町、市、県、政府。行政の縦割り
が復興を複雑なものにしている。
そこに呑気に国会議員が視察に来たということで…、怒りが爆発。
東電の管理する原発
「今日一日の被ばく量は56マイクロ・シーベルトです」
私が福島第一原発の視察で被ばくした総被ばく量。胸からずっと下げていた線
量計が「56」の冷たいデジタルの数字を示している。この被ばく線量は多いの
か少ないのか気にしていると、最後に告げられ、「レントゲン一回の被ばく量よ
り少ない数量です」と…。でも「大丈夫です。安心してください」とは言われ
ない。同じ場所を視察していても、同行した議員はそれぞれ被ばく量が違う。
70台の議員もいれば、40台の議員もいる。
視察が始まり、特急スーパーひたち号の終点、いわき駅で下車しバスに乗り換
えた国会議員団は、Jビレッジに到着。ここは、元々Jリーグのスタジアムを
「復興本社」と称して東京電力が福島第一原発対策用に借り上げている基地だ。
ここで、我々国会議員への「復興計画」への説明が始まる。と言っても、この
拠点の目標は、町や地域の「復興」ではない。福島第一原発の廃炉が目的だ。
国会議員への説明は淡々と進む。もう使われることのない、福島第一原発の設
備について、今更ながら詳しく説明される。
説明の後、線量計と被ばく防止のマスクと服を配布される。そして、その場で
東電の社員から身分証の提示を要求される。今回は、国会議員団としての国の
公的な視察だ。三権分立の原則や行政の問題を立法府が視察する建前だが、行
政の一機関でしかない警視庁が発行する運転免許証を国会議員の身分証として
確認するのには何か違和感を覚える。東電は経産省の傘の下にあれば怖いもの
なしだというのか?
考えてみれば、事故があった原発を東電社員や民間警備会社が警備しているの
もどうかしている。テロにあったら、原発はそのまま核兵器となってしまう。
やはり警察や自衛隊が管理する状態なのではないのか…。
潜入!福島第一原発
Jビレッジから1時間、いよいよ福島第一に到着。
「ここからは写真を撮らないでください」
東電社員の指示。何か、国会議員に見せたくない都合の悪いものでもあるのか
と穿ってしまう。
「東電社員」と「民間警備員」が守る門をくぐり、福島第一原発の敷地の中へ。
敷地の中には毎日400トンも吐き出されている汚染水のタンクがひしめき合っ
ている。汚染水タンク群の総容量は32.5万トン、現在量は27万トンなので、
あと130日ほどで満杯になると言う。
更に、中央免震棟に向かう。ここは、総勢1万5000人が廃炉に向けて作業を
している福島第一原発の本部機能の建物だ。
この免震棟に入るのに、靴のビニールとマスクをとり、体全体の微量に付着し
た汚染塵も特殊な装置で吹き飛ばす。そして、体全身の被ばく量を測定する装
置に入り、被ばく量をチェック。一定以上の被ばくをしていれば、この免震棟
に入ることはできない。どこの建物よりも被ばく量を気にして管理している。
それは、一般作業者は、一定の被ばくをして交代要員と入れ替えができても、
東電の幹部が汚染されれば、廃炉作業に向けての頭脳が足りなくなってしまう
からだ。命にも区別があるということか?
免震棟の中では、若い作業員が通路のあちらこちらに座り込み、弁当を食べた
り、横になったりしている。作業員は皆、相当疲労が溜まっている様に見える。
笑顔はない。皆若い作業員ばかりだ。
免震棟の中央には、発災時、何度もテレビでうつされた中央指令室があった。
東京の東電本社と経産省の指令室、Jビレッジ、福島第二原発の指令室とモニ
ターがつながっている。
この中央指令室では、真ん中の円卓を中心にぎっしりと人が座り、現在の原発
を映すモニターを見ながら、それぞれの作業をしている。机に並んでいるのは、
PCの山。ひたすらPCに向かって何らかのデスクワークをしている。それが
我々国会議員団には何だかわからなかった。
そして、いよいよ、この免震棟を出て爆発した原発建屋へ。
再び被ばく防止の服を着てバスに乗り込む。バスの先頭の席では、ガイガーカ
ウンターを持った東電職員が原発建屋に向けて線量を測っている。線量が異常
に高くなった場合は、直ちに避難する必要があるのだ。バスの中は異常な緊張
状態に包まれている。
「これが爆発した原発建屋か?」
4号炉から見学をする。使用済み核燃料棒がしまわれたプールがむき出しにな
っている爆発した建屋。外から蓋をするために作業が急ピッチで進められてい
る。
防毒マスクをつけて白い作業服を着た作業員の背中にはカタカナで名前が無造
作に書かれている。それが一層ただならぬ雰囲気を醸し出す。
津波が15メートル以上と想定以上に高く建屋に侵入。13メートルもの壁や高
台を超えて海水が原発の敷地に入ってきたのだ。原発敷地には、流された作業
車やトラックがそのまま放置されている。壊れたタンクや大きな高圧電線が根
本から折れ、2年前の発災の姿がそのままにある。廃炉への作業が精一杯で高
い放射能レベル下の建屋付近では、それ以外の作業をする余裕はない。
3号炉の横をバスが通過した瞬間、東電の社員が慌てだす。
「今日は非常に放射能レベルが高い状態です。急いで先に進みます」
最初は、国会議員団に何か見せたくないものがあるのかと穿ってみた。状況を
聞くと、風が強い日だったので線量の高い土埃が空中にまっていたという。こ
ういう日は、線量が非常に高くなるという。危険な状況だ。
爆発したままの、2号炉、1号炉の真横をバスで通り、再び免震棟に戻ってく
る。
「写真にとれないのだったら、この目にしっかり焼き付けておこう」こう思っ
ていたが、事故現場の視察はあっという間だった。
その場にとどまって、現場をじっくり見たいという気持ちと、長居をして被ば
くしたくないという気持ちと、バスに乗り合わせた国会議員団は皆、複雑な気
持ちだったに違いない。
こうして福島第一原発内部の視察は終わった。
復興前線都市、いわき市
「ここでは、語り尽くせない現場の問題が沢山あります」
その話を始めたのは、いわき市長。
35万人が住む、いわき市は、原発から最も近い市だ。この福島海岸通りの中核
都市のいわき市の発災からの復興が、まさに日本の復興の姿になる。
いわき市には、避難地域になっている様々な地域から人々が集まっている。そ
の中では、多くの問題を抱えている。例えば、被災して避難して来た住民と、
元来いわき市に住む住民とのいざこざだ。
避難地域から避難して来た住民には一定の生活保護費が国から支給されている。
いわき市でかかる病院の一定の費用が国から援助されている。数少ない、いわ
き市の病院が被災者の人も受け入れているために、市内の病院は、どこも満員
で診察には長蛇の列ができている。そこで、元々いわき市に住む地元住民が避
難者に対して不満を持っているということなのだ。
一方、被ばくを恐れた病院の医師や看護婦なども市から離れてしまっている人
も多いという。ますます、いわき市の病院の医師不足は深刻な状況なのだ。そ
して、この現状は市内の総合病院ばかりではない。特に深刻なのは歯科医師だ
という。
原発被災地の復興は遅々として進まない。そして更なる過疎の進行。
いわき市が、原発に最も近い福島県の海沿いの中核都市だ。だから、震災復興
の最前線の都市として周辺の町や村への影響は大きい。いわき市がいち早く経
済的に復興し、周辺の地域へも復興が波及していくこと、これが地域復興のカ
ギを握るのは間違いない。