2016.2.23
「良くやった齊藤栄熱海市長!財政危機宣言から市をV字回復」
先日(2月18日木)、熱海市の齋藤栄市長と会った。2年ぶりの再会だが、こうやって熱海市役所にある市長執務室に入るのは4年ぶりになる。市庁舎も耐震性工事を行い、すっかり新しい庁舎となっていた。そこで、30分の約束のはずが2時間以上も話し込んでしまった。
話した内容は、昔の思い出話(齋藤市長とは、彼が政治家になる前からの旧知の仲だ)。そして、彼からは、熱海市の財政危機からV字回復を果たした現場の話、ノウハウ、ポイントを直接聞いた。
熱海市と言えば、かつては、新婚旅行のメッカとして、また観光地として、大型ホテルが立ち並ぶにぎやかなまちだ。そんな熱海であるが齋藤市長が就任早々、平成18年に「財政危機宣言」(平成19年1月に「熱海市財政再建スタート宣言」と名称変更)を出す。いったいどのくらい市の財政は逼迫していたのか。
データを見れば、市長の就任時点で、熱海市の連結財政赤字比率は、30%を超えており、再建団体へのイエローカードと呼ばれる早期健全化基準の約18%を大きく上回っていた(連結実質赤字比率は、一般会計収入の標準額に対する、公営事業を含んだ全会計の赤字額の割合を示すもの)。まさに、市の財政はレッドカード。これは全国でも高い比率で、連結財政赤字比率は全国ワースト6位、彼の就任当時、財政再建は急を要する最重要課題であったと言う。
このただ事ではない財政問題に齊藤市長は、5年という期限を決めて「官民が一体となって熱海の再生に取り組もう」をスローガンに財政改革に全霊を注ぐ。
「何年もかけてしまっては、まちも職員も疲弊してしまう。だから、期限を区切ってどうしてもやり抜くことを決めた」と当時を語る彼(市長)の言葉は、その時の強い信念とリーダーシップがうかがえる。
しかし、本当に熱海市は財政再建ができたのであろうか。現在の状況を聞いた。
財政改革後、財政調整基金残高が5年間で17.4億円増加、一方で不良債務残高は5年間で約24.1億円減少した。これは、つまり5年間で見事に危機的状況を脱し、財政再建の目途がたち、熱海市はV字回復を果たしたと言えよう。
いったいどんな施策をしたのか。
齊藤市長が行った「行財政改革プラン」の柱は3つだ言う。
一つ目は、人口減少の熱海で相対的に肥大化していた市役所の人員整理を伴う人件費のカット。二つ目は、赤字の原因を無視し続けていた公共料金の見直しと遊休地の整理などのスリム化。そして三つ目は、合理性のない大型事業の凍結である。
人件費のカットは、市長自ら30%の給料カットと管理職の20%カットを行い、就任時に約41.9億円だった給与総額を、約32.4億円まで減らし、6年間で約23%の削減を実行した。更に採用の抑制や早期退職勧告などを通じて、職員の数も平成18年の634人から514人まで、約20%減らした。
公共料金の改定、スリム化は、平成20年以降、国保税の税率改定、市が所有する非効率な遊休地の売却、ごみ処理の有料化など。
そして、多額の税金が投入される市庁舎の建て替え工事や熱海駅舎改築計画及び交通バリアフリー計画事業などの大型事業の凍結を行ったと言う。
齊藤市長が難しい財政再建を成功させるために苦労した点は何だったのか。
市長就任直後すぐに取り掛からなければならない財政再建。しかし、財政再建の前に齊藤市長の就任時は、とてもやりづらい状況があったと言う。平成18年の熱海市長選挙で7,216票対7,154票と言う62票差で市長の席に就いため、反対派は、どうせ市長は1期だけ、齊藤市長は一時的だとして、話に対してなかなか耳を傾けてくれない状況だったという。
ところが、自分のなすべきことは財政改革と決まっていたため、どんな反対にも屈せず根気よく意思を貫いたと言う。
例えば、老朽化した市庁舎の建て替え問題。市庁舎の建て替え工事を凍結した時に、災害が起きたらどうやって市長は責任を取るのかと反対派から迫られた。しかし、すべての行政にかかわる財政再建の優先順位が高いと判断し、金がないものはないと貫き通すことは大変だったと当時を語る。
財政再建に目途が立った熱海市が地方創生をどう考えているのか話を伺った。彼は語る。
「熱海の梅園は、とても有名で皆さん周知され、今も昔も愛されています。しかし、その熱海が誇る梅園も、就任当初は、時代とともに荒廃していました。そのころ梅園は、無料で、『無料なんだから、荒れていても仕方ないです』と言った雰囲気です。私は、熱海市の誇る梅園は、やはり誇れる場所でなければならないと考えて、熱海、梅園を愛する方の協力を得て、梅園のリニューアルと有料化を実行しました」
有料化には、観光客が遠のくとの不安が寄せられたが、梅園の魅力を高めれば、新たなお客様が来てくれると信じて実行。その甲斐あって、梅園の来場者数は、平成27年度の有料期間中は20万人を超え、前年から5万8千人も増加した。
市長は、熱海市の地方創生には、熱海市しかない魅力を高める事業を積極的に行っていかなくてはならないと言う。齊藤市長の施策は、ある旅行会社の2015年の人気温泉地ランキングで、熱海が全国人気ランキング第一位を獲得していることからも結果が出ていると言えるだろう。
夕張に次ぐ財政再生団体となることを回避した熱海市。今回、彼(齊藤市長)から直接話を聞くと、ただ単にお金をかければ地方は活性化するというものではないと言うことが分かる。地域の大型事業は、一部の業者の利益、一時的な景気にはつながるかも知れない。しかし、本来必要なことは、箱モノを作って終わりではない。どう利用され活性化するかが重要だ。また、お金のかかる福祉の充実だけを行っていても破綻してしまう。必要なのは、地域の誇れるものを磨き、しっかりと稼ぐ、そして、その稼ぎを福祉に回すと言う、正に経営者の感覚だ。あまり知られていないが、彼(齋藤市長)は、国土交通省の役人出身ではあるが、その後、政治の世界に入るまで民間で経営の経験もある。
熱海市は、財政を立て直し、誇れるものを磨くことで観光客を増す。そして、稼いだお金で、今度は障がい者向けの療育事業を新規スタートするという。
私は、今回、久しぶりに齋藤市長に会って、多くの事を学んだ。これから国会でも始まる地方創生予算の審議に役に立てていきたい。