2013.3.13

製造業復活のためには”創造商社”が重要

○大田区の製造業

日本で製造業が集約している2大エリアと言えば、東の大田、西の東大阪が有名です。今回は大田区に焦点をあてて考えてみたいと思います。大田区の製造業を取り巻く環境というと事業所数や従業員数は1983年のピークから半分程度まで落ち込んでいます。事業所の8割が従業員者が10人未満でいわゆる町工場が多いのも特徴です。昔は日本IBMや三菱自動車、日本精工といった企業が大田区に工場をおいていました。しかしながら工場移転等で大田区から多くの大企業が出て行ってしまっているのが現状です。

昔は大企業を中心としたいわゆる産業ピラミッドを形成していました。大企業を中心にその下に各種中小企業がぶら下がるような構造です。その下で大田区の中小企業は単一の技術に特化し、特殊な技術を磨いてきたという歴史があります。しかしながら、大企業が去ってしまった今、昔のように「だまっていても受注ができる」という状態ではなくなっています。同時に高齢化や後継者不足といった問題に直面しています。

半数程度まで事業所や従業員者が減ってしまったということは、同時にそうした会社の持つ特殊な技術や雇用が失われてしまったということです。これらの問題に関しては企業の合併などの促進による事業継承や営業力強化、後継者の育成、みなし資本金制度などいくつかの施策を打ち出していくことを考えていますが、最も重要な点の一つである顧客価値の創出に当てて話を進めて行きたいと思います。

○顧客価値の創出

今までの大田区の中小企業は先ほど述べたように単一の技術に特化した企業が大半でした。例えば、ペットボトルを作る上では、ペットボトルのキャップの型を作る企業、その型を使って成形する企業、ラベルを作る企業といった形で分業をしていました。昔は、飲料メーカーが飲料を作るにあたってそれぞれの会社に対して、工程の指示をだしていましたので、中小企業メーカーはその通りに作っていれば良かったのです。

しかし、状況は変わってしまいました。大企業がいなくなったことで、誰かがその工程のとりまとめをしないと収集がつかなくなってしまったのです。さらには、飲料メーカーは商品企画もしていますから、その役割を誰かが果たさなければいけません。しかしながら、昔ながらの中小企業ではなかなかその役割を果たすことができません。企業共同体が様々な商品開発などをするケースもありますが、先に企業ありきだと、なかなか「平等に」収益を分配する商品企画をするのも難しいようです。

単一の技術しか持っていない企業の場合、付加価値を発揮しづらいこともあります。顧客から見たとき、ペットボトルはプラスチック製品である必要も無いし、ラベルも容器に直接印字されていてもカバーがかけてあっても構わないのです。最終顧客である消費者からすると「飲料をいつでも飲めて」「こぼれない」という機能さえ満たしていれば形態はなにであっても構わないのです。そこに、プラスチック成形できますよという技術を売り込んだところでなかなか付加価値を発揮しづらいというのは分かっていただけると思います。

○さかな体重計

今回、大田工業連合会の事務局長をされている淺野さんにお話をお伺いしてきました。淺野さんはご自身で”創造商社”である大田ゲートウエイを創られたということです。大企業が今まで担っていた「商品企画」「全体工程管理」「宣伝/販売」の機能を請負い、実際の「設計」の一部と「製造」は大田区それぞれの町工場に任せていくというスタイルを取っています。OEM/ODMの委託先を大田区の地場工場に任せるといったところでしょうか。

例えば、「さかな体重計」という商品があります。従来は波のある船の上で、魚を定貫量箱詰めするための秤は高価な電子天秤や、扱いに手間や体力のかかる竿秤(さおばかり)が中心でした。今回大田ゲートウェイさんで企画された秤は、安価でかつ、一人でも簡単に扱うことができるものです。企画や原理自体を思いついてしまえば、大田区の中小企業を何社かあつめれば試作→製品化するまでは大きな苦労はかからないと仰っていました。同じような商品でタチウオの曳き縄漁業を効率化する商品も開発されたとのことです。これも地元大田区の企業何社かの協力のもとにつくられたとのことです。

淺野さんによると、こういった商品は実際に現場に足を運び、ニーズをしっかりと掴むことができれば、大田区の製造業の力を持ってすれば形にするのは左程難しいことではないと仰っていました。実際に足を運んで現場のニーズを把握することで他にも商品開発を進めていらっしゃるそうです。いままでの中小製造業では、現場でエンドユーザーの視点に立ったり、最終製品を企画するということは、できていなかったのが実体だと思います。

○”創造商社”という考え方

ここで言いたいのは、大企業が抜けた後で、その部分を補完的に補う会社や組織があれば、大田区の中小企業は自分たちの付加価値を十分発揮できると言うことなのです。もちろん、大田区の中小企業の中には自分たちで販路を拡大したり、新製品を開発している会社も沢山あります。ただ、単独で「商品企画」「販売/宣伝」に力をかけることができない企業にとって、こういった”創造商社”はありがたい存在であることは間違いないです。

こういった、お金を投資することによって新たな産業の起爆となったり、既存の産業が大きく広がったりするような施策に対して予算をつけるように国に働きかけていきます。