2024.10.7

「ウクライナ避難民支援の今」ルーマニア・モルドバ視察報告③~ルーマニア編~

3日目はルーマニアの首都ブカレストを中心に視察をしました。

■セーブ・ザ・チルドレン(SC)ルーマニア事務所
 3日目の朝に訪問したのは、今回の視察をアレンジしてくださったセーブザチルドレン(以下、SC)のルーマニア事務所です。ここで、事前のブリーフィングを受けました。SCルーマニア事務所では、ウクライナ危機が起こるまでは国内事業として、1995年からアフガニスタン、シリアなどの移民のこどもを受け入れていたそうです。ウクライナ危機が起きてからは、教育、こどもの保護、メンタルヘルス、経済的な支援など、規模を拡大して複合的こどもと母親への支援を行っています。SCは、1919年に英国を発祥として設立された、100年の歴史をもつこども専門の国際NGOです。120か国で支援活動を続けています。

△SCルーマニアの本部。マネージャーのナヴィディアさんと。こどもたちのアクティビティの展示。天気に合せて自分の気持ちを表現する。

 2024年6月末で、ルーマニア政府からのウクライナからの避難民に対する住居支援等が打ち切られました。7月からは新たに避難してきた人だけが対象となっています。「ウクライナ避難民に対しての支援が、緊急支援というフェーズから、ルーマニアで新しくどのように生活を立て直し続けていくのかというフェーズに変わってきている」という現状を伺いました。

■セーブ・ザ・チルドレン(SC)カウンセリングハブおよびサマースクール
 次にSCルーマニア本部の目の前にある建物で行われているサマースクールを視察しました。9月から新学期が始まるため、夏休み期間にサマースクールを実施しており、16人のウクライナ避難民のこどもたちと、16人のルーマニア人のこどもたち(全体32人、2クラス)が通っています。9月から学校が始まる前にすでに友達がいるという状態をつくることで孤立化を避け、学校に通いやすくなることを目的としています。ルーマニア人の場合は利用にあたり、親の所得やシングルペアレントなどの基準を設けています。スタッフは、ルーマニア人とウクライナからの避難民で、高校生ボランティアもいました。活動はルーマニア語で行われています。

 SCのスタッフから「ウクライナから避難してきた直後はウクライナに戻ると思い、ルーマニア語を学ぶことを頑なに拒否していたこどもが複数いた。避難が長期化して今はウクライナに帰れないということを理解してルーマニア語を学ぶようになった」という現状を伺いました。

△日本から持参した折り紙やけん玉で遊び、とても盛り上がりました。サマースクールでは、給食も無料で用意されます。

 SCはブカレスト以外にも全土でこのサマースクールを実施しています。ルーマニア全土からこどもが集まるサマーキャンプやハイキングなども用意されており、参加費は無料です。
 次に本部1階にあるカウンセリングハブを視察しました。ここは、ソーシャルワーカー5人(うち1名はウクライナ避難民)、メディエーター、心理職の人が勤務し、相談にきた保護者に対して、現在の生活状況を聴きながら必要な支援をピックアップ、提供し、フォローアップしていく施設です。

△ソーシャルワーカーのオフィス。受付には多くの保護者たちが並んでいました。

△例えば、経済的支援が必要な家庭には、バウチャー(食べ物や生活必需品、スクールバックなどの学校用品を買うことができる券)を提供しています。3階では、保護者のためにルーマニア語のクラスが開催されており、みな真剣に受講していたのが印象的でした。

 UNHCRや政府も現金給付をしており、特的の人だけに支援が集中しないように確認しながら支援策を決定しています。ウクライナ避難民のこどもはルーマニア人のこどもと同様に医療費補助や障がい者手帳のようなものが支給され、ルーマニア人と同じような社会保障をうけることができます

 SCが6月に実施したこどもの声を聴くイベントで発言した子どもたちとの意見交換を実施しました。集まったウクライナ人のこどもたちの中で、5人はすでにルーマニアの学校に通っています。そんなこどもたちから「学校で外国人だからいじめられるのか?(※12-15歳ぐらいからいじめが学校でもある。国籍だけではなくて着ているものが違うといったことでもいじめの原因になり、ルーマニアではかなり問題になっている。インターネット上でのいじめもあるとのこと)」「いじめをどのように防止するか。メンタルヘルスや教育による支援の他に、助けることができる方法を知りたい」「他の文化を持つ人とどのように統合すると良いか」という具体的な意見や要望を聞きました。

△意見交換の様子。日本の漫画やアニメ好きの子が多く、好きな作品の話でも盛り上がりました。特に日本についてたくさん質問してくれた少年。

こどもたちに将来の夢も聞きました。
・健康で幸せに暮らしたい
・BMV車の8シリーズに乗りたい
・日本に行きたい
・家に帰りたい(Coming back to home=ウクライナ)
・本を出したい
・世界中のいろんな国に行きたい
・ヨーロッパで働きたい
・世界中のいろんな問題を解決したい

■セーブ・ザ・チルドレン 公立児童館にある学童保育の見学(第6区のこども宮殿)
 次に伺ったのは、公立児童館にある学童保育です。第6区にありこの区に在住するこどもたちが無料でできる施設です。アートクラス、ダンス・バレエができる部屋、動画の編集、スペイン語のクラス、空手、パペット演劇、カント(ギター、ピアノ)、チェス室、サッカー・テニス・バスケットボールができる屋根付きグラウンドなどがあり、1日に36コースのアクティビティを用意しているそうです。8:00〜20:00までオープンしており、利用者数は週に約3600人にも上るそうです。

 広々とした庭には、モバイルスクールと呼ばれる掲示板のような移動式のボード(※ノンフォーマル教育といって、計算、言語、記憶ゲーム等ができる)があり、こども達が学んでいました。

 スタッフの方に、この移動式のボードのメリットについて伺うと、「楽しみながら学ぶことが大事。知っていることが少しでもあると興味を持ちやすいため、ウクライナ語で書かれているところもある。移動式のこれを使うと、センターなどがない地方のコミュニティにもアプローチできる。」とおっしゃっていました。

 次に学童保育の隣にある、セーブ・ザ・チルドレンのデイケアセンター(学童)に伺いました。ここは、第6区子ども宮殿の敷地内にある倉庫を改築して建てられました。2024年4月からスタートし、朝8:00〜18:00で運営されています。普段登録しているのは、30〜40人(夏の間は20〜25人)で、6〜11才のウクライナ人で保護者が仕事を探している間や仕事をしている間、生活する場として学童にいます。

 ひとり親(※ウクライナから避難する時は母子で避難するケースが多い、父親は出国できない)でルーマニアに来た人が直面するのが求職問題です。父親がウクライナに残って送金をしてくれる家族もありますが、家庭により差が大きいのが現状です。ルーマニアで生きていくためには、住居費を支払わなければならないため(前述のとおり制度が変わって2024年7月から家賃支援がなくなりました)、まずは基礎的なルーマニア語を学び、その後仕事に就く必要があるのです。この支援がなければ、このウクライナのこどもたちは自宅で一人母の帰りを待っていなければなりません。家庭にとって欠かせない支援のひとつであると感じました。

 このデイケアセンターの運営費用は、100,000USD/年、職員は7名と最小限で運営されています。(先生(2名)、ソーシャルワーカー、メディエイター(2名)、ドライバー、心理ファシリテーター)。ウクライナ人の心理職員は、2022年11月にオデッサ→モルドバ→ルーマニアと移動してブカレストに定住している方でした。

 彼女に話を聞くと、「12歳の息子はルーマニアの小学校に通っている。2年前に来た時にはルーマニア語は全然知らなかったが、今はルーマニア語をだいぶ理解するようになって、学校に友達がたくさんいて、ゲームや漫画も楽しんでいる。私はウクライナに帰れないことを理解しているが、息子に帰りたい?と息子に聞いても、ここが楽しいと言ってくれる。」と教えてくれました。

△室内の写真。改築した時に、部屋を明るくあったかい雰囲気にしたそう。各部屋の壁紙が工夫されており、ジャングルの部屋では遊ぶ、学習の部屋では学びに集中など、緩急をつけることができる。世界地図と世界の動物が描かれている壁紙もあった。エントランスには常に職員が1人。待っている保護者やこどもたちもソファでゆったりできる。

 就学前のこどもたちのクラスと、小学校中学年までのクラスに混ざり、アクティビティの風景を視察したり、実際にこどもたちとも話をさせてもらいました。ウクライナ語の授業も、遊びを交えながら行われ、こどもたちも活発に参加していました。
 ここでも、日本のアニメが大人気。人気のアニメはナルト、呪術廻戦、ポケモン、鬼滅の刃でした。また、将来の夢を聞いたところ、サッカー選手が人気(その場にいた過半数)、その他ブロガー、ITスペシャリスト、タクシーの運転手などと答えてくれました。

■視察を終えて
 包括的な母と子の相談支援、アクティビティや語学クラスの提供など、個々のニーズに合わせて本当にきめ細やかな支援が行われていました。このようなホストコミュニティの受け入れ体制は、ウクライナ避難民の方々にとって、なくてはならない支援になっていました。しかし、寄附での運営も限界があり、翌年以降に運営が継続できるかも見通しがないそうです。次回のブログで、支援の在り方について日本が検討すべき今後の課題をまとめます。