2024.10.7

「ウクライナ避難民支援の今」ルーマニア・モルドバ視察報告④~ウクライナ国境編~

 

4日目はルーマニアとウクライナの国境付近、イサクチャを視察をしました。

■国境警備隊
 イサクチャの国境は開設されて4年ロシア侵攻の1年前から稼働していました。当初は人の往来ではなく、オデッサから商業貨物を運ぶことを目的として貨物用につくられた場所です。川幅800m先の対岸がウクライナで、車も乗せられるフェリーが行き来しており、オデッサーイサクチャーコンスタンツァを結ぶ拠点となっています。侵攻当初は数百人の方が、ウクライナからこの国境をわたり、ルーマニアに逃げてきました。

 国境警備隊の方に伺った内容は非常にセンシティブであるため文字でお伝えすることができませんが、国境のすぐ近くで支援活動をしているNGOの統合ハブの現状をお伝えします。

■統合ハブ(NGOによる支援)
 統合ハブは、ウクライナ侵攻の初日に国境付近に設立されました。ここは、初期の間、避難民がルーマニアに入国するための唯一の手段でした。SC、赤十字社、ルーマニア避難民評議会、IOMが中心となり、約11団体が行っており小さな団体やボランティアも入っていました。これまでの受益者は85,913人、そのうちこどもは30,934人に上ります。

 ここには、ルーマニアに入国した避難民が暖をとったり、衣服の提供をうけることができるブースがあります。「母子エリア」があり、乳幼児のためのベッドや必需品、シャワーが用意されているため、書類処理の間もこどもを持つ母親が安心できる避難場所でした。移動キッチンでの無料の温かい食事の支援も行っていました。

 避難民が庇護を求めた場合は、最大3日間滞在できる施設もありました。庇護を求めた人の累計は262人、緊急総局はバスを出し移動をサポートします。一時保護審査は、トウルチャの移民局で行われるため、国境では書類のチェックのみを行い、トゥルチャに送迎されます。人身売買などが生じないよう、緊急総局は未成年者を必ず保護していたそうです。

 赤十字社は去年10月に撤退し、今年の6月末以降は、セーブ・ザ・チルドレンとIOM(国際移住機関)の2団体がコンテナを残し、モニタリングするだけに留まっていました。コンテナ内には、現在でも、こどもたちの必需品や遊び場が用意されており、情報提供やカウンセリングサービスが提供できるようになっていました。ウクライナ危機が起きたときには、バスや徒歩で船に乗り込んで国境を渡ってきていたのが、今は、自家用車に乗ってくる人が多いため、こどもたちのスペースが不要になっています。

 避難民の入国にあたっては、2022年2月EUの出した緊急措置決定により、法的手続きは一次的な避難民の観点から行われました。指紋をとり、避難民に身分証明書を作成し、ルーマニアで生活できるような身分を与えています。このような例外的な措置も、政府の関係省庁、NGO、UHCR、IMOの協力が合わさり実現することができたというお話を伺いました。

5日目はルーマニアのトルチャの視察をしました。

■学校内の統合カウンセリング及びサービスセンター
 まず伺ったのは、ウクライナからの避難民のこどもたちと家族を支援するために2022年夏に設立されたセンターです。カウンセリング、心理的サポート、メディカルアクセスレポート、ニーズアセスメント、社会活動、補習教育、放課後プログラムを公立高校内で提供しています。無料の衛生用品(生理用品、歯磨き粉等)が揃えられています(当初は無料だったが、現在は算定に基づいて配布している)トゥルチャは小さな町ですが400人ほどのウクライナ避難民が生活しており、今センターの利用者は100世帯ほどです。自閉症の子や、メンタルヘルスの問題を抱えている子のケアもしています。

 2か月半ある学校の夏休み期間はサマーキャンプや少人数制でのルーマニア語のクラスを実施しています。今この地域でウクライナ人の支援をしているのは、SCだけになってしまいました。

 ブチャで3か月シェルターで過ごしたが限界がきて母と子で逃げて来た家族、バフムートやマウリポリでロシア軍占領地域から逃げてきた家族などが、悲惨な経験を経て、国境に近いこのエリアを選んで逃げてきていました

 現在のウクライナ避難民の課題は、母親の仕事と賃金です。ルーマニア語の壁があり、ホテル清掃、皿洗い、パン屋、塗装、荷物運送などの仕事しかなく、最低賃金は500-600€(日本円で8万~9.7万円ほど)です。物価や食品の高騰、すべてのサービスの値上げにより、生活が苦しくなっている現状を伺いました。 

こどもたちからもたくさんの意見や要望を伺いました。
・ここ(SC)に来ると友達と会って話せるので楽しい。ここで親友ができた。
・休日は散歩をしたり、絵を描いたり、編み物をしたりして楽しみ。
・以前は英語の授業があったが、今は中断している。また英語の授業を再開してほしい。ルーマニア人の子は英語ができる場合があるが、ウクライナ人の子は英語ができない場合が多い。⇒SCのスタッフによると、ウクライナ語、ルーマニア語、英語の3か国語をつなげて授業を試みるが、かなり難しい。
・遠足、芸術、プラスチックアートができるような環境が欲しい。
・課外活動で歌やダンスが出来る場所が欲しい。
・夏は暑くて校庭が週に1回しか使えないため、暑くてもスポーツ、バレーボール、バスケットボールができるような場所が欲しい。

■コンスタンツァ教育センター、ナヴォダリ教育センター
 2022年ジャパンプラットフォームの助成金をセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが受けて、12月から開始。ウクライナとルーマニアの学生からなる5つのクラスの子どもたちの放課後活動の支援に取り組んでいるセンターを視察しました。公立小学校で開催されており、ルーマニアのこども25人を含む185人のこどもたちを支援しています。補習教育、宿題の支援、放課後課題活動、ルーマニア語のコース、レクリエーション等多彩なプログラムを提供しています。教師、ソーシャルワーカー、現地コーディネーターなどからチームを編成されており、メンタルヘルスと心理社会的サポート、学校でのいじめ防止に重点を置いています。
 夏季期間は、屋外スポーツやサマーキャンプ、演劇や即興のワークショップ、音楽や歌のレッスンなど、ウクライナとルーマニアのこどもたちの交流を促すレクリエーションに力をいれているとのことで、当日は演劇やダンスを見せていただきました。クオリティの高さに大変感動しました。

 学校とも良好な連携関係が構築されており、9月から新しい校長先生に交代しても、継続して学校内で活動を続けられます。校長先生からも話を聞きましたが、地域の福祉局との連携も強いそうです。

 校長先生やスタッフの「放課後の活動は『学校』で行い、フィジカルに繋がることが重要。一般的に学校は13時に終了する。自治体が無料で提供するアフタースクールもあるが、地域でことなり必須で提供されるわけではない。提供される場合も15時まで。その後は民間の有料のアフタースクールがあるが17時まで。このような状況では、ウクライナからきた母親が仕事に従事したり、仕事を探すことは困難なため、このセンターでの放課後活動や夏休みの活動が非常に重要な役割を果たしている」という知見の蓄積は、日本にとっても非常に重要な示唆であると思います。

 コンスタンツァとナヴォダリでは、保護者と意見交換をさせていただき、切実で率直な意見を伺いました。(保護者35人ほど、うち男性8人)

○全体
・SCの予算が切れる9月以降の見通しに対する強い不安。今後も継続できるのか。いかにウクライナ避難人の自分たちがこのSCの活動に支えられたか、閉鎖されてしまうととても困る。とても重要なので、何とか続けてもらえないか。

○40代男性
 まず、日本からここまで来てくれたことに心から感謝したい。このような状況の人がいることを忘れないで欲しい。全ての支援が必要であり、まだ戦争は終わっていない。
 これからどのようにルーマニアの社会と融合していくかが課題。義務教育修了後の子はどうなるのか。高校生向けのプログラムを用意してもらいたい。

○70代女性
 孫がこのSCの学校にくることをとても嬉しがっている。セカンドホームのような存在。パンデミックの間もこのセンターに支えられた。

○40代女性(息子が誕生日当日)
 私にとってはセカンドホームではなく、ビックファミリーのような存在。今日も誕生日を祝ってもらえたり、コミュニティになっているルーマニアの現地校ではこのようなことは難しい。
 11歳と8歳の息子は言語の問題で友達をつくることにバリアがあった。2年間はコロナ禍でオンライン授業だったことも大きい。しかし、このコミュニティで社会性ができ、友達もできた。こどもの楽しい姿をみることが本当に嬉しい。このコミュニティは社会性にもとても役立っている。自分たちを取り残さないで欲しい。どんな支援も必要。
 国境を通り、イサクチャ、トゥルチャを通り、コンスタンツァに来た息子は故郷が安全ではないことを知っているため、すぐに戻りたいとは言わない。このサポートのおかげで2人ともルーマニア語のテストに合格したため、9月からルーマニアの学校に入学できることになった。

○40代男性
 ヘルソン(一度ロシア軍に占領された街)から妻と子どもと1時間で荷物をまとめて逃げて来た。こどもに障害があるため、医療が必要。言語の問題で書類手続きができず、ファミリードクターからは登録を拒否された母国と同じ治療が受けられずに困っている。予約の電話もルーマニア語なので、難しい。専門的なサポートが必要。(ルーマニアでこどもの障害が認定される必要があるため、SCが別途ソーシャルワーカーと相談の機会をつくることになった)

○40代男性
 戦争、コロナでこどもたちは社会とコンタクトをとりたくなくなったし、やり方も分からなかった。こどもたちにとってこの事業がとても必要なので、続けて欲しい。

○年配者(孫がSCに通っている)
 この会議自体が英語で進められており、理解できない。ちゃんと通訳を用意して全て訳してほしい。

○30代女性
 年配の人のアシスタントも必要。自分の母は逃げてきてうつになった。住宅支援も6月で終了した。リタイアした人の政府の支援がなにもない。

○40代女性
 2022年秋に逃げて来た。主人は最前線で戦っている。2人の息子は英語のインテンシブクラスに入っていたため、英語を理解できる。フルートとダンスが好きだったので、このSCの発表会で披露できた。このようなプログラムを提供してもらい、ありがとうと伝えたい。ここがなければ、こどもは宿題すらまともにできなかったこれまで私たちは多くのものを失った。私たちにやるべきことを与えてくれたみなさんに心から感謝し、感謝状を送りたい。今日出席できなかった保護者分の署名がなく申し訳ない。

○30代女性
 このSCにはとても助けられた。アクティビティはこどもたちにとってもとても重要なものになっている。

○30代女性
 あらゆる地域で人口が飽和しており、こどもの学校への入学が認められない。もちろん難しいことは承知しているが、本当は新たな学校を設立してほしい。また、宿題のサポートが必要。

○校長先生
 2008年からアフタースクールを開催しており、ウクライナ侵攻の前から、SCとの連携ができていたため、スムーズな運営ができている。

保護者の方にもいくつか質問をしました。
Q:最も重要だと考えるアクティビティ・プログラムは何か?
A:メンタルケア、ソーシャルアクティビティ(メロンパーティ、バブルショー)、キャンプ、教師とのコミュニケーション、エクスカージョョン、ルーマニア語のクラス(ここに来るまでは誰もルーマニア語ができなかった)

■ロマ族の問題
 ルーマニアにはロマ族も多く住んでおり、差別や貧困の問題も多く残っています。ロマ族はインドを発祥の地とし、6~7世紀から移動を始めたと言われています。奴隷としての500有余年と、ホロコーストによるジェノサイドにあい、ナチスはユダヤ人に対してと同様、ロマを迫害しました。ルーマニアには100~200万人のロマ族が居住していると推定され、EU加盟国の中では人口におけるロマ民族の割合が最も高いと言われています。

 ルーマニアのロマ族を取り巻く多くの問題として、とりわけ、教育、就職、住宅、結婚については深刻です。反ロマ感情による差別から「学校での差別により教育を受けられない」「家が借りられない」「就職できない」などで生活に困り犯罪率が増加、そして差別の悪循環へと陥っている現状でした。実際に80%のロマ族のこどもが学校をドロップアウトしていると伺いました。そして、女の子の場合は14~15歳で家族のアレンジにより結婚するそうです。

 そこで、SCでは、ロマ族のこどももウクライナのこどもと同様に、夏休みの期間に教育ギャップを埋めるプログラムを提供しています。セカンドチャンスプログラムといって、1年から4年までの内容を2年間で教えます。言語や算数など、より一般的なことにフォーカスするため、大人も対象としているそうです。

 このようにウクライナ避難民を受け入れるホストコミュニティも含めて支援することで、その地域に住んでいる人々の課題を一緒に解決することを試みていました。これは日本の難民支援においても非常に重要な視点です。

△ロマ族の自宅にも伺いました。

■視察のまとめと日本で検討すべき課題

課題①:避難民とルーマニア人の統合
 緊急的な受け入れのフェーズから、言語を知らない避難民とルーマニア人をどう統合していくか、ということが課題にもっとも大きな課題となっていました。日本で約2000人のウクライナ避難民や移民が言語の壁のために学校に入ることや支援サービスを受けることに苦労しているため共通的な課題だといえます。人道支援と開発支援の連携と、言語学習、教育、その他の基本的なニーズに対する統合支援サービスの提供の重要性を改めて感じました。

 言語の壁、支援体制の不足、学力評価の難しさにより、避難民のどもたちは知識やスキルに基づいた適切な学年に配置されるのではなく、クラスに「聴講生」として参加することが多くなります。結果として語学や学力が向上していかず生活にもなじめないという課題は、民間のNGOの支援だけに頼っていていい問題ではないはずです。

課題②:避難民の住居と社会的支援
 最近の財政的な制約により政府運営の宿泊施設が閉鎖され、多くの家族が代替の住居を探すか、ウクライナに戻ることを余儀なくされています。自治体が提供する社会住宅などの潜在的な解決策を探ることや、ウクライナ避難民が児童手当、障害者支援、産休手当などの社会保障にアクセスできるようにする必要があります。例えば幼稚園の給食費が月に約100ユーロかかり、教育は無料であるべきだとされているものの、これらの追加費用は低所得家庭、特に移民や避難民の家庭にとって大きな負担となっていました。

課題③:統合戦略の欠如
 避難民の支援においては教育、保健、社会福祉、財務など、さまざまな政府省庁が協力して包括的な統合戦略を策定する必要性があります。ルーマニアもウクライナ避難民の流入のような予期せぬ事態に対するリソースの割り当てにおける官僚的な課題と柔軟性の欠如を認識していました。また、言語学習、教育、雇用、医療などの側面をカバーするような全体的な政策の実施とサービスの提供を効果的に行うためには、異なる政府機関間の協力と調整が重要ですが、その戦略が欠如していました。

また、政権交代に影響されないように制度化も必要だという指摘はもっともでした。実際に、ルーマニアでは選挙後に新しい政党が権力を握ると、既存の経験豊富な校長がいても学校の指導体制が完全に入れ替わることが多く、教育の継続性が損なわれ、学校に困難をもたらしていました。

課題④:NGOへの依存
 政府の支援体制が不足しているため、移民や避難民の家族は、子育て、教育支援、その他の必須サービスにおいてNGOに大きく依存していました。セーブ・ザ・チルドレンのようなNGOが、言語クラス、アフタースクールプログラム、心理カウンセリング、その他の支援を提供し、政府が提供できないギャップを埋めています

課題⑤:長期的な支援の欠如
 最後に、移民や避難民の家族に対する長期的な支援の必要性です。統合プロセスには数年を要することがあり、ドナーや政府からの短期的な資金提供サイクルでは、効果的な長期支援プログラムの計画と実施が難しい状況です。長期的な支援で、移民や避難民の家族が交流し、サービスにアクセスし、支援を受けることができるコミュニティセンターを継続することが重要です。このようなセンターは、多くの移民家族が直面する孤立や社会的つながりの欠如に対処するのに役立っていました。セーブ・ザ・チルドレン ルーマニアはウクライナ避難民支援にあたり、現在はどの国の政府からも支援を受けていないということです。このプロジェクトが終わることへの恐怖を、避難民の方から直接伺い、長期的な予算の枠組みでの支援がいかに大切か痛感しました。

■日本で検討すべきこと
 避難民や人道支援のための教育支援、言語学習プログラム、医療サービス、住宅支援を含む総合的なコミュニティ支援のために、数年単位の長期的な資金と支援プログラムを検討していきたいと考えます。また、日本においても避難民や移民の流入のような予期せぬ事態に対処するため、「避難民」の考え方を整理し、予算の柔軟性と対応力を平時から強化する必要があります。すぐには改善できる簡単な問題ではありませんが、現場でみた課題をひとつでも解決できるよう、関係者とともにしっかりと議論を前に進めていきます。