2026.5.26
施設から家庭へ ― LUMOS財団との対話から考える日本の社会的養護の未来
2026年5月20日、超党派の児童養護議連にてイギリスのLUMOS財団の方々からお話を伺うとともに、日本の児童養護システムについて検討しました。本稿では、現在の日本の実態と海外での成功事例を踏まえて、こどもが安心できる場所で成長することを実現していくにはどうすればよいのか、社会的養護の在り方について考えていきます。
■日本の社会的養護の実態
はじめに、日本では様々な事情で親と暮らすことができないこどもが約4万2千人います。その中で、約3万2千人が児童養護施設や乳児院で暮らしており、里親家庭で暮らしている子どもたちは約1万人です。これはOECD諸国の中で最低の水準となっています。日本の里親家庭の数は、まだまだ不足しています。こどもが成長する中で信頼できる大人との愛着形成が最重要であることは言うまでもありません。施設がこどもにとって家庭に代わる生活の場としての役割を担っていることは事実ですが、施設入所の長期化や乳児院での措置は、できる限り解決していくべき課題です。

出典:こども家庭庁「令和8年度3月 こども家庭庁支援局家庭福祉課 社会的養育の推進に向けて」
■LUMOS財団の概要
LUMOS(ルーモス)財団は、2005年に「ハリー・ポッター」の著書としても有名なJ.K.ローリング氏によって創設された国際NGOです。世界中のこどもたちが安全で愛情あふれる家庭で育つことができるような社会の実現を目指して活動しているイギリスの団体です。2016年には私も現地を訪問しましたが、さらにアップデートされており、感銘を受けました。
主な活動内容としては、
- 児童養護施設ではなく、家庭的な環境でこどもが養育できるように支援
- 具体的には、既存の施設を家庭支援や地域ケアの拠点に変革
- 実親と暮らせないこどもに対して、安全な里親家庭や養子縁組を紹介
- 施設を出た若者が社会で孤独感や孤立感を抱かずに、自立して生きられるようにスキル訓練の実施
- 貧困や障がいなどの事情でこどもが親と引き離される事態を防止し、家庭がこどもを育てられるように支援の幅を拡張
- 食料や住居、医療などを提供することで、経済的理由による家族の解体を防止
- リハビリやデイサービスなどの体制を整え、障がいのあるこどもとその家庭が地域社会から孤立することを防止
- 根本的な解決に向けて、国家レベルの児童福祉システムそのものを変革するための働きかけ
- 孤児院の建設や運営に使われている国の予算を、家庭支援や里親制度の仲介をする際の予算へとシフトすることの提言
- ソーシャルワーカーやケアスタッフを配置し、家庭ベースの支援に必要なスキル教育
団体が設立されてから20年以上の歴史の中で、約28万人の世界中のこどもが施設ではなく家庭で育つ環境を得られています。各国政府をはじめとする主要なステークホルダーと連携しながら、児童養護システムそのものの変革に取り組んできたことが大きく寄与しています。
■こどもが最も健やかに成長する場所は家庭の中
家庭養育原則がこどもにとって良いことを裏付けるデータが存在します。

出典:LUMOS財団(当日講演資料)
上記グラフは136か国を対象に統計をとり、国際専門誌にも掲載されたものです。家庭で育ったこどもと施設で育ったこどもの成長度合いや認知機能などを比較したものになります。ここから分かることは、どんなに良い施設で育ったこどもよりも家庭内で育ったこどものほうが健康やメンタルヘルスなど様々な観点で数値が上回っているということです。こどもたちが今後社会で生きていくうえで必要な、安定した人間関係や情緒的な愛着、そして発達のための支援は家庭という場所が最も優れているということです。
■他国の事例によって養護施設への依存を減らすことは可能
LUMOS財団の方から、施設入所の依存を減らすことは可能であるとの意見がありました。他国はどのようにして実現したのか。それは、以下の2つのポイントが重要であると伺いました。
- 強力な政府のリーダーシップ
- 政府が行っている資金投資の重点を施設から家庭や地域密着型のサービスへシフト
- 明確な政策の方向性
- 各国でLUMOS財団が支援してきたシステム変革の体系的な枠組みは以下

出典:LUMOS財団(当日講演資料)
この枠組みの中で最も重要なのは中央に記されているこどもを含む当事者がこのプロセスに参画していることです。これによってニーズに応じたシステム形成が保たれ、断片化されない持続可能な改革が可能になるそうです。
■日本と他国の比較~コロンビア~
コロンビアの児童養護システムは日本と似ているといわれます。その理由は主に2つで
- 施設入所の主な理由が家庭内暴力や育児放棄などであること
- 家庭内の問題については都道府県ごとのソーシャルワーカーによって意思決定がなされている現状。当事者を含む意思決定の段階に政府が投資を行っていくことが必要である。
- ほとんどの児童養護ケアの提供者が民間であること
- 運営や組織の運用などに加えて、家庭を支援し、再統合を促すような措置や予防措置を考えていく必要性がある。
しかしコロンビアは、5年前まで施設入所率が75%であったのにも関わらず、今は50%以上のこどもたちがファミリーベースの家庭養育を受けているという点で日本よりも急速に変化が広がっています。コロンビアから学ぶことができることは、
- 家族(主に両親)に対する子育てに関する意思決定のトレーニングを実施し、家庭の仲介役にソーシャルワーカーがいることで、家庭に対する支援の充実化を図ったこと。
- こどもの養護に関する国のガイドラインを作成することで、施設入所するか否か厳格に判断し、こどもの保護制度を強化したこと。
- 既存の民間施設に対して家庭の再統合を支援し、家族の分裂を予防する施設に変革させていること。
- 以上の変革を支援する資金を援助すること。
これらの取り組みによって施設入所の依存を減らすとともに、こども一人一人に合わせた成長場所の提供が実現しつつあるということです。日本と児童養護システムが似ていることから、日本のシステムに還元できることを模索できると考えています。
■まとめ
LUMOS財団の方をはじめ、各国には、先進的な取り組みが沢山あります。日本のようなシステムから、真の家庭養護原則への変革を成し遂げた国の事例を伺い、「強力な政府のリーダーシップ(政府が行っている資金投資の重点を施設から家庭や地域密着型のサービスへシフトする)」、「明確な家庭養育原則に基づく政策の方向性」を示すことが非常に重要であると再確認しました。諸外国の事例を参考に、日本型の変革の方法を議論・決断していきます。





