2023.1.18
イギリス(こども・若者関係)こどもコミッショナー編
■コミッショナーとは、こどもの権利を保護する代理人
イギリスでは、まずイングランドのコミッショナーご本人レイチェル・デ・ソウザ氏にお会いしました。コミッショナーとは、自国の子どもの権利を促進し保護する人のことです。制度の内容は各国で若干異なりますが、世界70か国以上で設置されている制度です。以下が、主な国での制度の比較です。
■政策の背景
先の通常国会で成立したこども基本法制定時には、コミッショナーが議題としてはあがっていましたが、法案に明文化されることはありませんでした。私は、国内でコミッショナーに精通する議員がおらず、制度の効果と課題を深堀できていないことも大きな原因ではないかと思います。私はこれまで、スコットランドのコミッショナーとは数回オンラインで意見交換をしました。今回、スコットランドとは異なるシステムを持ち、より多くの人口をカバーするイングランドコミッショナーから実態を学び、日本への導入を検討するために、面会を依頼しました。
■視察を終えて
当日は2時間近く深い議論を行ったため、制度の差異や効果についても深く理解することができました。詳細は後述しますが、まず大きな示唆があった結論は以下です。
・スコットランドとは異なり、個別ケースは課題把握のために行い、個別の権利救済は実施しない。実施主体はあくまで地方自治体・政府
・コミッショナーの役割はこどもの権利擁護だけでは不十分。マスコミと政府にこどものことを前面に出していくことや政治的交渉力が求められる。
・コミッショナーから他省庁や自治体へ情報開示をさせる権限は有効(直近の事例:警察がこどもを裸にして調査したケース数、里親に預けられていて学校に行っていないこども数、ケント州の亡命収容施設でのこどもの実態把握等)
・コロナ禍のこどものアンケート調査を実施。55万人のこどもが回答し、政府の重要政策方針に大きく反映された(151地方自治体で最低3%のレスポンス、特別教育が必要なこども9万4千、保護観察6千人含む)PRの成功がポイント
・「日本では、困難を抱える子どもの問題をいち早く解決することが重要。研究しているだけではなく、議会が何人の子どもと話したのか。そこから何が必要かを見定めることが必要」との助言
■コミッショナー創設の契機
コミッショナー制度について、詳しく説明していきます。イングランドでは2004年の児童法に基づき、コミッショナーが設置されました。2000年に起きた8歳児の虐待死事件の検証を契機とした調査で、創設が提言されたことが直接の背景です。その虐待死事件とは、児童虐待の兆候を自治体が掴んでいたにも関わらず基本的なソーシャルワークの実践が行われなかった、実践を支える構造や組織など「広範な組織の機能不全」が問題の根本的原因とされています。
歴代の子どもコミッショナーは、さまざまなバックグラウンドを持った人が任命されています。小児内分泌学の研究者や教育・児童福祉行政、慈善団体出身者です。第4代目(現任)のレイチェル・デ・ソウザ氏は、元教師で教育法人のCEO、教師教育を実践している非営利団体の役員を務められていました。
■コミッショナーの活動は”調査・助言・喚起・監視“
自民党内の議論では、「コミッショナーを創設すると、国がNPOやNGOに乗っ取られる」「こどもがワガママになる」との意見もでました。しかし、コミッショナーにそこまで強い権限はありませんし、こどもがワガママになっている実態もありません。
法的位置づけとして、「主な役割」は、「イングランドの子どもの権利を促進し保護すること(子どもの意見や利益の認知促進も含む)」ことです。「役割を発揮するための活動内容」としては、主に以下です。
- 児童に影響を与える機能を行使する者又は活動に従事する者に対し、児童の権利に適合するように行動する方法について助言すること。
- そのような人物に、子どもの意見や利益を考慮するよう奨励すること。
- 外務大臣に、児童の権利、意見及び利益について助言すること。
- 政府の政策提案及び立法提案が児童の権利に及ぼす潜在的影響を検討すること。
- 国会の議院において注意喚起を行うこと。
- 児童に関する限りにおいて、苦情処理手続の利用可能性と有効性を調査すること。
- アドボカシーサービスの利用可能性と有効性を調査すること。
- 児童の権利又は利益に関するその他の事項を調査すること。
- 児童の権利に関する国連条約のイングランドにおける履行を監視すること。
- 本節に基づき検討または調査された事項に関する報告書を公表すること。
つまり、こどもの権利を促進するために、調査、検討をして国会に助言をし、それを国民に公開することが主な活動です。
■コミッショナーの権限はどれくらい強いのか?
コミッショナーの法定機能をみてみても、調査機能、勧告・提言機能が主な機能です。個別救済機能はイングランドにはありません。(スコットランドにはあります)
■予算と人は意外に小規模
組織や予算も存外小規模で驚きました。年間予算は 2,500 千ポンド(日本円で約4億円)前後、予算の約 80% がオフィススタッフの人件費です。
今回、日本でも是非取り入れるべきだと思ったことは、コロナ禍での子ども達の意見収集です。子どもコミッショナーは、2021年に英国全域の子どもたちを対象とした大規模調査The Big Askを行いました。2021年5月からの約6週間で55万人超が回答し、151ある地方自治体すべての地区で最低3%のレスポンス、そして1日2万人のアクセスを得ています。特別教育が必要なこども9万4千と保護観察下のこども6千人も調査に参加しています。
インターネットにアクセス可能な子ども(4~17歳)を対象とし、パンデミックによる自分たちの生活の変化、将来に望むこととその障害、家庭での様子、家族関係の改善方策、居住地域の環境やコミュニティの改善方策や未来や世界が直面している課題について感じることなどについて調査を行いました。また、社会的養護、家庭教育、乳幼児期・就学前や特別な教育的ニーズのある子どもたちには、インタビューで調査を行ないました。その後、調査で得た子どもの声を踏まえ、ロックダウン解除後の具体的政策提案を提示しています。
これらの視察を生かし、今後の国内でのコミッショナーの創設やこどもの意見収集&反映についての議論をけん引していきたいと考えています。