2023.2.15

フランスの産前産後ケア政策(仏連帯保健省1000日プラン)

2022年11月18日、フランス連帯保健省と産前産後ケアについてオンラインにて、意見交換を実施いたしました。(もともと9月の欧州視察で現地で意見交換を予定していましたが、延期となり帰国後のオンライン会議に変更し実施しました。)

フランス政府が行う「はじめの1000日プラン」は、両親と子どもたちの幸福、そして精神衛生に関するプログラムです。フランスのみならず、欧米諸国などでも行われています。2019年よりプログラムが始動し、2021年から実際に国の方針として実行されました。今後は、政策として立案していく予定だそうです。

本プログラムは幼児期の発達に視野を定めた上で、人口に基づいたアプローチをとっています。子どものニーズを分析し、医療から教育、親のニーズからスポーツや文化まで幅広い公共政策に基づき構築された、エビデンスに基づくプログラムとなっています。また、本プログラムは国レベル、そして地域レベルで取り組んでおり、より合理的かつ効率的で有意義なものにしていました。

写真)「はじめの1000日間」は神経精神医学者を座長とする精神医学・周産期医学・小児医学・心理学・教育学・保育学など専門家18人のチームで作成された(出典:公式サイトsolidarites-sante.gouv.fr)

■意見交換を終えて

フランスでは、妊娠中から出産までの女性の心身の状態が、その後の親子関係や子どもたちにとって、非常に重要であると認められており、「子どもが生まれる時の環境の改善」に重点が置かれています

日本では、妊婦の死因の1位が自殺という状況です。10-15%の人は産後うつにもなるとも言われています。こどもが生まれるときの母親や家庭環境はこども達の幸福度に直結する問題なのです。日本においても、フランスのように産前産後の政策に力を入れていく重要性を改めて実感しました。

また、「はじめの1000日プラン」では、こどもの発達障害についても取り組んでいくという話がありましたが、私は日本においてもこどもの発達障害について行政や政治が真剣に向き合い取り組んでいくべきだと考えています。

特に、発達障害の子への早い時期での適切な診断と対応は重要です。早期発見と、早い段階での母親をはじめとした親へのサポート体制について、進めていきたいと思います。

========

■意見交換の内容

まず、「はじめの1000日プラン」についてプレゼンテーションをしてもらいました。

「はじめの1000日プラン」には、主に4つの方針があります。

  1. 親たちにシンプルかつアクセスのしやすいツールを紹介

「はじめの1000日プラン」の認知度をあげ、専門的なサービスにアクセスができるということを親たちに知ってもらう必要があります。そのため、国レベルでのウェブサイトとモバイルアプリを作成し、親たちのニーズに答えられるようにしています。

  1. 親たちを継続的に適切にサポート

親たちの精神的な問題などをサポートし、必要な場合はカウンセリングなども提供しています。 

  1. 親たちのために時間を提供

親たちが新生児と過ごすための時間をつくるために、男性の育児休暇を2倍にするなど様々なことに取り組んでいます。また、保育園も早い時期から預かれるようにするなどしています。

  1. 初等教育の専門家に携わってもらう

より適切に親たちの抱える問題を解決するためには、専門家に携わってもらうことが必要不可欠であると考えています。

また、5つのメンタルヘルスのための行動を設けています。

  1. コミュニケーション

これから親になる人、もしくはすでに親である人たちに向けてメンタルヘルスに関して認知してもらう必要があります。妊娠した段階で、必要な情報やツールの入ったバックを渡しています。その中にメンタルヘルスに関する情報も含めるようにしています。

  1. 親たちへのサポート

妊娠の初期の段階からカウンセリングなどを設けることで、今後リスクになりうることなども早期段階からサポートしていきます。産後4〜6週間後にもカウンセリングを設け、産後の母親の気分の落ち込みなどに対処できるようにサポートしています。「はじめの1000日プラン」のアプリでは、自らオンラインで受けることのできるテストを提供しており、親たちが自らの精神的健康を確認し専門家のサポートを受けることができます。また、親たちのためのヘルプラインも存在しています。

  1. 親たちの心理面での早期サポート

産院だけではなく、自宅でも精神的健康を確認できるようにモバイルアプリを作成しました。親たちは、無料の心理相談を民間心理学担当の人に相談ができ、国の自殺防止ホットラインに24時間いつでも連絡をとることができます。

  1. 雇用主への認知度

雇用主が、子育てをする親の親としての仕事と会社での仕事とのバランスを取れるようにする必要があります。そのためにも、雇用主に対して「はじめの1000日プラン」について知ってもらわなくてはなりません。幅広いグループの人々が対象になっており、子育てをする親たちがより過ごしやすい環境を作っていかなくてはなりません。また、親同士で仲間意識がもてるグループをつくるのに支援しています。国際的文献でも仲間意識の重要性が証明されています。

  1. 明日に向けての活動

将来の子たちの発育の部分に向けての取り組みです。

この「はじめての1000日プラン」について、詳しく質問をしていきました。

質問1:

日本でも子どもに関する様々なサービスが存在していますが、どこに申請するべきなのか明確になっていないことが多く分かりづらい仕組みになってしまっています。「はじめの1000日プラン」でも申請しやすいようにデジタル化という動きはあるのでしょうか?また、両親がまとめて情報を確認できるシステムなどはあるのでしょうか?

回答:

現在、フランスでも「はじめの1000日プラン」をモバイルアプリ化しようという動きがあります。アプリを通して、両親たちがアクセス可能な全てのサービスを確認できるようにしようとしています。しかし、現実的に子どもに関するサービスや情報には医療や保育など様々な部局が関連しており、1つに連携するのが難しい状況です。フランスにもカルネ・ド・サンテと呼ばれる日本の母子手帳のようなものがあり、1冊は両親用、そしてもう1冊は子ども用として渡されます。こちらも電子化する動きがあり、両親たちがより専門家と繋がりやすい環境をつくりたいと考えています。

質問2:

子どもたちにも、障がいがあったり、病弱であったり、人それぞれ事情が違うことがあります。そういった場合、親たちから子どもの事情にあったサービスの有無に関しての問い合わせを待つべきなのか、それとも常に同じ担当者が1つの家庭を長期に渡って担当し各家庭に寄り添って対応していくべきなのか。フランスではどのように行っていますか?

回答:

これについては、大変難しい問題であると考えています。現在、フランスでは様々な機関やサービスが使える状況にはあるのですが、両親たちから認知されておらず、また専門家の方にも知られていない状況です。そのため、「はじめの1000日プラン」では、まず人々に認知してもらうというのが最初のステップであると考えています。また、まだサービスが十分でないという点も踏まえ、現在試験的に1人の担当者が妊娠中から子どもが産まれて1年目まで長期的に両親たちに寄り添うといった方法もとっています。担当者は必ずしも医療従事者という訳ではなく、社会福祉に関連している人でもなることができます。そういった知識のある方が両親に寄り添い、話しを聞きアドバイスなどをすることで地域のサービスなどを教えることができると考えています。現在、4つの地域で試験的に行なっており結果を待っている状況にあります。

質問3:

「はじめの1000日プラン」を始めてから、特にどこに効果がありましたか?

回答:

現段階で、「はじめの1000日プラン」によるはっきりとした効果を求めるのは難しく、まだ効果を求めるには早いと考えています。しかし、今回の産前・産後ケアプログラムはグローバルな戦略であり、特にメンタルヘルス・発達障害に注力においていきたいと考えています。

関連記事