2021.12.10
「こども成長見守りシステム」箕面市の先進事例に学ぶ
写真)左:共同事務局を務める自見はなこ参議院議員、右:私(山田太郎)
11月26日、私(山田太郎)が事務局を務める第26回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。
今回は箕面市教育委員会事務局 子ども未来創造局 子育て支援室 松澤ひとみさんより「こども成長見守りシステム」についてご紹介をいただきました。
現在、デジタル大臣政務官を務めておりますが、私が実務責任者として内閣府・文科省・厚労省をはじめとした各府省庁において、子どもの情報連携のプロジェクトを、まさにキックオフをしたところです。岸田総理の直接指示によりデジタル庁が中心となって、各省、副大臣級会合が中心となり進められています。
こちらのプロジェクトでも箕面市さんの仕組みが大変注目を浴びています。今後、大きなモデルとして参考にさせていただきたい素晴らしい取り組みだと思っております。
「貧困の連鎖」を断ち切るために
大阪府箕面市は人口13万8千人、うち0〜18歳は約2万7千人、小中学校は20校あります。
箕面市では「貧困の連鎖を断ち切ること」が課題であると捉えスタートしています。「子どもの貧困」は、すなわち「家庭の貧困」です。 偶発的に発生する「家庭の貧困」には、その時々の福祉的手当で手を差し伸べるしかありません。 しかしながら、貧困家庭に育った子どもが大人になり、再び貧困家庭を形成してしまう 「貧困の連鎖」が確実に存在します。
現在の対処療法的なアプローチでは「貧困の連鎖」を解消することはできません。 継続的な取り組みによって「貧困の連鎖」を断ち切り、社会から「子どもの貧困」の総量を 減らしていくことが重要です。
しかし、これまでの取り組みは、「せめて授業についてこられるように最低限の手当をする」というものだったそうです。これだけでは、貧困の連鎖を根絶するには不十分だということになり、むしろ普通よりも高いレベルで、子どもの自信と能力、そして気概を持たせて、社会へ送り出すことに力点を置くようになりました。一時的・場当たり的で、目に見えて問題がある子どもだけを対象とした最低限の支援であった取り組みを、環境因子を持つすべての子どもを切れ目なくずっと見届け、「高いレベル」に押し上げるようなアファーマティブアクションをとっていくことが重要だと言います。
教育と福祉の融合
箕面市では、大きな組織改編を3度実施し、「子どもに関することはすべて教育委員会で」と子ども関連の施策を教育委員会に一元化しています。
市長部局と教育委員会に分かれていた子ども関連の事業を教育委員会に集めたことにより、これまで断絶していた教育と福祉の世界が「子ども」をキーに融合し、子育て支援と母子保健の融合が進んでいます。「就学前の子ども」を一元化し、幼稚園・保育所・在宅保育すべての0〜5歳児を教育委員会で一言的に見る体制を整えています。
地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策について、首長と教育委員会が十分な意思疎通を図り、その目標や施策の根本となる方針として首長が定める「教育大綱」において、箕面市では初年度から「貧困の連鎖の根絶」を位置づけており、組織としての重点事項であることを明確化されました。
「こども成長見守りシステム」の成り立ち
平成28年度の機構改革に合わせて、教育委員会の子育て担当部門に新たに「子ども成長見守り室」を置きました。
「子ども」をキーに市役所内に分散している情報を集約するハブとして機能するとともに、それらの情報を自ら定点観測し、支援の必要な子を見つけ、あるいは支援している子の変化を大人になるまで追い続け、随時、必要な指示を庁内に出すコントロールタワーです。
こども成長見守り室を置いたことにより、これまでになかった新たな情報共有の場ができるとともに、“場”以外でも情報のやり取りの頻度が上がり、情報の共有と対応の連携が進んでいます。
小中学校全20校それぞれと年2回ずつシステムの情報更新と「見守りシステム活用会議」を実施し、子どもの状況のフィードバックを行なっています。そのほかにも随時学校からの情報共有・支援状況確認などの連絡に対応しています。関係課室・外部の関係機関ともケース会議を行ないながら、それぞれの組織のハブ機能を持つ機関となっていります。
これまでの箕面市では、子どもの情報も、子どもの家庭に関する情報も、各学校や行政の様々な部署に散在していました。行政のさまざまなセクションでは家庭の困窮は推定できるが子どもの状況が見えない情報を持っています。一方で、学校では子どもの状況は見えるが根本にある貧困が見えない情報を持っています。
「こども成長見守りシステム」を構築することで、支援が必要な子ども、支援を受けている子どもの状況、そして支援を受けている子どもの経年変化を見ていくことができているそうです。
上記の内容がグラフ化され、絶対値のみならず変化値も捉えて子どもたちの経年変化を見守っています。
「こども成長見守りシステム」の判定と実際
子ども成長見守りシステムでは、「生活困窮判定」「学力判定」「非認知能力等判定」の3つの要素で判定した上で、それら3つの要素を掛け合わせて、「子どもの状態の総合判定」を行います。判定は、定例で年2回行うとともに、必要に応じて随時、個別に判定を行う場合もあります。
2018年後半の判定では、0~18歳の子どものうち、4,774人が見守り・支援の対象としてリストアップされ、そのうち小中学生は2,089人でした。小中学生の「判定I(重点支援)」は462人で、このうち116人(25%)は、学校などで見守りなどの対象 として認識されておらず、いわば “ノーマーク” の状態でした。
例えば、学校では比較的「低学力」であるとの認識はあるが、目立つことなく、気になるところも特にない、「おとなしい子ども」という印象で特に見守りが必要だという認識はなかった子どもについて、こども成長見守りシステムでは「学力偏差値」、非認知能力のうち「充実感と向上心」「成功体験と自信」などの数値が乱高下しており、実は学力や気持ちが不安定な状態であることがわかりました。
子ども成長見守り室を置いたことにより、これまでなら出来なかったことが出来るようになった例や、現場での “小さな気づき”の情報が入ったり、見過ごされていた支援が必要な子どもをシステムで客観的に見つけることができたケースの一例です。
乳幼児の情報を組織的に引継ぐことができるようになったほか、子どもの状況をデータで示すことで誰が見ても客観的に見ることができるようになりました。
また、子ども成長見守りシステムで、「公的手続きが苦手で申請できていなかった」世帯を見つけ出し、 子ども成長見守り室で必要な申請を支援することもできるようになりました。
子ども成長見守りシステムでの、子どもの状態の総合判定によって「重点支援」の対象と判定された児童生徒のリストを学校に提供して支援状況を確認したところ、そのうちの25%の子どもが「見守りの対象ですらなかった」ことが判明するなど、支援・見守りの抜け、漏れを発見するためにも有効であるということが明らかとなりました。
「こども成長見守りシステム」の前提となる条例、取り組み
かつての箕面市では、市役所の中に個人に関する情報が分散して存在しており、市長部局と教育委員会の間で、あるいは、同じ教育委員会内でも課室をまたがるだけで、それらの情報は厳重に秘匿され、利用されない状態でした。 そこには、個人情報保護条例による「実施機関のカベ」と、「収集目的のカベ」の2つのカベがあったからです。
そこで箕面市では、「人の心身、生活の保護または支援を目的とした個人情報の収集の目的利用や外部提供」について、条例に基づき適切な情報連携ができるよう、平成27年度に箕面市個人情報保護制度運営審査会に諮問して、条例の解釈か条例改正かのいずれが適切か議論し、その結果、条例を改正しました。
また箕面市では、平成24年度から、小学1年生~中学3年生まで 全9学年で、毎年、子どもたち一人ひとりの状況を、全方面(学力・体力・生活)について調査・把握する「箕面市ステップアップ調査」を実施しています。
この調査があるからこそ、支援の効果を「学力」や「生活状況」の定量的な“変化”で客観的に測ることが可能になります。
ステップアップ調査は、集団として(クラス単位など)ではなく、子ども1人ひとりの状況を見ており、見守りや支援を受けている子ども個人の状態や変化を見ることができます。 また、学習支援事業の対象児童を集団として捉えて変化を追うこともできますので、事業自体の効果が上がっているかどうかを見ることも可能です。
箕面市では、前述のシステム判定結果などを活用し、子ども成長見守り室が中心となって、放課後の学習支援や放課後の居場所づくりなど具体的な支援を進めています。また、それぞれの支援の有効性についても、随時同室が検証し、個別支援手法の見直し(子どもによって合う・合わないがある)や、施策そのものの見直し(より有効な手法の模索)を進めています。
「貧困の連鎖を断ち切る」ための課題と、国に求めたいこと
自治体での1つ目の課題は子ども「本人」に届く支援施策を実施することです。そのため、国には子どもへの支援施策への継続的な財源投入と「家庭」ではなく「子ども」に直接届く支援への転換をお願いしたい。と強い要望がありました。
2つ目の課題は、高等学校との情報共有です。高等学校との情報共有の仕組みの構築を市区町村単位で実施することは難しい状況です。例えば、都道府県教育委員会が市町村の要保護児童対策地域協議会に参加し、高校からの情報を市町村に提供できる仕組みをつくるなど、中学校卒業後の子どもたちを市町村がフォローできる仕組みを国が先導して確立してほしい。という提言がありました。
また3つ目として、幼児の非認知能力を測る手法が確立されておらず、就学前からの有効な支援施策が模索できていないという課題です。貧困家庭の子どもに、幼児期から支援を行うため、幼児の非認知能力の測定手法について研究を進め、幼児期からの支援を促進する必要があるという提言も、まさにその通りです。
あるべき姿から考えてスタートされ、子どもに関わることを教育委員会へ一元化するなど困難の数々をまさに今乗り越えていただいている姿に感銘を受けました。教えていただいた仕組みを国の施策にどのように反映させていくことができるのか、国全体のレビューの中でどのように活かせるのかというような新たな宿題もいただきました。“こどもの命と安全を守るための仕組み”について、しっかりと前に進めて参ります。