2015.9.24
ロボット戦略にこだわる日本、世界に遅れ【第61回山田太郎ボイス】
山田太郎の製造業は高度な情報産業だ!vol.1
私は、総理の答弁に唖然とした。「製造業におけるITの活用は、日本が世界の中でも進んでいるというふうに認識をしています」。私が8月10日に行った参議院予算委員会での質疑の中の一コマだ。
日本のトップの製造業に対する認識がこの程度なのか?日本の製造業のIT活用の遅れは各種調査で指摘されている。今、ドイツの「インダストリー4.0」をはじめ、世界各国で国家主導の製造業のIT活用の巨大プロジェクトが進んでいる。日本は再びこの第四次産業革命に敗戦してしまうのか?
「インダストリー4.0」とは、元々はドイツ発祥のコンセプトで、機械の出現による第一次産業革命、石油の活用による第二次産業革命、コンピューターの活用による第三次産業革命につぐ、ITネットワークを活用した第四次産業革命のことだ。
IoT、ビックデータ、スマートファクトリー、モノカスタマイズ、プロトコル標準化、バリューチェーン統合、M2Mなどなどいずれも「インダストリー4.0」に含まれるキーワードだが、これらはどれも断片的にその特徴を捉えたものに過ぎない。「インダストリー4.0」の本質は、製品を実物としてのモノではなく、そのモノを作る前段階で情報として、QCDをコントロールすることにある。
「インダストリー4.0」がこれまでの製造業と比べて決定的に違うのが、モノづくりにおいてITネットワーク対応が前提となっている点だ。ここでいうネットワークとは、営業・生産などいち企業内で閉じたものではない。サプライチェーン上の他企業はもちろんのこと、顧客のニーズから設計・製造工程、顧客による利用までの一連の流れの中で生まれる情報をモノづくりのネットワークの中でやりとりし、下流工程だけでなく上流工程へもフィードバックをすることを意味する。もちろん、そのネットワークは単一商品だけでなく、複数の自社商品にまたがることもあるし、エンジニアリングチェーン上のパートナー企業、更には業界を超えることもある。
こういった、製造業が高度な情報産業へと進化する中で、従来日本が得意であったケイレツ内のカイゼン、または各業界での取り組みでは立ちゆかない所まできている。しかし、日本政府の取り組みは極めて遅れている。別表を見て欲しい。これは、冒頭の参議院予算委員会で安倍総理に質疑した際に使った資料だが、各国政府の具体的取り組みの事例だ。
ドイツのインダストリー4.0、アメリカのインダストリアルインターネット、中国の中国製造2025など大規模な予算をつけ各国が取り組みを強化する中で、日本のこの分野に関する取り組みは遅れている。日本が今後10年間の成長戦略「骨太戦略」で唯一掲げるのは「ロボット新戦略」。しかし、中身は、ロボット革命イニシアティブ協議会がある程度で、これらに対する2015年度の予算はついていない。予算があれば、うまくいくとは必ずしも思わないが、これが現在の日本政府の姿勢だろう。
その戦略名に「ロボット」が入っていること自体が、日本の認識の遅れを感じさせる。実際は既に、世界のロボットの主戦場は中国に移っている。ロボットの出荷台数は2013年に中国に抜かれ、稼働台数も来年には抜かれる予測が出ている。このことを念のため総理に指摘しておいた。
最後に、私は、各国に対抗できる日本の製造業の大きな戦略について問うた。
総理は、答弁用の紙を読みながら「産業用ロボット、日本はかっては進んでいたんですが、しかし、その後しばらく注目されていなかった。安倍政権においては再びここにスポットライトを浴びせまして…」
残念ながら、ロボットにこだわる総理からは日本の製造業復権の大きな戦略は最後まで聞けなかった。これが私が日本の製造業の戦略についてこれから連載しようと思った大きなきっかけである。
(オートメーション新聞 2015年9月16日号)